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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章23話 『人を捨てる』

「アアアアアア!」


 何度も何度も異形の腕を振り回し、声にならない叫び声を上げる。避けたはずの鎧は熱を帯び、一撃を貰った建物の残骸は、姿すら残らず燃えて塵と化す。あの人もどきが走ってきた足跡は、黒い炎を上げて地面をどんどん浸食していき、どんどんと地獄が産み出されていった。


「腕だけでこれ……」


 足を全力で踏み抜いて緊急に距離を取らないと、着地の事なんて考えていられない。だけど、ただ飛ぶだけじゃ、詰められる可能性がある……相手の全速力が分からない以上視界から消えるようにしないと。

 無造作に振り回される腕、それをあえて相手の視界を遮らせるように立ち回る。相手の動きを見た限り知性をある程度失っている可能性が高く、いままでのバンジャマンなら私は既に一撃を貰って死んでいるぐらい。皮肉だけど()()()()()対処で済ませられそうだ。


 相手の振りに合わせて逆に体重をかけ、一気に視界外まで飛ぶ速度を出す。勢いを殺す手段は強引になるが仕方ない。

 バンジャマンは見失った私へ関心を持たずに攻撃を続ける。私にすら興味が無い……というより振り回した腕で土煙が上がり、私が視界外へ飛んだ事すら理解していないようだ。

 全速力で横へ飛んだ勢いを殺す為に両手両足を地面に付けて減速。手足の軋みを感じながら、止まった頃には村の囲いから少し外れた森の中だ。


「あれをどうしたら……」


 私がいない事を知ったヒトモドキの化け物は手当たり次第に物を塵に変えていく――もはや人とは思えない声を上げながら。


「このまま放っておいても……」


 ここから逃げる手段もあるし、この暴れ方を見るに首都にも情報が回り始めて討伐されるとは思う。思うが……。


「私が、私が戦おうなんて言わなかったら……」


 募る後悔の心。あの時バンジャマンの言葉を飲まずに説得していれば、そもそも追っかけなくても良かったのではと、頭の中でもしもの物語が反響する。私は――、


『私が後悔したくないから、かな?――』


 ルールーさんの言葉が頭の中に光を照らす。過去を改まる事はあっても後悔をするな……ルールーさんの父親である先代の一言。そうだ、今過去を悔やんでもバンジャマンが止まる事はない。なら、今私が出来る全てを賭ける。


「ここまで来て手を差し伸べる事をやめたら、私が後悔する!」


 再度バンジャマンを止める事を決意する。だがとっかかりが無い上に暴れている以上、いつか見つかる時間制限も――。


「『いつでも心は冷静に、浮かれた心ほど盲目』……しっかり考えないと」


 時間制限だからと言って、思考を止めてはいけない。

 まずはバンジャマンの腕、あれの対処法だ。良く見ると、増えたほうの腕はあまり動いていない。一応元の腕と合わせて同じ動きをする程度には動くが、あれ単体が動いている事が無い。つまり、あれにまだ慣れていないか元の腕と動きが連結されているかの2択。いきなりバンジャマンが器用になる事はあの知性では無いはず。だから、あの増えた腕は攻撃範囲が広がった程度で認識しても良さそうだ。


 次に最大の障害になる、地面を這っている黒い炎。バンジャマンが人を外れて以降足跡と腕から発生しているが、あれが何なのかが全く検討が付かない。最初に見たのはバンジャマンが左右に作った魔術。あの時は地面一帯に黒い炎が走り、バンジャマンが地面へ腕を叩きつけたら黒い炎が付いていた地面()()が崩れていった。あれを本当は左右両方でやるつもりだった感じだったが、片側の紋様を壊した事で逃げ道が産まれた結果、私はまだ生きている。その後、あの炎を手に纏っていたバンジャマンは()()()()()()()()怪我を負った。その傷から黒い液体が流れ始めてあの形になり、以降傷の付いた左腕は黒い炎が常時燃えている状態。そして、あの腕に触れた建物の残骸は跡形も無く塵になった……。

 あの炎が分からない以上、あの腕に触れたら塵になると思って動く。有効そうな装備は月食草を付けたであろう矢。鎧や鉄製の装備も塵になるかは不明。ただ、触れてもいない腕に反応して鎧が熱を帯びた事を考えると、鉄等は関係無さそうだ。


「相手の能力は分かったけど、バンジャマンを助けるには……」


 本来の目的である、バンジャマンを元に戻す方法。確かにある程度の能力は整理できたが、それが救出に繋がるとは言えない。つまり、あれを制した上で何かをしないといけない……。

 その上、命を取らずに救う手段。それが何も無くて、私には知識が無い。


「でも、調べる時間は残されていない。なら……出来る手段を全部試す!」


 弓を構えて月食草の付いた矢を放つ。狙いは増えた腕、当たるかどうかは半々だし草が月食草ではない可能性もあるが、それでもこれで一つの仮説が立てられるはず――。

 当たった矢は何も音を出さずに塵になった。だが当たる箇所がおかしく、何というか()()()()()()()()()()()ような、変に奥へ刺さったような感じだった。

 刺さった箇所からは出血が確認されているが、血の色は黒でバンジャマンの腕から出た黒い液体と同じものだと認識出来る。

 魔力反応は無しで黒いもやも出ていないが、これは月食草じゃない可能性もあるので除外……。いくつか絞れたが――。


「死ネエエエェェェ!」


 当然、矢を放った事で私の位置はバレる。ここからは試しでやるしかない。金属も塵の例外じゃない以上、この手甲で左腕部分を殴る事は無理。組み技も同じ理由で無理とすると――、


「この体格差で殴り合い……」


 剣も使えない以上これしかないが、まずは全速力で突っ込んでくるバンジャマンに対処を行わないと。

 走ってくるバンジャマンに対して、私はあえてノーガードに構える。当然相手は私の意図は分からず大振りの左を振り回すが、避ける事に専念したので当たらずに空を切る。

 いままで私はバンジャマンの攻めに、相手の魔術警戒で私も立ち向かうよう攻め返していた。だけど今回は違う……相手には魔術を使えるほどの知性が残されていない以上、攻めてくる魔物と同じで猪突猛進になっている。なら、いくらかやり様がある――!


「『攻撃は小さくても充分』!」


 懐にあえて入らせたバンジャマンへコンパクトに打撃を与える。相手の左を最大限警戒しつつ、ガードは行わない。まだ拳を軽く撃つ程度の知性は残されているらしいが、フェイントらしいフェイントが無い。だけど、避けたはずの攻撃で私の下に来ていた皮鎧が少しずつ塵になり、鉄の鎧は熱を帯びてきている。近づいて攻撃を避けただけでこうなるのは計算外だ……。


「アアアアアアア!」


 突如として叫びだすバンジャマン。すると雄叫びと共に足元から黒い炎が再度走り出す。これは、あの時と同じ――。


「潰レロオオオオ!」

「――逃げ場はっ」


 この魔術が地面を砕いたものと同じなら。でも黒い炎はもう小さな村全部へ走りきっており、バンジャマンは第二段階である地面を叩く為の魔力を左腕に貯めている。走っても間に合わない以上、場所は――。


「上だ!」

「アアアアアアアア!」


 全力で足に力を入れて、真上に向かって力を放つ。浮いた身体はバンジャマンの左腕を掠めて舞い上がり、それと同時にバンジャマンの腕が振り下ろされ、村一面が砕け散る。地面が砕け散る衝撃と吹き上げた風は塵となった地面を砂へと変え、バンジャマンのいた場所には村と同じ大きさのクレーターが出来上がった。


「――馬鹿げた威力……」


 一撃で小さいとはいえ村を吹き飛ばしてクレーターが出来上がる威力……。あまりの威力に言葉を失いそうになるが、私は今空中にいるのでそんな事思っている場合ではない。

 バンジャマンの左腕を掠めた部分は私の右肩で、丁度鉄製の鎧で補強されている箇所。だが、既に塵と化している。


「マダダアアアア!」


 その声と共に下からは多数の紋様が浮かんでいく。あの紋様は裏を取られた際に使われた三日月型の刃を放つ紋様だが、それの数が異常――。


「同時に10個も作られてる……」


 矢による妨害は距離がありすぎて先に発動されてしまう以上、飛んできたあの刃に対処をすれば良いが……まだ、あれが金属で干渉出来るかが不明。


「でも、諦めるな――」


 紋様が完成し放たれる闇の刃。動いているものに対して弓を当てられるほど技量は無いが……矢で直接干渉出来るか確かめる。


「――っつぅ!」


 残っていた草付きの矢を8本全部持ち、飛んでくる刃に対して1本1本確かめていく。矢の6本は闇の刃に対して干渉できず、素通りした刃は私に突き刺さった。だけど、2本の矢だけは刃に対して金属音と共にはじき返せた。


「これならっ!」


 私に刺さった闇の刃は突き刺さった後に霧散して消えたが、刺さった箇所が塵に変わらない。これは、前にもこれを飛ばされた際に避けた先の木が塵に変わらなかった事から、受ける事前提の賭けをしたが……成功したようだ。

 2本の矢を左右に持ち、刃の波を掻い潜っていく。着地した先はバンジャマンが放ったあれの影響で土煙が大量に起きて見えないが、下に待機されていたら実質詰みだ。

 空中では姿勢を変える事はほとんど出来ない。木の魔物の際は浮いている時だったが、今はおちている時……槍を投げて少し浮かせるなんて芸当は出来ない。つまりは――、


「終ワリダアアアアア!」


 下で待機したバンジャマンの一撃を確実に貰う事になる。案の定私の落下地点に待機していたバンジャマンは、渾身の力を貯めて一撃を構えている。左の一発を貰った時点で負けなので、これを食らったら終わり……だが、避ける手段ももう無い……。


「ここで、終わり……か……」


 もう諦める。そう思った瞬間に全く別方向から鳴り響く破裂音。それと同時に白い線がバンジャマンの身体を貫き、左腕を振るう事がなくなったのでそのまま私も落下する。

 白い線が見えた事でギリギリ間に合った受け身、大分無茶な姿勢で普通の人間なら3回ぐらい死にそうだが、私なら無茶が利く……。そのままクレーターの中心へ転がっていくなかで、見知った声が聞こえ始める。


「おや? 何やら、とんでもない事態になっているようだねぇ……手を貸そうかい?」


 バンジャマンが不意打ちから立ち上がると共に土煙が収まり、見知った声はその姿を見せる。


「――ルールーさん!」

「ベタな事を言うけど……助けに来たよ、ベル君」


 バンジャマンを助けられる希望の可能性、その人物が現れた。

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