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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章22話 『vs魔術師』

 街の外、徒歩で走りぬけた先にあるボロボロの建物に、佇む1人の人物。太陽は既に赤黒く染まり、襲撃で燃え上がっていたこの村の様を見通せてしまうように赤く、私達を照らす。


「……お前が来るのか」

「死なれたら後味悪いもの」


 バンジャマンの手には空の容器が握られ、周囲には多数の血が滲んでいる。遅かったか……。


「お前が俺を求める理由がわからねぇが、前に負けた恨みだ」

「喧嘩する必要なんてないし、私はバンジャマンに用があるの」


それに今戦えばバンジャマンの身体が傷ついて、最悪死ぬ事になる。


「じゃあ、俺に勝ったらそれを教えてやるよ」

「馬鹿じゃないの? 今戦ったら、あなた自身の身体が壊れるんだよ?」

「構わない。元より人間を捨てる予定だ」


 人間を捨てる……? その言葉の意味が全く分からなかった。魔法使いのマルクも、魔術師のウィルも人間だったのに。


「何でそこまで――」

「お前には分からないだろうな! 最初から強くてお人好しだったお前には絶対に!」


 私が強い。そう言われても始めから強かったらあんな事は起こらなかったし、リナ姉の力になれたかもしれない。だからこそ、強くなろうと訓練を始めたし、色々学んだ。


「私だって最初から強いわけじゃない」

「それは強者の詭弁だ! この村だって弱かったから潰れた! 全部弱かったから死んだんだ!」


 言葉に滲む後悔の心。この村の昔は見た事は無いが、この崩壊した感じは多分バンジャマンは守ろうと……。そう思えば思うほど、この人は昔の私に似ている。役に立ちたい気持ちで足掻いて、強さを求めていた頃の私。でも、この人にはアリアさんやリナ姉みたいに手を差し伸べる人が周りにいなかった。だから、魔術に頼るしかなかった……。


「……分かった。勝ったら、言う事聞いてくれるんだね?」

「良いだろう! 俺の強さを認めさせてやる!」


 バンジャマンの行動を止めないと、人間を捨てるって事は私と同類の何かに変わってしまう。この人が何でここまで執着するのかも分かった。私の言葉に耳を貸さないのは私を上だと思っているから……そんな人間が下手に手を差し伸べても絶対にそれを受け取らない。だから、戦う。バンジャマンを助けられる手段が戦うしか無いなら、思いっきりぶん殴る。

 ――このどうしても捨てられないこの気持ちがお人好しなら、そうなのだろう。人じゃないけど。


「潰してやるよ! ベル=ウェンライト!」

「止めて上げるよ! バンジャマン=ヘイライン!」


 この言葉と共に私も相手も全力で懐に飛び込もうと走り出す。

 私もバンジャマンも共に近接戦闘が主な戦い方、でも相手には魔術があるのでそれを想定しつつ動かないと。お互いに近づいていくが相手の右拳には黒いもやが滲み、あの壁を頭に浮かべる。

 身長や体格的には相手が先手である程度考えて行動しているが、あの拳は初見で仕組みが分からない。殴る速度が異常なのか、硬度が異常なのか、それとも別の何かか、実際に見ない事には対策も何もない。


「オラァ!」


 私の身長が小さい以上、バンジャマンは攻撃を少し下に向けなければ当たらない。だけど、今回は私にも情報の優位がある。魔力が視えている事をバンジャマンは知らないからだ。つまり、魔力を込めた右拳が引っ掛けという可能性は無い。右手かつ振り降ろし気味になる想定でお互いに走りこんでいる状態。これだけ情報が揃えば、逃げ道は――。


「上っ!」

「――チィッ!」


 相手の踏み込みに合わせて私もタイミングを取り、飛ばしてきた攻撃全てを避けられる場所――相手を飛び越える選択を取る。イメージはあの木の魔物で出したあのジャンプ、あれを調整して人を飛び越える程度に力加減を落とし、相手の攻撃を掠める事もないようにひねりながら飛ぶ。

 飛びながら相手の放った攻撃を確認。速度は人のそれと変わらないが、威力が高い。地面を軽く砕き、ヒビ割れた地面は崩壊した建物の残骸を揺らす。それは、腕が硬化されたか、威力が魔術でいじられたかを意味する。


「お前が強いのは想定済みだ!」


 ――私の油断から出来た見落とし、飛び越えた背中には既に紋様を描いた魔術が線を繋げ切っていた。


「な――っ!」


 避けられる事をバンジャマンは想定した上で、私が背後に立つ事も予測された。黒いもやが繋がった途端に放たれる黒い刃。それはバンジャマンの影から飛び出した鋭利な刃で、多数の細かな三日月のようなものが飛来する。ただ、スピードはまだ対応出来る速度。飛んだままの勢いなら当たる前には木の裏へ隠れられる。あの刃が木を貫かない事前提だが。

 問題は、木の魔物で起こった着地。勢いが強すぎてスピードを殺しきれずに3度ほど身体から地面へ跳ね飛んだ。飛ぶ威力を抑えたとはいえ、このまま勢いを上げたらバランスを崩しかねない。着地は可能だが、その上でどう動くか……。

 体勢を低くしながら民家の跡地に突っ込み、腕を木にあえてぶつけて腕を軸に横へ急旋回。闇の刃は後ろ髪を僅かに掠め、木に付き刺さって行く――。


「危なかった――」


 だが、バンジャマンは続けて2つの紋様を左右に浮かべて追撃の準備をしている。


「まだだ!」


 背中の簡易的な紋様と違って、こっちは複雑な紋様を描いている。簡易的であの闇の刃なら、複雑なあれは撃たせたら不味い類の物。民家の裏で隠れているとはいえ、何とか撃たせる前に消したいが私には魔力が無い以上、あれに干渉出来る余地が無い。加えてルールーさんのような装備も――急造になるが一つ薄い可能性があった。


「この弓……」


 思い浮かべるは月食草。あの日記では月食草も使っていた……。そしてバンジャマンのなりたかった強さは多分魔法使い。つまり、最初に空となった薬品は魔力に関連する何かであると推測可能。

 そして、薬学。薬はあまり分からないが、月食草は回復薬に使われる物だとあの依頼書には書いている。身体に作用する物で、回復薬に使われる……少量とはいえ魔力を纏っている可能性がある。

 加えて、私は月食草を取ってから、そのままの状態でバンジャマンへの戦闘まだ行っている。なら、まだ身体に付いている月食草が残っているかもしれない。


「――あった」


 手甲の内側に挟まっていた草を見つけ、それを矢に巻きつけていく。この草が月食草である判別は月明かりが出てない今は無理。だから、これは賭け。


『――正しく指で描けなければ水は漏れていくよね?』


 巻き付けていきながら思い出すのはルールーさんの言葉。これは逆を言えば、正しく書かせない様に魔力を乱せば魔術を止められる。


「ずっと隠れてると全部吹き飛ばすぞ!」


 挟まっていた草で出来た矢は10本。紋様は更に円形になっていき、それは魔術の完成を予見させる。弓は苦手だが、初撃は狙える時間がある……。小さな隠れ場所だが私の完全な位置はまだバレていない分、相手は私が左右のいずれかから出てくるかさっき見せた跳躍で上という3択に絞られているはず。そこから1択まで絞るのは絶対に無理だ。


「弓を引き絞って……」


 狙う部分は紋様の中心。少し乱せればそれで相手の魔術は瓦解するはず。

 放った矢は狙い通り紋様の中央へ飛び、それを貫く。その途端に、もやが煙のように霧散して消えていった。狙いは成功だが、草の全部が月食草である理屈ではない。何本か効かない前提で立ち回る――!


「く――……そういう事か」


 耳を澄まして相手の動向も伺っていくが、どうやら私の目の事はバレたみたいだ。流石にバンジャマンを狙わず紋様を直線で撃ち抜いたらそうなるか。

 右肩にある紋様は撃ち抜いたが左肩にある残りが光り、黒色の炎が床一面を包み込む。


「不味い――っ!」

「吹き飛べぇ!」


 魔術と共に腕に絡み付いた黒い炎は、腕の振り降ろしと共に爆発的な破壊を及ぼす。地面に張った炎を第一段階として範囲決定、腕を振り下ろして一斉に破壊といった所だが、片側の紋様を壊した事で避ける範囲が生まれた。


「クソッ!」


 撒きついた炎はバンジャマンの腕を焼き、馬車の時に見た傷を付ける。あの時ボロボロだったのはこれか……。


「それ以上はヤメ――」

「うるせぇ! 黙れ! 俺の相手をしろ!」


 流石に出血量を見て止めようとするが、相手の反感を買ってしまう。すると、ボロボロの腕から黒い液体が流れではじめる。


「あ、ガ――」


 その液体は腕からバンジャマンの口元にかけて包み込み、腕とは思えない形をとっていく。


「俺ト戦エエエエエ!」


 少しずつ目の前で化け物が作られていく。包み込んだ腕は左の胸で止まり、顔も半分が黒く染まった。腕は2つに分かれ、左側だけ2本ある異形の形態。声は2重に聞こえる不思議な状態で、左目は真っ赤に染まった。人を捨てるとは言ったが、ここまでか……


「死ネェエエエエエエ!」


 異形となったバンジャマンは走りこんでくる。望まぬ第二試合が始まった――。

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