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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章21話 『人探し』

 黒点の大体近くまで来た私は、事前にルールーさんが作っていた地図を模写した物を広げ、そこに書いてある黒点の位置を確認する。

 酒場から一番近くにあった点の位置は、依頼を受けた路地裏の近く。これといった建物は無いが、少しの広間のような場所だ。


「ここには……いないか」


 だが足を運んでみても誰もおらず、何かが壊れたような跡が残っているだけだった。

 壊れた箇所は中心からヒビが入っており、何かをぶつけた結果入ったものだと分かる。そして、地面にはバンジャマンが描いていたであろう術式が多数存在していた。


「……ここで、練習をしていた」


 導き出される答えは魔術の初歩をここで行った。じゃあこのヒビは魔術……? いや、ここまで物理的に出来る魔術は……。


「これは、拳の跡?」


 壁の亀裂をよく見ると、中心はボロボロだが微かに拳の形を取っていた。壁を殴ってここまでの威力を人が出せる? 少し現実的ではない。私なら行けるだろうけどここまで硬い物を殴ったら血が出るのに、その痕跡すら存在しない……体内に魔力を取り込む無茶な行為もここへ繋がる? でも、肝心の魔術はどうなるのか。魔力に指示を下して別の事柄へ変換させるのが魔法や魔術なら、ただ拳に纏わせても意味はない。かと言って人の皮膚を硬化させるような人体へ影響を及ぼす魔術が果たして存在するのか。下手をしたら身体が弾け飛びそうだが、


「あーもう! 魔術を何も学んでこなかった私が嫌になる!」


 過程や可能性として0ではない以上、それを肯定も否定もする知識がないのが悔やまれる。こういった知識もリナ姉から教わっておけば良かったが、今更思ってもしょうがない。


「よし! いないから次!」


 後悔で煮詰まってくる私に言い聞かせるように地図を広げ、次の黒点へ足を運ばせる。

 2つ目の黒点は少し寂れた公園のような広場で、中央には大きな十字架の立つ墓標の役割も持っている。死んだ人はここに埋められ共同で供養もしているが、それもあって人が寄りつかない広間になってしまった。


「おい。お前は例の新人だな」


 お墓へ祈りを捧げていたら、唐突に良く分からない人に絡まれた。バンジャマンではないその人物は、顔を鉄の兜で隠した騎士のような格好をしている。王国の人……? そう思わせるぐらいには鎧もしっかり手入れをされていて、立ち姿だけで訓練されたものだと分かるぐらいだ。礼儀はなっていないけど。


「誰ですか?」

「あの酒場のマスターに気にいられたからって、良い気になるんじゃねぇ!」


 因縁を付けられた上で手に持っていた槍をいきなりこちらへ振り回し、明らかに鞘から抜かれた槍の一撃はこちらの胸当てを掠め、甲高い音と火花が飛び散る。


「危な――何をするの! 殺しはダメって冒険者なら分かるでしょ!」

「俺は王国の人間だ! だから何をやっても――」

「国の人間はその兜じゃなくて違う兜を付けてるよ?」


 顔を覆う兜はこの国では採用されていないのは、あの時ナーシサスで戦った兵士と見比べたら分かる。この国の装備はある程度支給されており、冒険者じゃない国へ属する人間はその装備を使用する。それはナーシサスや首都以外の国でも例外ではなく、兵士全員分の装備をしっかりと整える事で街を守るようになっている8年前の大襲撃から学んで行った国の対策だ。だからこそ、国の人間だと分かるように装備は()()()()()で、この兵士もどきが付けている兜は存在しない事を意味している。


「兵士の装備は同じなのに、その兜だけ違うのは違反なんじゃない?」

「――チッ! 死ねぇ!」


 図星を突かれて逆上した兵士もどきは、手に持っていた槍を何度も振り回す。ただその振りは素人のそれと同じで、容易に懐へ潜りこめる。


「国や酒場へ罪をなすりつけようとして、そうまでして私を殺したい理由は何?」

「あ、ああああああああああ」


 腕を取って相手の槍を弾き飛ばし、その上で相手を後ろ手に拘束したのだが、途端に力が強くなり自分の腕ごと投げ飛ばされる。無茶な事をした結果相手の肩が外れる音がしたのだが、全く気にしていないような素振りと、獣のような狂気を纏った目に恐怖を覚える。まるで自分の命を全く見ずに自爆したあの兵士のような、そんな目でこちらへ殺意を向けだした。


「殺す……ジェフ様の為にぃ……」


 半ば人を捨てたような奴が放った単語、ジェフ。この狂気を起こした人物なのだろうか。


「何事だ!」

「何をしている!」


 本物の兵士が事の大きさを見てこちらへ走り出す。だけど、これは――。


「ダメ! 離れて!」


 あの兵士もどきの槍は素人でも下手と呼べる部類で、不意打ちの一撃ですら掠める程度にしかならなかった。事実あの槍の初撃、私は躱そうとしたが動いていない。あの兵士もどきが勝手に外しただけで、だからこその違和感。

 王国や酒場へなすりつけつつ私を殺そうとするなら、もっと槍の上手い人間を出してくるはずなのに、この人がわざわざ私への警戒心を消そうと国の装備を付けた理由とかみ合わない。村人のフリをして毒物を盛ったりした方が手っ取り早いのに、それをしなかった理由……ナーシサスの時に思った疑問と重ね合わせると浮かぶ可能性。

 もし、あの時の兵士が国の装備を盗んでいて、それをこの人が装備して居るとしたら――。


「ジェフ様ばんざああああああい!」


 あの鎧が、爆発物を隠すものだとしたら――。


「間に合えっ!」


 この声と共に炸裂音が周囲へ鳴り響く。私の声を聞いて立ち止まった兵士達とは逆に走り出した私は、怪我の許されない中で選んだ一つの逃げ道に飛び込む。それは共同のお墓にある十字架、その裏側。

 弾け飛ぶ人の欠片と鎧の破片が周囲を傷つけつつ、耳を飛ばすほどの轟音が収まる時には周囲に赤色をぶちまけたような跡が残るだけだった。


「そこのお嬢さん! 大丈夫ですかー!」


 爆発が収まったのを見て兵士二人がこちらの安否を確認しに近づいてくる。通常なら駆け寄りたい所だけど、私に怪我が無いかを確かめないとバレてしまう。なので手足を確認するが、鎧が一部汚れた程度で無傷のようだ。


「こっちは大丈夫ですー!」


 傷が無い事に一安心して兵士へ駆け寄る。


「一体何があったんです?」

「私にもさっぱり……兵士の姿をしながら襲ってきて、最終的にはこうなって……」


 事実、ジェフなんて言葉は知らないし、あの人の顔も兜に覆われて全く分からなかった。ただ、目だけが鎧の隙間から見えただけ。


「なるほど……貴方は冒険者なんです?」

「はい。一応はそうなんですけど、用事もあって……」


 この騒動でバンジャマンがどこかへ行くかも知れない。情報を持っている彼を逃したくはないのだが。


「分かりました。事情は後で聞きますので、今は離れてもらっても大丈夫です」


 2人の内1人は、私が冒険者という事を告げた際に何処かへ行った。多分、酒場へコンタクトを取っているのだろう。後で酒場に寄って色々と話さないと……。


 兵士と別れた私は3つ目の黒点へ向かっていく。ただ、前のような事がないように細心の注意を払いながら。

 3つ目は首都のユグドラシルが生えているお城、その近くにある小さな家。冒険者としてシャードをある程度持っていたバンジャマンが借りた昔の家なのだが、家へ滅多に寄らなかった事もあって、ちょっと崩れかかっている。本人も宿屋に荷物を置いている為に家を持っているだけの廃墟のような状態だ。


「もし、バンジャマンがあれを仕掛けてきたのだったら……」


 家の前まで行く道中に考える事は、さっきの爆発。ジェフという言葉は考えうる限りでは人名っぽそうなのだが、不確定要素が多すぎて何も分かっていない。ただ、バンジャマンを追っていた私へ向けた殺意が、どうしてもバンジャマンへの疑惑に変わってしまう。


「あそこが人の集まらない場所だったから良かったけど……今度は警戒しないと」


 家まで到着し、しっかりと気を引き締めなおす。もし、バンジャマンが敵ならここで何か仕掛けられてもおかしくは無い。


「おじゃましまーす……」


 家の扉は既に取れて容易に中へ入れるが、それでも少し気が引ける。廃墟化した建物とはいえ、やっている事は無断で人の家に入っていく行為だから。一応ルールーさんが作った地図の点には『入っても良いよ』って追加で書いてはいるが、ルールーさんだからなぁ……。


「……ある程度綺麗にしてる……」


 廃墟の外見とは裏腹に、見えない位置は人の入った跡として綺麗にされている。ただ、外から見えない部分からだけ綺麗なのが、廃墟にして何かを隠しているような、そんなように見えた。


「うーん……何も無い」


 綺麗にしているが物がほとんどなく、人の出入りとは相反する物の量におかしさを感じてしまう。


「何か……ある?」


 ふと、何かを引き摺った跡のような物が見つかった。この物の量と妙な綺麗さ、何か隠し部屋が……。そう思いながら床を叩いていくと、ほんの一部の床の音だけが違うものだった。この音はナーシサスのあの空間みたいに、中で響く空洞の音……。


「やっぱりあったか」


 その一部の床を引き剥がそうと剣を突き刺すと床が初めから緩んでおり、容易に引き剥がせる。それはここから隠し部屋に行ける事の現れだった。剥がされた先には階段が続いており、地下へ向かうと多数の落書きと本棚が多数ある部屋へとたどり着く。


「ここは……」


 最初にあった広場の落書きに似ている上に、しっかりとした本が多数存在している。多分ここで研究して、外で試しているんだろう。

 そう思いながらぱっと適当に取った1冊の本を開く。そこにはかなりの量の研究が書かれており、この本はバンジャマンの日記だと伺える。


「まさか、これ全部バンジャマンの……」


 本棚にあるものを何冊か開くが、そのどれもが研究成果が描かれたもので、魔術の記した本ではないのが分かる。また、日記の中には依頼で拾っていた月食草を使ったものも書かれており、魔術の他に薬を作っていた事も匂わせてしまう。


「薬に魔術、肉体が傷つく事をあえてやっていた……」


 魔術の初歩は確実に終わらせている。じゃなきゃ、魔術は使えないのはルールーさんの言い方から察する事は可能。その上で、自分自身に魔力をあえて通しているのと、魔術も肉体を通している物を使っていた事、そしてこの薬……。多分バンジャマンは――、


「魔法使いになろうとしている」


 体内の魔力容量が問題なら、慣らしたり薬で増強すればなれる。そういう考えの元でこういう行為を繰り返しているのか……。でも、あの態度から察するにバンジャマンの研究は何も成果を出していない。そうやって無茶を更に後押しすると待っているのは、死。

 また、この日記が一番新しいものだったらしく、一番最後のページには一言『全て整った』と書かれていた。周囲を見渡すと明らかに素材の中で無くなっている部分がいくつかあり、薬を作ったであろうかまどには熱がまだ残っていた。


「――急がないとっ!」


 目的が分かったので、最後の黒点まで急ぐ。その場所は首都から少し外れた地図にもう乗っていない村。8年前の大襲撃の被害で首都に合併された名も無き村の跡地。バンジャマンはそこの出身で、もし薬を飲むならきっとそこにいるだろうし、話せなくなったら情報が無くなる……そう心に言い聞かせながら。

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