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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章19話 『魔術』

 馬車に揺られて無言の空間。馬車の揺れで光がたまに差すような、そんな光にしか注目する所がないような、嫌な無音。その静寂がしばらく続き、首都の目印ユグドラシルが微かに見え始めた頃に、無音だった空間をルールーさんが口を開く。


「……何で、バンジャマン君はあそこにいたんだい?」


 それでも、無言を貫くバンジャマン。何も言わずに、手に持っていた謎の本を隠し続けている。


「言うつもりがないなら良いけど、今の状況だとあの魔物をけしかけてきたのは君って事になるよ?」

「それは違う! 俺があんな魔術出来るわけが――」

「やっぱりその本は魔術の本なんだね」


 ついうっかり口を滑らせたバンジャマンが、バツの悪そうに顔を逸らす。


「別に魔術を使う事自体に問題はないよ。だけど、君の身体が魔術の反動でボロボロになってるのは見過ごせないよ」

「反動? 魔術に反動とか無さそうだけど……」

「それがあるんだよベル君。大体は使用方法を間違っているか、魔術の初歩が出来ていないかの二択なんだけどね」


 無言で黙るバンジャマンを尻目に、ルールーさんは説明を続ける。その顔は若干怒っているようで、バンジャマンが身を削っていってる事を叱っているようにも感じた。


「使用方法が間違っているのは説明しなくても何となく分かるとは思うんだけど、バンジャマン君の場合は、魔術の初歩が出来ていない方だねぇ。ところで、魔術がどういう物かはベル君は分かるかい?」

「大気の魔力を扱って魔法と同等の結果をだす物?」

「大体はその通りだよ。でも、大気の魔力なんてものを仮に操れたとしたら、その人物は魔法使いよりも上の存在になるとは思わないかい?」


 考えていた事がなかった問題。魔法使いが体内で行う行為を魔術師は大気で行える……それなら、一人の人間の魔力より世界に及ぶ大気の方が多いのは誰でも分かる事。


「……つまり、魔術師には何かしらの制限がある?」

「そういう事だよベル君。私も魔術は少し学んだ事があるから分かるんだけど、大気の魔力を操る為に自身の少ない魔力を使わないといけないんだ。それが制限に繋がる」

「どういう事?」


 私は魔術をウィルに軽く教えてもらう事しかしてきていないので、制限という意味が分からなかった。だけどバンジャマンは言いたい事が分かっているそうで、機嫌が更に悪くなりながら顔はそむけている。


「簡単に例えるなら、土に線を描いて水を流す感じかな。水は大気の魔力で線を描く指は自分の魔力。自身の指で土に線を描けば水はその線に入って指の描いた通りの物が作られる。だけど、水の量が多すぎたり、正しく指で描けなければ水は漏れていくよね?」

「うん。でも、それが何で自分の身を削る事になるの?」

「指と水で例えたけど、どっちも魔力には変わらないからだよ。指程度にしか魔力が無い人に大量の水……大気の魔力が飛んできたら、身体が耐えられなくて自らの身を壊し始めるんだ。バンジャマン君みたいにね」


説明を受けても、良く理解出来ていない私がいる。それは、この説明通りなら人は魔力を大量に浴びている事になるからだ。空気中に魔力は存在しているはず、なのに魔術師だけが何でこうなるのか。魔力酔いという物で一般人のアリアさんも強い魔力を浴びているのにも関わらず、バンジャマンのようにここまで身体に傷がつくのはおかしい。


「でも、魔力酔いを起こした知り合いはこんなに身体が壊れる事はなかったよ?」

「それは『魔力容量』を説明しないといけないね。人は皆『魔力容量』を持っていて、ほとんどの人はこれに蓋をしているような状態なんだよ。だから強い魔力の残滓に入っても体調不良――魔力酔いで済むんだけど、魔術を扱う者はこの蓋を開けている。魔力を水で例えてたよね? 蓋を閉じた壷と蓋を開けた壷に水を投げ入れ続けたらどっちが溢れるか、もう言わなくても分かるでしょ?」

「その蓋を開ける手段が、ルールーさんが言っていた魔術の初歩?」

「そういう事だよベル君」


 魔力容量。マルクから聞き出せなかった事柄を聞きだし、頭の中へ入れていく。人が皆魔力を持っているのは、この魔力容量を持っているからで間違いない。だけど、蓋を閉じていたとしても魔力酔いをするなら、過度に魔力を浴びせたら一般人でも同じような事が起こる可能性もある。それに、まだ制限については聞けていない。


「まぁ、魔術の知識は本で学んだ程度だからそれ以外あまり分からないんだけどねぇ」

「ルールーさん。制限についてまだ聞けてないんだけど」

「あーそうだったね。制限って言うのは指1本で描き続ける時間の事だよ。大気の魔力は常に少しずつあって、その中で自分の魔力を使い、へこみを作って大気の魔力を集めるんだ。そうするとへこみを作っている自身の魔力は常に大気の魔力の影響を受け続ける。蓋を開けた状態で常に魔力に触れていたら、ちょっとずつ魔力が身体に入っていく、乾いた土に染み込んでいくみたいにね。だから、身体への影響が出ない程度に留める。これが制限」


 つまり、身体への影響が出ない程度まで魔術を扱える時間という所か。馬車の隙間からハイドランジアが見えてきたが、気にせず続ける。


「そして、魔術の初歩なんだけど……バンジャマン君の傷を見るに、君は蓋を開けた上で魔力を取りこんでいるね?」


 その質問に押し黙っていくバンジャマン。


「黙るって事は私の推測が正しいって事になるよ? 魔力容量がない人が体内に魔力を取りこんでいったらどうなるか君も分かるでしょ?」


 バンジャマンの傷は、故意的に身体へ魔力を取りこんだ事による弊害。さっきの説明通りなら魔力容量を越えたものは自分自身を傷つけている。でも、魔力を集められているって事は魔術の初歩は終わっている……?


「うるせぇよ。俺が何やろうと俺の自由だ」

「自由なのは構わないけど、そうやってボロボロの自由に何があると言うのかい?」

「黙れよ! お前らみたいな強い人間には俺みたいな凡人の事なんて分からな――」

「――喧嘩している所悪いけど、ハイドランジアに着いたぞ。続きをやるなら馬車を降りろ」


 気付けば首都に着き、少し怒った表情の馬車の主は私達を降ろさせる。だけどバンジャマンは姿をくらまそうと一人で動き、その姿を追いかけようにもルールーさんに止められた。


「……今ベル君が行っても余計な事になるよ。無論、私が行ってもね」

「でも、あのまま放っておいたらあの人は――」

「――多分、死ぬだろうね。でも、私やベル君を上に見て、それに足掻こうとしている人に対して私達が言える事はない。事実、あの馬車でバンジャマン君は何も言う事を聞かなかったよね? 理屈を分かった上で……。だから、今は放っておくしかない」


 冷静に、そして冷酷に物事を判断しないと、今私達が行っても何も起こらない。でも、バンジャマンは今後も無茶な魔術を続ける。それは、死にに行くのを見るしか出来ないのと同じだ。


「……私が助けるのは分かるけど、どうして君はバンジャマン君を助けたいと思っているの? 君にとってはバンジャマン君はただ喧嘩を挑んできた奴でしかないだろう?」


 私にも分からないが、助けないといけない気がする。あの人は魔術の本を持っていた、それは手掛かりになるかもしれないが、この理由は私の頭が作った後付けだ。


「はぁ……全く、ベル君も私の言う事を聞かないなぁ。これだけ言ってもまだ行こうとしている」

「それは――」

「別に行く事自体は構わないさ。でも、まず先に依頼を終わらせようよ」


 そういえば、依頼があった。


「忘れてた。先に酒場へ行かないと」

「監視がまだ続いているかどうかも確かめないとね、ベル君」

「あ――」


 ルールーさんが付き添っている理由も、全部忘れていた。


「考え込みすぎて目の前が見えなくなるのは、悪い癖だよベル君」

「……前にも知り合いに言われた」

「だろうね」


 そう話ながら、酒場へ依頼をおわらせに歩く。バンジャマンを説得する方法を考えながら。

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