第一章18話 『集合体』
ほんの少し日が登り、月食草がいつもの緑色へ戻り始めていく。そんな中巨大な木の魔物と相対する私は、木の枝をいくら切っても魔物が平然としていることに気付く。
「ルールーさん! あれの本体って何?」
「私にもまだ分からない! あのタイプは面倒くささに輪をかけて弱点が移動する特性を持っている!」
そう言われてちょっと前に起こったあのタイプの魔物を頭に浮かべる。あの時の本体が身体全体を移動していると考えれば……面倒くささが分かってしまった。
「でも、私はどちらかと言うと近接戦闘っ!」
避ける動きから反転して、木の魔物への突撃。勝算はあるが、私の立ち回り次第だ。今こそ機械の身体を試す時――。
走りながら上半身をある程度リラックスさせ、四方八方からの攻撃に備える。この魔物は1発の威力はそこまでないが、多数の枝から大量の攻撃を一度に行っていた。その上、
「ベル君! 攻撃は極力避けて! あの果実が全身に回っているから!」
と、ルールーさんからの忠告もありかすり傷も受けられない状況。あの瘴気でも剣には何も変哲が無かった事から金属製の私は大丈夫なのだが、問題は私の皮部分。なので、忠告どおりに避ける事に専念。
近づけば近づくほどに攻撃は私の方向へ飛んでくる。多分本体が眠っている木の幹部分から遠ざけるように攻撃も激しい。ある一定のラインから避けるだけで精一杯になり、近づけなくなってしまった。
「あれを試すなら攻撃の激しい今――」
私の怪力を隠す為の装備。それは、全力を出せる裏返し。攻撃が激しい今なら、思いっきりやれる。
私の頭を人間から切り替えて、人の理を外す。あの時は暗闇で、私が私を人間と認識していないから起こった事。なら、故意に意識してもいけるはず。
足まで意識を伸ばし、地面を壊すように踏み込む。すると視界が一瞬で変わり、青い空が一面に広がった。
「ベル君!?」
下からの声で私の場所を定めていく。さっきまでは地面に立っていた私が、今は木よりも高い場所で空と共に見下ろしている。本来なら前へ走るはずの踏み込みが、力が強すぎて上にいってしまった。
「やば――」
更に、ただ真上に飛んでいれば良かったが、さっき行ったのは前へ行く為の物。つまりは――。
「何処行くのベル君ー!?」
完全に飛びすぎた。既に身体は木の魔物の近くまで飛んでいっているが、まだ落ちる気配が無い。地面に落ちるのは良いが、それまでルールーさん一人に攻撃が向くと攻撃を掠めてあの瘴気に蝕まれるかもしれない。それは嫌だ。
「これはどうしたら……いや、可能性はある」
この魔物を上から見た事で、少し見えたものがある。あれがもし木の本体であれば、上からの一撃で屠れる威力はある。
だけど、弓はぶれる上に威力が一定になる……。矢を直接投げても投げる際の風でなんらかの支障が出てしまう。なら、仕込み槍を――。
「狙いを定めて……」
空中で組み立てる時間はない。だから四分割の先端部分のみを投擲。あの上から見える真っ青な部分が本体なら。
「当たれっ!」
祈りのような言葉と共に全力で真下に投げる。反動で身体が少し浮き上がるが、関係ない。勢い良く投げた槍は重さが乗り、風を切る音を吹かせながら青い部分を貫くのが見えた。それと同時に飛びすぎた身体は高度を下げ、森の中へ投げられる。
「――っ!」
木の枝に視界が歪められ、咄嗟に手を顔に置いて守るものの、間髪入れずに身体への強い衝撃。落下の勢いが強すぎて身体が弾け、地面へ三度ほど打ち付けられる。そしてそのままの勢いで木へ正面衝突し、身体が木の形へ曲がった状態で止まった。
「ぅぇ……」
お腹への強い衝撃は同時に口から何かが飛び出そうな吐き気に変わり、何度も地面へ打ち付けられた視界は、波を打って正常じゃない事を身体に教え込んでいく。
「あの木は……どうなって……」
ふらつく身体を木で支え、跨いだ戦場を確認する。だがそこには、大量の血を流した木の魔物が暴れる勢いを増してルールーさんへ攻撃を向けていた。
「どうしてっ!」
あの一撃は確実に本体を貫いているはず。あの鮮血の量からもそれは確定。なのに、あの魔物は生き残って暴れているのは何で……。
「……」
視界の奥でルールーさんの口が動く。それと同時に右の腰から見知らぬ武器を取り出し、破裂音と共に何かを数発打ち出していた。
すると大量の鮮血を出していた木の魔物が唐突に止まり、木を中心に草原を赤く染める。
「ベル君ー! 大丈夫かいー?」
魔物が倒れた事を確認したルールーさんが、こちらへ駆け寄ってくる。視界の歪みも無くなり、身体もある程度まで動けるようになったので、私も槍を拾う為に近づいていく。
「ベル君。派手に吹き飛んで行ったけど、身体は本当に大丈夫かい?」
「大丈夫ではなかったんだけど、今はある程度戻ってきたから、大丈夫」
ルールーさんは地面から引っこ抜いた私の槍を渡して、何故この木が生き残っていたのかの理由を喋る。
「いやぁまさか、本体が複数あるなんてねぇ」
「そんな魔物がいるの?」
「目の前にいるでしょ。植物タイプの一番厄介な特性なんだよ。複数の魔物が繋がって一つの巨大な魔物を作り上げるんだ」
そう言いながら、巨大な木の魔物を大剣で分解していく。すると、本体である色がちがう部分が複数連なっており、その一部を剥ぎ取りながらルールーさんは続ける。
「私もここまでしっかりと繋がっているのは見た事ないんだけどねぇ。普通なら繋がったとしても別の魔物、片側を殺したら攻撃も半分くらいは止むんだ。なのにこいつは、それが無かった。見極めるまで大変だったよ」
解体していく魔物の中に、また別の本体も見つけていく。どうやら、この魔物は思った以上に複数体が絡み合っているらしい。
「でも、本質は最初のあれと変わらない。本体さえ潰せれば沈静化するんだけど、ベル君が貫いた所は威力で周りごと吹き飛ばしている。これで複数の本体を一撃で屠ってるんだよ」
衝撃で弾けた肉塊の一部を見せ、これが余波だけで潰した事を見せつけられる。解体を終えたルールーさんは大剣についた血を拭き取りながら核心を突く。
「ベル君の怪力は君の言えない部分。それで合ってるんだよね?」
流石にこれは隠し通せず、無言で頷くしかなかった。
「そうか、じゃあこれ以上は詮索しない。ベル君の怪力に助けられた所もあるしね?」
「だけど、倒そうと思えばルールーさんだって――」
「流石に無事では済まないよこんなの。少し前に見せた剣に魔力を込める奴も、溜まるまで時間がかかる上に、その間に攻撃を剣で防いだら魔力で私ごと吹き飛んでしまう。この銃で本体を狙い撃とうにも、見ての通り君が吹き飛ばさなかったら、弾が足りずに終わりだ」
銃は見た事あるのだが、ルールーさんの持っている銃は一般的なそれとは訳が違っている。どちらかと言えば、大剣に付いている物の方が私の知っている銃に近い。
「だから、本体を露出させてくれたからこの銃でトドメを刺せたんだ――ってあれ? 銃に興味があるのかい?」
「だって、形が私の知っている銃とは違うから……」
「あーそうだねぇ。ベル君が知っている銃は大剣にくっついたこっちをよく見るけど、こっちの小さいのも銃だよ」
小さいのも銃。理屈では分かるが、私でも分かるならとっくの昔にこの形も出てくるのでは? と一つ疑問が残る。
「考え込むって事は銃の事を知りたいと」
「あ、えーっと……もう癖がバレちゃってる……」
「でも、話は馬車で行こうか。まだ、依頼が終わってないからね。バンジャマン君! 君もそれで良いよね!」
唐突にバンジャマンの名前を叫ぶルールーさん。まさか、そんなわけが――。
「……よう」
「君も、馬車で話そうか」
そうやって出てきたのは手に持ったおかしな本を持ち、ボロボロの状態で自慢の体格を無くしたような痩せ細り方をしているバンジャマンの姿が、そこにはあった。
「なんで――」
「余計な詮索の前に、森を抜けるのが先だよ。ここでまた話を続けてこんなのにまた襲われたら、今度こそ誰か大きな怪我をする。バンジャマン君もそれで良いよね?」
「……おう」
こうして余計な拾い物を終えた私達は、森の外まで無事に抜ける事が出来た。もう外は立派な朝だ。




