第一章16話 『戦闘依頼』
いつもと変わらない酒場の人だかり、私もその中で掲示板を確認する。今回は装備を改めているので、戦闘用の依頼も可能。その中では――。
「『森の奥地にある回復薬の素材を採集してほしい』……これかなぁ……」
依頼内容はシンプルに森の奥に行ってとある種類の花を摘んで欲しいという物だが、森という事もあって魔物が多数いるのは明白。報酬も高く、この依頼の危険度も裏付けてくれる。だけど、
「薬も魔法使いの領域だったよね……」
思い出すはリナ姉の薬。確かあれも魔法使いが作ったとされた物。なら、これも魔法使いへ近づく一つの手段か。
「おや? 姿が変わったと思ったら、ベル君か」
後ろから聞きなれたルールーさんの声。そういえば、装備の新調した後の姿を見せてなかった。
「オーダーメイドした装備が届いたから、時間もあるしここに来たの」
「そうか、でも君の持っている依頼は……本当に大丈夫なの?」
手に持っていた物をルールーさんは見て心配そうな顔を覗かせる。戦っている姿はあの時以外に見せてない上でこの依頼の危険度は、私と不釣合いなのはすぐ分かる。事実、私もあまり魔物とは戦っている訳ではない。それでも、この依頼は貴重な手掛かりになりうるものかもしれないから。
「これで、大丈夫」
「……はぁ、そういえば、まだ監視が続いているんだよねぇ……」
酒場の運用とは関係無く置いていた装備を拾い、装備をし始めるルールーさん。もしかして、
「一緒に来るの?」
「まだ疑いが晴れてない以上仕方無いだろう? それに、個人的になるけど君が魔物と戦闘をしているのは見たいかなって……」
「そうやってサボりたいだけだろルールー」
ウォーレンさんが後ろから愚痴る。確かにルールーさんはこういう事務作業的な事は苦手そうだ。
「だってたまには身体を動かさないと鈍っちゃう」
「鈍っちゃう、じゃないんだよ。全く……無茶だけはするなよ」
そう言って受付まで戻っていくウォーレンさん。同時に、依頼の手続きを済ませる為に私も受付へ向かう。
「あの……良いの? ルールーさん連れて行っても」
「良いんだよ。俺達にルールーの代わりが勤まるんなら俺達が行くが、その依頼をみて気が変わった。俺達は戦闘要員じゃないからな」
少し筋肉が付いている細い腕で手続きを済ませながら語っていく。
「適材適所って奴さ。お前にはまだ疑いがかかっている以上、俺達も面倒くさいがやるしかないんだよ」
「疑いって聞くけど、何処が私を疑っているの?」
「前に聞いてなかったのか? 酒場は国を疑って国は酒場を疑う。って事は今酒場にいるお前に疑いをかける所は?」
――この国『ガーディッチ王国』。人が死んでいるのは分かるが、まさかここまで波紋が広がっているとは思わなかった。
「まぁでも、国もそこまでベルに疑いをかけている訳じゃないぞ。今の所カルラの所在に付いて全力を挙げている所だからな」
「それって、喋っちゃダメな奴じゃなかったっけ、ウォーレン?」
手続きを済ませたかどうか、ひょっこり私の後ろから顔を覗かせるルールーさん。そして、聞かれた事で物凄く焦っているウォーレンさん。まぁ言っちゃいけない理由はなんとなく分かるが。
「げ、今の内緒なベル! 理由は、あー理由も言っちゃダメな――」
「――酒場も国も立場としては冒険者や一般人に対して中立だから、一方の得になる事を言っちゃダメなんでしょ? それくらい私も分かってるよウォーレンさん」
「……取り越し苦労だったようだ。ほら、手続き終わったから早く行け!」
急がせるウォーレンさんに軽く手を振りながら、ルールーさんと一緒に酒場を出る。
今回の一件は『冒険者』である私と『一般人』であるカルラの容疑者が二人の状態。殺されたのは『冒険者』の男。冒険者は酒場へ、一般人は国へ繋がっているとすると、国であるカルラが酒場の男を殺した状況が生まれる。お互いに監視している立場上、片方への攻撃は侵略行為と思われても仕方がない。そういった事から私よりもカルラへ全力を挙げる。自分の身の潔白を証明する為に……と言ったところか。
「酒場も色々と、大変なんだね……」
「慣れたらこんなもんだよ」
こんな大事に慣れたらと言ってのけるのも何というか、流石だ。
「さて、森までは距離があるから馬車を使おうか」
「依頼主に会わなくていいの?」
「会うも何もこういった採取の依頼は、一度酒場へ渡して取って来た物が本物か確認するんだ。偽物を渡した上で依頼主に圧力をかけて無理やり報酬を受け取るなんて事が無いようにね。その上で酒場から採取した物が依頼主へ渡される。だから、そもそもこの依頼に依頼主の所在は書いてないんだ」
依頼の種類を始めて聞かされるが、これだと薬を作っている人まで辿り付けない。だけど受けた以上こなさないと、それに会える可能性もまだあるかもしれないし。
「おっちゃん、この馬車何処行き?」
「この馬車は『アイリス』行きだよ。乗っていくかい?」
「乗っていく。二人でね」
ルールーさんの言う所によれば、『アイリス』に近い森らしいが……そもそも『アイリス』がどんな所なのか知らないし、手元の依頼書にはそんな事どこにも書かれていない。
「『アイリス』行きで合ってるの?」
「こんなんでも、一応酒場のマスターなんだ。この国の事ぐらいは把握してるよ」
そう言って馬車へ乗り込む。まぁ、流石にこんな所でルールーさんが嘘を付く理由もない。
「二人とも乗ったかー? じゃあ行くぞー」
私達が乗り込んだ事を確認した馬車の主が慣れた手つきで走り出す。ここへ来た際の人とは違うおじいちゃんのような見た目の男性だが、スピードがあの人よりも早い。
「大丈夫かなぁ……」
「一応あの人も知ってる人だから大丈夫……って言いたいけど、この人の馬車は飛ばす癖が――」
「何か言ったか?」
言葉とは裏腹にどんどん加速していく馬車、それに反して揺れはそこまで大きくない。外をみるとあっという間に首都から離れていき、目的地に近づいていく。これなら、太陽が沈み切る前には到着しそうだ。
「おーい、二人ともこの森で降りるんじゃないのー?」
あっけらかんとした表情で馬車の主から目的地に到着した事を知らされる。確かに日が沈む前に着いた、着いたけど……。
「思った以上に、気持ち悪い……」
「いやぁまさかここまで飛ばすとは思わなかったよ……大丈夫かいベル君?」
スピードが速くても揺れが少なかったのは、馬車の改造もあるが首都周りが整備されていたからだ。それが首都から抜けた途端、揺れがとんでもない事になった上で、まさかスピードが更に上がるとは……。
「ほら、肩貸すよ?」
「ありがとうルールーさん……」
ルールーさんの肩に腕を回して降りる。あまりに振り回されて、流石に気持ちが悪くなった。機械でもこれはしんどい。
「それじゃ、この荷物を『アイリス』まで届けるから、またなー」
そう言って物凄い土煙を上げながら去っていく馬車。人が乗ってない事で更にスピードが上がっている……見ただけであの揺れを思い出してまた少し気持ち悪くなる。
「あんな馬車って走れるんだね……」
「あれでも昔よりマシになったんだよ? 昔は後ろの客なんて考えずに走って依頼前からボロボロになる冒険者がたくさんいたんだ……」
私の馬車酔いが落ち着くまで少し話をしながら、あの馬車の主の武勇伝を聞いていく。一度馬車を激しくさせすぎたせいで中の人が死んだとか、馬車を止める際に魔物を吹き飛ばしたとかの噂話に尾びれが付いたものばかりだが、あれを見てると本当なのではと思ってしまう。
「それって本当なの?」
「噂だと思いたいんだけど、あの人やりかねないから何とも言えないんだよねぇ」
――談笑を少し続け酔いが落ち着いた頃には、月が顔を覗かせていた。
「もう大丈夫かい?」
「酔いはもう大丈夫。それよりも時間が――」
この依頼の素材『月食草』は通常でも取れるのだが、普通の草と見分けが全く付かないのである特徴を頼りに拾わないと難しいものだ。その特徴は月の光を吸収する特性で、夜の間に来ると月の光を吸収してこの月食草だけが黒く染まる。なので、この草を採取する際には夜に来るのが良い。と依頼の紙に書いていたので余裕をもってこの時間に来たのだが、馬車酔いで時間を少し食ってしまった。
「時間は別に気にしなくて良いよ。この森に私は何度も来ているからねぇ……どの辺りにあの草が生えているかは分かっているよ」
「知っているの?」
「ここから魔物が沸く事が多いからねぇ。最初に出会った時も、返り血貰った時も、ここに来て警備してたんだよ。それでも危険の場所として伝わっているのは、この森が広くて私でも見切れない部分が出てしまうから。それだけ、ここに強力な魔物がいるのは頭に入れておいて。ベル君が油断なんてしないとは思うけど」
そう言って気を引き締めてくるルールーさん。だけどそんな事は――、
「危険な事は最初から分かっている。油断はしない」
「じゃあ問題ないね。ルートは最短、私が先頭を取るから後からついてきて。魔物は各自処理、まぁノープランって感じだけど良いかな?」
装備の最終確認の最中にルールーさんがここからの作戦を伝えてくる。作戦といっても、最短ルートらしいので走りぬけるぐらいの軽い作戦だろうけど。それでも、完全白紙の状態よりマシだ。
「問題ない」
「じゃあ、行こうか!」
そして、私達は森の中へ飛び込んだ。




