第一章14話 『一つの事件』
いつもの様に太陽の光で目覚めるが騒ぎの音があまり無く、この街には似合わない静かさがあった。
窓から外を見ると、光はまだ半円を描くぐらいにしか登っておらず、私が早過ぎた事を自覚させられる。
「早く起きすぎた……」
だがあまり眠くもなく、服を買いに行こうにもお店が空いていないので、軽く外へ出て気晴らしに向かう。
「やぁベル君、早いね」
酒場まで言ってみると、ルールーさんが未だに資料を片手に何かと照らし合わせていた。少し疲れているような表情を見せつつも、昨日の夜に見た難しい顔と変わらない。
「もしかして、寝てない?」
「色々あってねぇ……それにベル君にも関わる事だ」
声がいつになく真剣で、全く遊びのない真面目になっている。だけど、私自身に関しての心当たりが無い。あるとすれば――
「私が依頼を受けた少女の事ですか?」
「そうだね。とりあえず、人もまだ来ないだろうしゆっくり話そうか」
そう言って黒色の飲み物を手際良く二人分作っていく。元々自分が飲むつもりだったのかすぐに出来上がり、それを持って酒場の奥にある個室まで着いていった。
「さて、まず何から話そうか……」
「こういった個室に連れてこられたって事は私も疑われている?」
「あぁ。私個人としてはベル君は白だと思うんだけど、状況はそうも言ってられない。今朝男性の死体が発見された。身体の一部分が無い状態でね」
切迫した状態なのはルールーさんの真剣な表情から伝わってくるが、それと私が疑われる関係性が未だに分かっていない。今分かるのは、選択肢を間違えれば敵が増えるという事だけだ。
「――まずは、君の受けた依頼を確認する。君の受けた依頼は『人を探しています』という内容の依頼、これで間違いはないね?」
「はい。あの時は装備のオーダーメイドで戦闘を避ける為にこれを受けたよ」
「ふむ、では次――」
色々と思考を巡らせている中で始まる尋問、その中で私は違う事を考えてしまう。あまりに出来すぎてはいないか……そんな発想が脳裏をよぎる。私は冒険者になってまだ二日、その中であまりに私中心で事が起きすぎている。冒険者全体がそうだと言われればおしまいなのだが、それでも私に矢印が向きすぎているような……考えすぎなのか。
「その依頼内容と、ベル君が気になった所を教えてくれ。君は物分りの良いタイプだ、だから君自身の意見も欲しい」
「えっと、まずは路地裏へ行って――」
私はまず事の経緯を包み隠さず喋る。ルールーさんは信用するしないは別にして、味方にしておいて損はない人物だ。だからこそ、ここで嘘は味方にならない可能性もある。私自身が自動人形というそもそもの部分は流石に隠すが。
「――それで、酒場に戻ってきた感じだよ」
「それで、君の気になった点は?」
「まずは路地裏に似合わない服装」
髪色のせいでリナ姉の事を思い浮かべてしまうが、服装から雰囲気まで路地裏には似つかない。それは酷く違和感を覚えてしまい、なぜこの場所を選んだのか疑問に残る。言い換えれば治安の悪い所にお嬢様がいるような、いつでも襲ってくださいと身体に書いて歩いている様だった。
「確かにあの子には似つかない場所だ。それに、あんな子がいたら、私の頭に残っているはずだが、調べても名前すら出てこなかった」
「つまり、カルラは――」
「この街の人間じゃない」
この街の人間じゃないなら、何の目的で。
「他には何か気になる事は?」
「時折居なくなった事と、父親の事かな」
たまに居なくなった。最初は迷子かなと思っていたし、すぐに見つかった事もあって疑いはしなかった。だけど、ここまで揃ってくると浮いてくる疑惑。
父親も今の顔を知らないはずなのに、カルラの事を後ろ姿だけで判断していた。
「父親……もしかすると、この人物かい?」
そう言って、一枚の紙が出てきた。その紙は過去の誓約書のようで、その人もまた冒険者なのがうなずける証拠。だけどその紙に写された顔は、カルラが父親と呼んでいた顔と全く変わらない――まさか。
「そうだけど、まさかこの人が殺された……?」
「その通りだ。君への疑いも、それが理由」
父親が殺された、酒場としては疑うべきは私。真っ当な事なのだが、ルールーさんは私が白だと言ってくれている。つまり、疑うべきはカルラ。
「犯人はカルラ……」
「だろうね。事実、死亡報告を聞いた後に彼女の姿を見たものはいない」
でも、その事で一つ矛盾が出来る。私がカルラと別れたのはルールーさんと一度出会った後。なのに私が帰ってきた時にはルールーさん達は酒場で調べ物をしていた……。私から別れた瞬間に殺したとしても、発見報告が来るのはおそらく私が酒場へ来た後になる。ならあの時調べていたのは……。
「勘のいい君の事だ。私達が何故先に調べ物をしていたのか、気になっているんだろう?」
「えっ、いや……そうだね。私が疑われてるとしても、これを私に話す意味があまり無い。なんせ今の所私は、新人という立場を利用されただけの存在だから」
「……君が初めから狙われていたとしたら?」
私が狙われていた……理由は一つあるが、それはカルラが初めから私の正体を知っている事になる。それは無い、無いはず……。
「カルラとベル君に会った際にカルラは私を警戒した。実はあの時に、匂いがしたんだ。あの子供から物凄く強い血の匂い。カルラもその事に気づいたんだろうね、それで嫌われた」
「だけど、私が最初から狙われているという確証は――」
「あの時ベル君は私の方向を見ていたみたいだけど、カルラはずっと君を見ていたよ。君への期待感を持った目で、ずっと」
ルールーさんから明かされるカルラの行動は、全て私への興味――そんな事実を指している。
「だから、あの時言ったんだよ。君はまだ気付いていないんだ、って。あんな血の匂いしかしない子供に、無警戒で手を握っていたのは疑う要素だよ?」
少し諭したような口調で言われてしまう。私でも理由を知った上であの状況は、流石に私から疑うだろう。
「でも私を初めから狙うなら、何で路地裏で攻撃しなかったんだろう……」
狙われている事が分かったら更に深まる謎。私を狙うなら、攻撃できる二人きりの場所はいくらでもあったのに。手を握るのも妙になってしまう。わざわざ交友を深める理由も無い。
「君を殺す事は考えていないのかもしれない。うーん……ベル君に何か思い出させようとしている? 流石にこれは言い過ぎかな」
多分、それが本当の理由。ルールーさんが知らない、私が自動人形だという事をカルラが知っているならそれが通る。私の作られてからナーシサスまでのハリボテの記憶、その本当を彼女は握っていたのは確かだ。つまり私の目標は、カルラ。
「おっと、昨日の今日で何となく分かってはいたが、今更カルラに会おうと一人行動するのは良くないよ。私に話したとはいえ、君はまだ狙われているんだ」
「そんな事はしない。カルラがどこに行ったか分からないもの」
私の製作者の事や作られた意味等聞きたい事は山ほどあるが、行方不明を探せるほど私は優秀じゃない。
「じゃあ何を?」
「昨日言わなかった? 服を買いたいって」
「あー……言ってたねぇ。でも、私も君の事を監視しないと、立場もあるから……そうだ、一緒に行こうか?」
そう言って個室の扉を開ける。他の冒険者達には私の一部が伝えられているようで、怪しんだ目を向けられたが、特に気にしない。話し込んだ事で日は上り、酒場もいつもの賑わいに戻ったようだ。
やっぱり半ば人攫いのように引きずられながら、ウォーレンさんに後を任せようとする。
「ウォーレン! ベル君借りるよ!」
「えぇ……まぁ大丈夫だが、ベルを引き摺るのは止めな?」
「おおっと、ごめんごめん」
引き摺る手を離して、今度は手を握るように。
「じゃあ行こうか」
そうやって、エスコートされるようにルールーさんと二人で歩き出す……服屋にいくだけなのに。




