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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章9話 『格上』

 暗闇の空間を照らす人工の光が左右に揺れ、そこから伸びた影が私達の動きを映し出す。


「セイッ!」


 後ろではアリアさんが一撃で敵を仕留めて行く。


「逃すか――」

「行かせないっ!」


 私を避けて行こうとするリーダーを剣で止める。行かせないだけなら私にも可能、移動先へ剣を置いて相手の行動を阻害すれば良いだけ。

 そう油断した私へ一瞬の剣先が走り、躱したはずなのに、頬が軽く切れた。剣術の腕は確かとは聞いたがここまでやれるとは、まさか初動が見えないなんて。斬撃は見えないのは当然として、その前にある予備動作すらほとんど見えない。つまりは予備動作を見て躱す事が出来ない事を意味している。


「当てるつもりで切ったんだが、反応が良いな」

「……一応あのメイドさんに鍛えられたので」


 兵士は再度剣を鞘に収め、お互いに軽口を叩きながら相手の行動を窺う。挑発や言葉で時間を作りながら相手の隙を突く感じ、似てる……道理でやり辛いと思った。私と同じ考えながら戦うタイプ人だ。

 でも、こうして相手が警戒すればするほど、アリアさんへの時間稼ぎが出来る。だが、問題はあの兵士も私と同タイプという事。私が時間稼ぎをしているのは多分気付いている。その上で考えが及ばない所まで詰められたら終わり、かと言ってあの兵士と剣術という土俵で戦えば、100戦やって100戦負けるぐらいには絶望的。時間を稼ぐだけ稼いだ後にどうやって逃げるかを考えた方が早そうだ。


「どうしたの? 私を殺す算段が付いたんじゃないの?」

「言ってくれるなぁ、逃げる事を考えていたくせに」


 腹の探り合いをしながら、次の一手を考えなければ。時間稼ぎと逃走までバレているから、仕掛けるのは向こう側。アリアさんの気配は遠くになっている以上、こちらは仕掛けられる何かに対して行動を起こせれば良いが、何か動きを――、


「考えすぎるのは立派な隙だぜ?」


 一瞬意識が次の一手に寄った所を狙われ、懐まで入られる。ここはもう相手の間合い、あの兵士は抜刀術使い、相手の剣は再度鞘に入った状態なら今この状態で出すのは居合い。鞘の位置からして相手は右利き、抜刀術の時点で上段切りは無い。つまり下段からの切り上げか横。そして、今私は時間さえ稼げれば良い状況下でリナ姉を追いたい相手が狙うは一撃のはず。つまり首か心臓。ここまで予想を立てたら見えなくても対処は出来るが、カウンターは相手も想定しているはず。ここは避けに専念――。


「その命、貰った」


 瞬間的に放たれる首を両断する一撃。その攻撃自体は見えないが、タイミングと切る位置に山を張って足の力を抜き、そのままの体勢で落ちるようにしゃがむ。同時に、後ろ手で()()()()()に向かってトゲの付いた凶器を投げる。居合い切りは風を切り、私の髪の毛を揺らす。とりあえず一撃目は躱したが、二撃目は全く想定が付かない。なので――。


「なっ――灯りが」


 投げる狙いは灯りが付いていた光源。威力は無くても消せたら御の字。ここは洞窟、そして外は夜が深まっており、灯りを消せば当然視界を奪われる。私も見えなくなるが、相手の攻撃を避けられるならなんてこと無い。視界を奪って時間も稼ぎ、後は逃げるだけ――!


「クソッ! 汚ねぇぞ!」

「汚い上等! 最初から戦う気は無いよ!」


 と言ってもまだ光は残されており、影がチラつくが攻撃出来ない訳じゃ無い。それは相手にも通じる。先に走り出した私の方が早い上に、相手は鎧を着込んでいるので追いつく事は無いが、追いつかれたら死が待ちうける。あの避けは山勘が当たっただけで賭けでしか無かった以上、2度目は無理だ。


 全力で洞窟の光を辿って走るが、慣れない足場でもたつく。灯りがあるのに足元はこんなに見えないものなのか。洞窟の夜を舐めていたが、小さな段差につまづき、擦り傷が増えても足を止めない。

 後ろから迫る狂気に追い付いたら死を意味するからだ。あれの相手はまだ無理だ、そう思っていると後ろから金属を落とす音が聞こえ始める。音の原因は振り向かなくても想像は付く、鎧を脱ぎ捨てているだろう……。

 同時に全ての灯りが唐突に消え、出口までの道のりが真っ暗になった。足元は全く見えず、手元さえ満足に見えない程の暗さ、それでもほんの少しの月光がこの暗闇を救っている。


「やっと追い付いた」

「――くっ!」


 慣れない道に速度を上げる狂気、追い付かれるのは時間の問題だった。不味い、この間合いは――。


「遅い」


 二度目の抜刀術、最初の軌道が目に焼き付いた私はその位置に剣を置く。避ける事はもう無理だ、ならせめて威力は抑える。

 金属のぶつかり合う高い音と首筋にまで伝わる強い衝撃。だが、私の意識はあるし剣も折れていない、ギリギリで耐えられた。首に伝う水分が見えなくても鮮血だと分かるものの、痛みも無い。なら――、


「そこっ!」


 受け止めた先にある相手を掴み、下から突き上げるように喉元へ掌底を撃ち込む。寸前の所で相手の腕が伸び、私の肘を抑える事で止めようとするが、()()。その抑えた腕ごと思いっきり振り抜くと。浮き上がった相手は暗闇に消え、物が落ちるような音だけが響いた。


「え――」


 あまりにも軽すぎる手応えに、思わず戸惑いの声を上げてしまう。あの位置で止められたら力は込め辛いので、絶対に力比べは負けるはず。相手が飛んだとしたら着地する際に靴の音が聞こえるのに、さっきのはそのまま物が落下した際の音のような、そんな気がした。


「し、死ねぇ!」


 暗闇から聞こえる足音と共に現れる兵士。でもその姿はまるで、思いっきり投げ飛ばされたような擦り傷と切り傷が多く、口からは血が滲んでいる。動きも鈍い上に、私への恐怖心が見えている。


「――っつぅ!」


 だが兵士の剣術は衰えておらず、既に視界をほとんど無くした私は勘と僅かな影を頼りに剣を置いて防ぐ事しかできなかった。

 斬撃は何度も飛び、その度に赤く輝いた鉄片が高い音と共に弾ける。身体への強い衝撃は何度もあったが、そのどれも剣の置いた部分で起こる事から防げてはいると思う。見えないのに勘だけでも行けるものだ。


「何で……何でっ!」


 半狂乱な兵士の悲痛な声が洞窟を反響する。まるで、攻撃が通らない化け物をみたような、恐怖心も混じった声だった。そして攻撃を止めた兵士は尻込みをした後に、私から逃げていく。向こうから逃げるなら好都合なのだが、


「ひいぃ! 化け物!」


 逃げ台詞に頭を悩ませた。

 襲われないのは好都合なので、足元を見て洞窟に刺す月光を目指して歩いていく。この場所では何も見えないが、怪我はしているので治さないと。


「アリアさんやリナ姉は、もう大丈夫かな」


 既に先の心配をし始めるが、そもそもどうしてこんな事になったのか、気になっている事を思い出す。

 兵士は何故、こういった強行に出てしまったのか。理由は無限にありそうだし、情報がほとんど無しじゃ考える島も無い。それにリナ姉を狙う理由も分からないし、何かゴタゴタがあったのだろうか。


「分かんない事づくしだなぁ」


 取っ掛かる物が無いと歩きながら出口近くまで考え込んでいると、突然洞窟から火のつく火薬の匂いが漂い始めた。


「は? え?」


 いきなりの見覚え無い匂いに思考が止まる。

 いきなり何が始まるのか……周囲はまだ漆黒で染まっており、視力で判断する事はできない。それにこんな所でもし火薬を使った代表的な事を行ったら、兵士側も無事では済まない。

 だがその答えに反して、炎を灯した兵士がユラユラと歩いてきた


「化け物退治にはこういう事でもしないとなぁ!」


 私の事を化け物と蔑称し、大量の血を流しながら威嚇する兵士。私は化け物では無いのだが、()()()()()()()()事は神がかっていただけに、そこには強く口出しは出来ない。


「何をする気なの」

「全部ぶち壊すのさ」


 妙に冷静な兵士は己の松明を手から離し、大量の土煙を上げた戦場に大量の火薬をばら撒く。これは不味い、全力で逃走を始めるが全てが一瞬で飲み込まれ、熱に染まった空間は、爆音を上げて街へ轟いた。


 紅蓮の咆哮を上げた洞窟から弾き出されるように、林へ飛んでいく。木によって止まったが、背中が折れるような音とかなりの痛みが襲う。


「ぅ……ぁ……」


 おぼろげながら、ボロボロの肉体に鞭を打って立ち上がる。足か腕が吹き飛ばされるかと思ったが()()()()でしっかり歩けているのは奇跡だ。強い光と熱で視力は暫く霞んで見えないが、それでも歩けるなら一歩でも帰らないと。

 そう考えながら手探りで歩くと、視力が段々と戻ってきた。


「やっと……見え――っ!?」


 そうして見てしまった化け物の正体。

 山勘で攻撃を防いでいた訳じゃない。

 あの爆発で五体満足な訳もない。

 それ以上に歩ける訳も無い。

 そしてこんな爆発で、生きている訳がない……。

 その訳が全て私に集約し、受け止めきれない唐突な事実に目を伏せたくなる。


「違、そんな訳、違う!」


 全てを拒否したくなる頭を私の瞳は許さず、自らの皮膚を剥き、中にあった事実は私に化け物の烙印を突きつける。

 

 ――人間の皮から現れた金属の腕がそこにはあった。

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