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影裏案件 -凍り鬼―  作者: greed green/見鳥望
六章 誘う手
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2

「これって、武市君の復讐なんですかね?」


 考えはまとまらなかった。答えと言うほど自分の中でも自信はなかったが、御神さんの意見も聞いてみたいと思って口にした。

 イジメを受けていたであろう武市君は次沢達に抵抗した。そこで神山君が死んでしまった事で周囲から完全に距離を置かれてしまう。人殺しというレッテルと共に。

 耐えきれなかった彼はひきこもりになってしまい、最終的には中学にあがる頃に自殺に踏み切る。しかし、何もしていないのに理不尽な扱いを受け続けた無念が現世に蘇り、復讐を始めた。


「どうかな。その説だと色々と腑に落ちない事も多い」


 それは自分でも分かっていた。だがあえて私は御神さんに尋ねた。


「例えばどこがですか?」

「いろいろあるよ。まず何で今頃になって復讐を始めたのか。別にこんなに間を置く必要なんてどこにもない。武市君の霊の仕業だとすれば、自殺してすぐに復讐を始めればいいはずだ。何かすぐに実行出来ない霊界的な理由があるなら、仕方ないかもしれないけどね」

「確かにそうですよね……でも、逆にその理由があったとすれば、この説の可能性は否定出来ないですよね?」

「まあね。でも腑に落ちないのはそれだけじゃない。この説は武市君が自殺だという仮説からスタートしている。でも、本当にそう思えるかい?」


 そう。だから私もこの説には自信がないのだ。

 何故手首が切り取られているのか。これのせいで自殺の線が一気に薄まるからだ。


 記事には詳細が省かれていた手首の情報。これについては御神さんが裏をとってくれた。

 ここで私は初めて知るのだが、影裏というのは全国的に存在しているという事だ。この新潟でも御神さんと同じように影裏として動いている人間がいて、そこに問い合わせた結果知り得た情報だった。

 考えれば当然の事だ。御神さん一人だけで全国で起きる奇妙な事件を処理できるわけがない。ただそれは同時に、全国で当たり前のように知らない所でそういった事件は起きている、という事にもなる。そう考えるとまた目眩がしそうだった。


 とにかく、手首が切り取られていたという点が事実である事によって自殺という線がそもそも怪しくなるのだ。しかもこの手首は見つかっていないという。そうなるとますます怪しいのだ。

 

「まったく、こんな所でとんだ尻ぬぐいをくらう事になるとはね」


 御神さんの声は珍しく苛立ちの混じったものだった。

 武市君の死については当時事件としても取り扱われた。だが、通常の警察では解決出来ず、影裏案件として引き渡された。しかし、結局影裏でもこの事件は解決が出来ず、警察内部では未解決事件としながら世間には報道規制を強いり自殺として処理してしまったのだ。


“これは僕らの罪かもしれないな…”


 御神さんがあの時呟いた言葉の意味がなんとなく分かった気がした。あれはきっと、


“僕達影裏、警察の罪かもしれない”


 そういう意味だったのだろう。


「まあ結局は人のしている事だからね。完全に同じ水準とはいかないだろうけど、これは僕からしたら怠慢だね。その時は有耶無耶に出来たかもしれないけど、結局今そのしわ寄せが来ているわけだ。怠慢っていうのは本当に罪だよ」


 怠慢という言葉が自分にとってやけに胸に刺さった。別にサボってきたつもりはなかったが、真面目に仕事に取り組んできたかと言われれば即答は出来ない。でもこの事件に関わるようになって、少しは私も真面目になったんじゃないだろうか。少なくとも業務時間外に仕事の事を考えるような人間ではなかった。まあ、何も解決出来ているわけではないが。


「未解決とは言え、当時の資料やらはさすがに残しているだろう。そっちは向こうに改めて確認してもらっているから待つとしよう」


 さて、と言って御神さんは立ち上がった。


「ゆとり君、お酒はいける口かい?」

「へ? まあ、飲めますけど」

「なんだかお酒を飲みたい気分なんだ。奢るし付き合ってよ」


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