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鬼になる
覚悟が出来ていたわけではない。あの一瞬では覚悟を決める事も、正しい選択をする事も出来なかっただろう。
今が正しいのか分からない。あの時の選択が正しいのかも分からない。ずっと苦悩は終わらない。あの一瞬で選び取った目先の安心は、その後に続く絶望を考えればひどく不公平な天秤だ。
諦めろ。
受け入れろ。
出来る事はそれしかなかった。そうしてゆっくりとゆっくりと、身体と心を順応させていった。やがて一人の人間として、違和感なく生きていけるようになった。
だが、苦悩が消えたわけではない。あの日からずっと、心の靄を取り払えずに今も生きている。ずっと続くのだ。生きている限り、ずっと。
「なんでだ……」
その度どうしようもなく苛ついた。どうしようもなく全てを憎んだ。
せめて。分かって欲しい。この苦悩を、誰かに少しでも。




