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影裏案件 -凍り鬼―  作者: greed green/見鳥望
五章 氷と鬼
28/51

5

 すっかり日は落ち、強まった冷気が肌寒くなってきた。私達は予約していたホテルにチェックインを済ませ、今日はこれで解散だと御神さんに言われ、自分の部屋でようやくゆったりと過ごしていた。捜査というものの一日の平均行動量がどれほどのものか知らないが、とても疲れたという事は確かだった。


「どうしよっかな」


 てっきりご飯ぐらいどこかでご馳走してくれるんじゃないかと思っていたのに、御神さんはさっさと自分の部屋へと行ってしまった。自腹でご飯を食べる事と急に放り出された事に少しばかり不満を感じていたがこうなっては仕方がない。

 疲れたしあまり歩き回りたい気分ではないが、せっかく遠方に来たのだしどこかお店に入ってご飯を食べないともったいないという気持ちもあった。


「よし」


 結局私は一人でホテルを出て外食する事に決めた。 

 しかし頭の中は自然と事件の事で渦巻いていた。今までなら一度もなかった事だ。仕事は終わり、業務時間外だ。定時をまわった瞬間になら頭の中のスイッチがオンからオフへと切り替わり、一刻も家に帰りたいという気持ちでいっぱいになり、家に帰ってから仕事の事を考えるなんて事は一切なかった。それなのに。

 いろいろと初めての事で衝撃も大きすぎた。頭の整理がまだ追いついていないせいもあるのだろう。私は今までの事を今一度整理しようとする。


 三人の犠牲者。次沢、内原、畑中についての共通点。

 全員が固まったように窒息死に陥ったという死因。残された小さな死人の手の痕跡。そして全員がここ新潟という同郷であり、なおかつ出身校は全員が猪下小学校。

 そして猪下小学校でかつてあった生徒の事件(事故?)。それが神山君という少年の死。そして彼の死に方も三人と酷似している。そして死の間際にあった小競り合い、彼を両手で突いたという武市君という存在。

 ここで思った一つの事。それは武市君が本当に神山君を殺した、または死なせてしまったという可能性。状況とタイミングを考えれば、それがシンプルな一番の答えに思えた。だが、じゃあなぜ神山君は死んだのか。武市君は神山君に触れただけだ。触れただけで人を死に至らしめるなんてそんな事……。


 ――あれ。


 その瞬間、もう一つの可能性に行き着いた。触れた者を死に至らしめる。

 この際可能性どうこうは一旦置いておこう。この事件は普通じゃない。影裏案件として処理された以上、普通の考え方ではダメなのだ。なら、そんな事も可能だという前提で話を進めていく事は間違いではない。


 三人の死に方。残された死人の手。死人の手に触れられた。だから三人は死んだ。そう考えれば、全てが一本に繋がるではないか。


 ――いや、でも。


 本当に繋がっているのか? 私が都合のいい解釈で繋げただけなのではないか?

 それに、繋がっていたとしても大きな謎が残る。死人の手だ。殺害方法が接触だったとしても、その接触した人間というのは既に死んでいるのだ。そうなると、死人が動いて人を殺害しているという可能性すら考慮しないといけなくなる。


 ――ああーもうわっかんない!


 なかなかいい線で考えられたのではないかと思ったが、これが限界だ。どうしても死人の殺人という点がクリア出来ない。

 殺害に関して、武市君がなんらかの力を持って神山君を殺してしまった。なら今回の事件は武市君の能力がなければ行えない。でも、残された痕跡は死人の者。それはつまり……。

瞬間ゾッとした。無理矢理繋げた一本の解釈通りだとするなら、死んだ武市君が三人を殺したという構図になる。そんな事が、そんな事があり得るのか?


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