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3

 私はそうして三人の遺族に電話をかけた。

 最初にかけたのは次沢兼人の実家だった。父親は既に他界しており、残されたのは母親のみだったが、


「兼人? 兼人は、死んでませんよ。ここにいますよ。ほら兼人―? あなたが死んだって電話が来てるよー」


 と言った様子で、まともに会話が出来る様子ではなかった。息子が死んだ精神的ショックによるものなのか、そもそも精神を患っているのかは分からなかったが、いずれにしても話を聞くには難しい状態だった。


 次にかけた畑山怜美の実家に関してはある意味もっと酷かった。電話に出たのは母親だったが、怜美の事を口にすると、


「あーやっと死にやがったよ、あいつ。今まで散々迷惑をかけられたからね、スッキリしたよ」


 と、肉親とは思えない強烈な発言が飛び出した。彼女を含めた家庭環境の荒み具合が窺えた。

 畑山怜美はかなりの不良娘だったらしく、日頃から家庭内でも争いが絶えなかったらしい。気の弱い父親は完全に権力を失い、財布から勝手に金を抜き取るだけではなく金を下ろさせてもいたらしい。そんな彼女と真正面から喧嘩出来たのは母親だけだったが、娘への愛情もなくし、出ていくと高校を中退した後に家を飛び出した娘を追う事もしなかった。

 それ以来お互いに一切の連絡を取り合ってこなかったが、皮肉にも娘の死が久方ぶりの声なき連絡となった。


「……御神さん」

「ん?」

「……マジ病みそうです」

「まだ病んでないなら大丈夫だよ」

「……どブラックパワハラ御神」

「何か言った?」

「なんでもありませんよ、はぁーもう!」

「急に大きな声出さないでよびっくりするから」


 気持ちを切り替え、最後の一人内原直樹の家に連絡をした。


「何かお力になれるのであれば、どうぞお越しください」


 ここに来て初めて温かい人の言葉を聞くことが出来た。電話に出た直樹の母親は丁寧で柔らかい物腰で接してくれた。


「内原直樹の母親は、話が出来そうです」


 ここから何かを導き出せるだろうか。それは聞かなければ分からないが、それでも今縋りつけるのはここしかない。

 

 そして私達は新潟へ向かう事となった。

 降り立った新潟の地は、夏が終わり秋の兆しに差し掛かった時期もあり、気候はほどよく寒かった。

 これから内原直樹の母親に話を聞きに行く。電話では穏やかな様子だったが、息子が死んでいるという事実を決して忘れてはならない。不用意な発言がきっかけでスイッチが入り急に態度が変わる事だって十分にあり得る。注意して臨まなければならない。


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