鬼
夜は都合がいい。
私の行いを包み、隠し、見逃してくれる。
今から私が為す事も、全て。
すぐ。きっともうすぐだ。
待ち遠しくもあり、一生その時が来て欲しくないという相反する想いが交差する。
だがやらねば。絶対にやらなければいけないのだ、私は。
うまくいく。そんな事は分かっている。
二人も殺したのに、警察は私にまるで気付いていない。
気付きようがない。証拠が分かったとしても説明がつかないのだから。
こんな殺害方法があるなど、もし分かったとしても捕まりようもない。
いや捕まる捕まらないなど、どうでもいい事だ。
あ。
いた。
いた。いた。
見つけた。
やはり、いた。
私はゆっくりと背後に近付く。
「ねえ」
私の声に彼女が振り向く。
そうだ。この顔だ。面影が残っている。間違いない。
知っている。こいつだ。こいつが……。
「何ですか?」
女は怪訝な目を私に向ける。
「……まさか、あなた……」
気付いたか。だが気付いた所で何も変わらない。
彼女に手を伸ばす。
「あ……がっ……!」
触れた瞬間、彼女の全身が一瞬にして硬直した。
「コオリオニ」
私の呟いた言葉は、きっともう彼女には聞こえていない。
これで、三人。