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タイムカプセル・パラドックス  作者: 宇佐見仇
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第六十三幕《道徳》

 第六十三幕《道徳》              五月三十日 十八時十三分



「実はさ、私、中学校の頃、道徳の授業が一番嫌いだったんだ」


「へえ。それはどうして?」


「何でかなあ? 上手く説明できないけど、何となくイライラしたんだ。言われなくてもそんなこと分かっているよって感じたり、逆に、それが絶対に正しいとは限らないだろって思ったり、とにかく反発していた気がする」


「まあ、思春期は難しい年頃だからねえ。……と結論するのは思考の放棄か。道徳の授業ってどんなんだい? 教科書はあるんだっけ?」


「教科書というよりノートかな。道徳ノート。それに自分の考えを書き込んでいくの。思いやりって何だろう、この人生の主人公は? って感じのコラムがあって、それを読んでどう思ったのかをノートに書いて、学級で話し合って。そういう授業だった」


「へえ……。いかにもな授業だね。それが嫌いだったと」


「大嫌いだった。虫唾が走るくらい。だって、ああいうところで出てくる立派な意見って偽善じゃない。こう言えば賛成されるって計算しての言葉じゃない。それで教師の方も上っ面だけ見て、生徒の本心を見ようとしない。どこもかしこも嘘だらけの時間」


「言うねえ……」


「授業中はいいことを言っても、終わったらさっぱり忘れたりとか。道徳というより、本音と建前の使い分けを教える授業だったね、あれは」


「なるほど。まあ、そういう雰囲気は僕も覚えがあるよ。それで何も分かっちゃいない教師が綺麗事を言って終わらせるんだろう?」


「そうそう。君たちは愛されているだの平等だのってね。そりゃあ間違ったことを言っているわけじゃないけどさ、現実は理想のようには行かないってことくらい、子供だって理解しているっつーの。結局、道徳の授業で道徳心を学べたと思ったことはなかったな。あんなことしても無駄だって、先生たちは気付かないのかな」


「無駄とは限らないんじゃないかな? 感情の方向はどうであれ、キナちゃんは道徳の授業内容を覚えているわけだし、煩わしくてもきちんと言葉にすることで、心に刻まれることはあるからさ。そういう場面に立ったとき、導いてくれるんじゃないのかな」


「ほほう……。これまたご立派な意見ですこと。つい頷いてしまいそうになるわ」


「素直に頷いとけよ。何に対抗意識を燃やしているんだ、君は」


「あー、いっぱい愚痴ってすっきりしたー」


「よかったね、でも、どうして道徳の授業の話を? 高校でもあるの?」


「いや、ないけど。まあ、ちょっとね……」


「ちょっと? 何かあったのかい?」


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