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タイムカプセル・パラドックス  作者: 宇佐見仇
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第六十幕《歴史》

 第六十幕《歴史》



『話がややこしくなってきた。自分の考えをまとめようと思ったのに、続けるほど頭がこんがらがって来ちゃった。えーと、つまり何の話だっけ?


 そう。平行世界の住人を連れて帰る。そんな途方もないことが可能なのかどうか。これは重大な犯罪とされていることから、理論的には可能なんだと思う。私がA世界に戻るときに、お父さんも一緒に時間軸を渡ってもらうだけだ。それでお父さんをどうにか説得しなくちゃいけないわけで、これが一番の課題……。頑張らねば。


 で、もう一つの問題。そんなことしたってバレて捕まるだけだろうってこと。専門書で調べたところ、これも大丈夫だろうって結論に達した。


 今だってよく分かってないのだけど、歴史の修正力ってものが働くらしい。その人の存在が因果律に矛盾しないように、自然に過去の一部が差し変わるのだと。そして、住人たちの記憶も上書きされてしまうのだとかって。私があの晩に出任せに言ったことが、あとあと事実っぽくなったのも、これの働きによるものだ。


 これが平行世界の住人の移転が重罪だとされている理由みたい。証拠が消えて記憶も変わっちゃうってことは、つまり、完全犯罪し放題だもんね。法律で重罪にしている割にそんな事件があったっていうニュースが流れない理由は、もしかしたら警察も犯行に気付けないからかもしれない。法律の意味がちっともないね、こりゃ。


 ともあれ、私は計画を実行に移した。沢山の平行世界を覗き見て、健康体で独身の、できれば交友関係も狭い(もし急に消えても困る人が少ないような)、お父さんを探した。


 そしてB世界へ転移して父と接触し、今に至るというわけ、だ。


 ここまでは上手く行った。あとはお父さんを説得して、連れて帰るだけだった。

 だけど……、ここで私は、この計画の致命的な欠点に気付いてしまった。私を育ててくれたお父さんと、こっちで一緒に暮らしているお父さんはまったくの別人だってことに。


 こんな当たり前で単純なことに、どうして気付けなかったのか。

 私やお母さんとの思い出がないことだけじゃなくて、考え方も口調も趣味も特技も、丸きり違う。顔と背格好が同じ分、中身の違いがくっきりと分かる。一緒に過ごしていくことでそれが段々と分かってきて、私は自己嫌悪に駆られる。


 本来関係のない赤の他人を、強引に家族にしようとしているのだ。もちろん、強制的に連行しようなんて思ってはいなかったけど、こっちのお父さんも優しいから、事情を聞いたら同情して付いてきてくれるだろう。私は彼の優しさに付け込むのだ。


 私は土壇場に来て迷ってしまった。本当にこの方法で家族は幸せになれるのか。他人のお父さんは不幸にならないのか。本当にそれでいいのか、って。


 私は、自分がどうしたいのか分からなくなった……』


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