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タイムカプセル・パラドックス  作者: 宇佐見仇
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第五十九幕《移転》

 第五十九幕《移転》



『お父さんを私のいたA世界に連れて帰る。そのために私はB世界へ渡ってきた。

 平行世界の住人を転移させることは、いわずもがな重罪だ。一般人の時間軸の転移とは比べものにならないくらいの重大犯罪だ。


 噂じゃあ、国家転覆罪と同レベルの罪になるとかならないとか。裁判待たずにブタ箱行き。終身刑は免れないらしい。さすがにそれは盛っていると思うけど、そういう噂が立つのも納得できる。要するには、過去の一部を変えちゃうってことだからね。


 歴史を変えちゃうことの恐れや罪悪感はちっともない。……なーんて言うと、自分のやろうとしていることの重大さを分かっていない無鉄砲で無責任な若者っぽいけど、そういうんじゃなくて、責任とか危険性とか、そういうのを超えた理屈で私は動いている。


 覚悟はとっくにできている。私を断罪したいというなら、すればいいし、神が許さないというなら許されなくてもいい。どんな罰だって、罵倒だって受けてやる。それでも私はお父さんを生き返らせたい。絶対に生き返らせると誓ったのだ。


 お父さんは、三年前に交通事故で死んだ。第三者の恨みを買ってしまったとか、巨大組織の陰謀に巻き込まれてしまったとか、そういうドラマチックな展開はなく、単なる不幸な業務上過失致死で、あっさりと死んだ。


 だけど、もちろん、私とお母さんにとっては単なる不幸って言葉じゃ片付けられない大事件だった。死んじゃったからって、簡単に諦められるようなもんじゃない。私は、大事な人の死を受け入れられるような良い子ちゃんじゃなかった。どんな手を使ってでも、お父さんを取り戻そうと決めた。私の挑戦はそのときから始まった。


 時間軸転移装置の利用を思いついたのは、確か、去年の夏だったっけ。それまで本当に無駄な試行錯誤をしていた気がする。我ながら察しが悪いぜ。反省。


 装置は当たり前のようにあったし、あくまでその使用目的は平行世界の観測でしかなかったから、死者を復活させることに使うなんて思い付きもしなかったのだ。今となっては言い訳だけど、ま、それはいいや。過ぎたことだし。


 お父さんがこの世界にいないなら、異世界から連れてくりゃいいじゃん。


 まさに天啓。神の閃きだった。あとで調べてみたら、平行世界の住人の転移は重罪だって分かって、他にも同じこと考える人はいるよなー、って納得した。


 お父さんを平行世界から連れてくる。この課題に対する問題は、とりあえず二つ、すぐに思いつく。まずは、そんなことが本当にできるのか。次に、そんなことを仕出かしたらどうやっても周囲にバレるはずで、お父さんはすぐに元の世界へ強制送還されて、私がただ犯罪者になるだけじゃないのか。ということだ。


 この二つの問題の答えは、どちらも大丈夫である、だ』


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