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タイムカプセル・パラドックス  作者: 宇佐見仇
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第五十六幕《無題》

 第五十六幕《無題》              五月一日 十八時十分



「どうか聞いてくださいませ。お父さん」


「聞きましょう。改まってどうしたんだい?」


「そう……。これは、仕方ないことだと思うのですよ。目の前にスイカがあったら、つい割りたくなるのと一緒。足元に空き缶が転がっていたら、つい蹴りたくなるのと一緒。いわば条件反射。人間の本能に刻まれたシステム。人間のサガなのです、破壊とは」


「話が見えてこないんだが……。うーん、破壊?」


「破壊です。誰しも深層心理にはそういう願望があって、それを自覚しているか、していないかというだけなんです。私は今日、自分の願望を自覚しました」


「哲学的だね。そして抽象的だ。奥歯に物が挟まったような話し方から察するに、何かの拍子で僕の物を壊しちゃって、遠回しにその言い訳をしているのかな? もしそうなら、正直に何を壊しちゃったのか言ってごらん。怒らないから」


「ううん。何も壊してないよ」


「壊してない? じゃあ、学校で問題を起こしたとか?」


「そんなこともしてない。というか、別に何もしてないんだよね、本当に」


「何もしてない? 何もしていないなら、さっきからのその、何かやらかしてしまったあとみたいな怪しい素振りは何なんだい?」


「うん。ただの、何かやらかしてしまったあとみたいな怪しい素振り」


「はあ……。ええっと? どういうこと?」


「特に変わったことはしていないけど、必要もなく言い訳したってこと」


「まだ分からない……。今日のキナちゃんはいつもに増して、意味不明だ」


「つまりね、ちょっとした悪戯っていうか、実験だったわけ。題して『悪くもないのに謝ってみた実験』。何も悪いことをしていないのに見苦しい言い訳をしてみたら、相手はどんな感じに勘違いしてくれるかなっていう」


「何だ、その意味不明な実験……」


「お父さん勘違いしたでしょ? 具体的なことは何も言ってないのに、私がやらかしたって思い込んだでしょ? それを確かめたかったんだ」


「また地味で分かりにくいことを……。地味過ぎて怒るに怒れない。こんなことを聞いたら無粋かもしれないけど、やっていて楽しいかい? それ」


「そこそこ」


「そこそこ楽しいのかぁ……。うーむ、何て言ったらいいのか」


「ち、違う……! 私は何もやってない。何もやってないんだ!」


「うん知ってる」


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