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タイムカプセル・パラドックス  作者: 宇佐見仇
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第五十四幕《架空》

 第五十四幕《架空》              四月二十九日 十一時五十三分



「もしもさ……」


「うん? うん、もしも?」


「もしもこの世界が誰かの妄想によって作られたものだったら、どうする? 私もお父さんもその誰かの妄想が生み出したキャラクターで、私たちは意志を持って喋っているつもりだけど、それも全部。誰かによって操られているのだとしたら……」


「その『誰か』ってのは、要するにこの世界の創造主で、神様あるいは作者に近い存在だってことだよね。僕たちを生かすのも殺すのも作者次第」


「そう。そういうこと」


「どうするって言われても、どうもしないね。どうしようもないと言える。ここで僕がああだこうだ言おうが、僕にはその作者を認識することさえできないんだもの」


「確かにそのとおり。でも、作者からは私たちがはっきりと認識できる。一方的に監視されているんだ。ううん、その場合、私たちを見ているのは作者だけとは限らない。作者が自分と同じ次元の友達に、私たちの日常を創作物として見せているかもしれない。私は今、こっちが現実的な世界だって感覚で話しているけど、本当は向こうこそが現実で、私たちはマンガとか小説とかの二次元的な存在でしかないのかもしれない」


「僕たちが小説の登場人物だって? でも僕らは何にもしていないよ。アドベンチャーもラブロマンスもミステリーもやってない。普通の日常を送っているだけだ。そんなのを創作して、小説として読んで、何が楽しいって言うんだい?」


「さあ、分からないよ。作者の世界にどんな需要があるのか知らないし。案外、日常系のジャンルに含まれているんじゃない? それか家族の感動ものかな」


「感動もの、ね。苦手なジャンルだ。言うほど僕はキナちゃんの父親をできているとは思えないけどね。歳の離れた兄妹って方がしっくり来るよ」


「私たちの関係だって、作者が設定したものなんだよ。作者の気まぐれで『実は……』みたいに簡単に書き換えられちゃう。酷い話だよね」


「でも、それを『キャラクター』である僕らが言ったって仕方がないんじゃない? それにキナちゃんがそんな風に考えていることだって、作者の思惑通りなんだろ? メタに考えていくと、作者が何をしたいのか分からなくなるね。僕らみたいな平凡な人間を想像して、お喋りだけさせるメリットがどこにあるんだろう? もしもこの世界が小説で、作者がいるんだとしたら、もっとエキサイティングなイベントを起こすはずじゃないかな。密室殺人事件とか、超能力者を拾ったりとか、曲がり角で運命の出会いがあったりとか。そういうのがないってことは、やっぱりこの世界は創作物じゃないんじゃないのかな?」


「ううーん。その論理には若干納得」


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