第五幕《道化》
第五幕《道化》
娘「じゃあ私、アンラッキーなバッドタイミングで現れちゃった感じ?」
「少なくともベストなタイミングではないね」
娘「もしかしたら、はっきり言って私、お邪魔虫?」
「うーん。そこは微妙。さっきは警戒してあれこれ言ったけど、今の僕、自分でも安定していないから、一人でいるとどういうこと考えるか分かんなくて」
娘「不安定なのね。不安なのね」
「うん。だから、何かしらの拠り所を求めて、あのカプセルを掘りに行ったのかな」
娘「そして私を拾った」
「そして君に拾わされた。罠に嵌まった、というよりあれは巣か」
娘「地面に巣を張って、オスを捕まえる。そんな私は土蜘蛛娘……! 甘美な響きね。『土蜘蛛の娘』。映画化狙えるわ」
「女郎蜘蛛って出てこないのは、君なりの謙遜なのかな」
娘「ええ。京極夏彦マジリスペクトしてますもの」
「僕は山田風太郎が好きかな。忍法、人間蜘蛛!」
娘「ああいう糸を使う忍者とかを見ていつも思うんだけれど、糸使いって実際どうなのかしら。理論上最強とかって謳っているけど」
「さあ、新宿の病院に行って院長に講釈を受けてくれば?」
娘「冷やかしの観光ツアーで行っても、会えるのは外道さんだけよ」
「さっきから詳しいね……。読書の趣味が合いそうだ」
娘「お父さん! 私すき焼きが食べたい!」
「脈略なく食欲の話! 怖い……、脈略がなさすぎて怖いよ。頭の病気を疑うよ」
娘「女子高生はみんな頭がおかしいのです」
「すげえこと言ってんな……。全国の女子高生に土下座しなさい」
娘「地面のケツにキッスしなって意味? キャっ、セクハラ!」
「自滅までは責任取れないよ。今更なんだけど。ここまで来ておいて、本当に今更なんだけど、君ってまともに会話する気ないよね」
娘「ばれたか」
「ばれたかって。大人を舐めるんじゃないよ」
娘「てへっ♪ ぺろぺろ♪ 舐めてないペロ!」
「舐めてるってレベルじゃなくて舐めてるね」
娘「まあ、家では粛々といい子にしていますわ。大丈夫! 放火はしません」
「それ、注意しなかったらやっていたって解釈してもいいかな……」