第四十六幕《願望》
第四十六幕《願望》 四月十五日 十八時五十八分
「はあ……。何とも嘆かわしい。あなたもそう思いませんか。ねえ、お父さん」
「何が? 帰ってきていきなり、何の同意を求めているんだい?」
「晩婚化の進む現代日本にですよ。いや、というか、結婚願望の低い同級生たちに失望っす。高校生の内から、生涯独身でいいだなんて、冷めてると思わない?」
「さあ……。要するに、友達と将来の話になって、結婚についての皆の本心を聞いて、それに憤慨しているってわけね。別に僕は冷めてるとは思わないけど」
「ああ、そういえばお父さんも、結婚する自信がないとかって前に言ってたもんね。あん時はてっきり冗談かと思って流したけど、え? あれ本気だったの? 女性とまったく縁がなかったわけじゃないでしょうに」
「いやいや。女性との縁なんかこれっぽっちもないよ。皆無と言っていいね」
「そうは言っても、前の仕事先にも親しい女性の同僚とかいたでしょ?」
「いいや、いなかった。親しくなるってのがね。ほら、女性と話すのって恥ずかしいし」
「社会人が何言ってんだ。気合入れろし、人見知りパパ」
「いやだしー、面倒だしー。社会の人付き合いなんて、しょせん上っ面だけだよ」
「子供には絶対聞かせちゃいけない言動だ……」
「子供には早々に現実を教えてあげるのが、いい大人の役目さ」
「いい大人っていうより、いい年してって感じだけど。でもさ、実のところ結婚願望は? 理想の家庭のイメージとか持っていたりするの?」
「結婚願望。あると言えばあるし、ないと言えばない」
「ふうん。つまり、ないんだ」
「待て。僕の発言を都合のいいように捉えるな。ないとは言っていない」
「じゃああるの? 結婚願望が」
「……正直のことを言うと、今はない、かな」
「『今は』? ということは?」
「うん。少し前までは恋人とか家族とかを夢見ていた。だけどキナちゃんと会って、その欲求は消えちゃった。君と会ったことで僕はどうも満足してしまったみたいだ。だから今は、結婚願望はまったくない。恋愛したいとも思わない」
「え……? はあ、それはそれは……照れますなあ。何だかんだ言って、私を娘だと認めてくれたと受け取ってもいいのかな、それ」
「少しはね。せっかくの親子二人きりのこの生活をもう少しだけ続けたい。それに、ここにさらに他人が加わると想像したら緊張しちゃうよ……」
「家族愛的なことを言っておいて、すっげえヘタレだよパパ……」




