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タイムカプセル・パラドックス  作者: 宇佐見仇
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第四十一幕《門出》

 第四十一幕《門出》              四月六日 七時三十九分    



「うわあ……。緊張……なぜか緊張するう……。武者震いするう」


「武者震いはちょっと違うんじゃないのかな? 君でも緊張することがあるんだね」


「入学式は緊張するよう。私ね、昔から式典の空気が苦手で、ドキドキしちゃうんだ。中学の卒業式のときも最後までガチガチだった。ずっとテンション張りっ放し」


「場の空気に影響されやすいのか。そういうときは典型的だけど、手の平に人って書いて飲み込むんだよ。深呼吸をして、周りを見ないようにするんだ」


「人は昨日の夜から、もう五百人は飲んでいるよ。飲み過ぎて効果が薄れてきた。途中から人ってこうだっけ? って変な気分になってきたし。よく見たら、『人』って漢字おかしくない? ひらがなの『ん』みたいで、本当にこれで『人』だっけ……?」


「順調にゲシュタルト崩壊を起こしているねえ。『人』はそれで正しいから大丈夫。普通のリラックス法が効かないんじゃ、どうしたもんかな」


「うう~、逃げたい逃げたい逃げたい……。猛烈にこの状況から逃げたい」


「家を出発する前から逃げようったって、逃げ場所なんかないぜ?」


「そうなんだけどさ。始まる前がいっちゃん緊張するんだよう……。クソー! 私をじわじわ甚振りおってからに。殺るならばっさりとやれぇー!」


「ばっさり殺らないよ。やれやれ、潔いんだか、潔くないのだか」


「くぅ~……。お父さんの涼しい顔が憎い……。『覚悟? 産まれたときから完了しています』ってサラリと言っちゃいそうなクールフェイスめぇ……」


「いよいよ僕に矛先が回ってきたね。でもいいよ、その調子だ。入学式を意識するから緊張しちゃうんだ。他のことを考えて、自分の状況を忘れてしまえ」


「くうぅ……憎い憎い憎い……。私を苦しめる入学式が憎い……。入学式なんか滅んでしまえ。いいや、式典という式典よ、この世から消えろお。頼むから……」


「とうとう行事まで目の敵に。いつもそんなに苦しむんじゃ、一苦労だね」


「いや、いつもはこんなに酷くないんだけど、何か、今回はすっごく緊張する……。寒くもないのに身体が震えそう……。頭がぼんやりして働かない……」


「風邪を引いてるんじゃないのか? ……ん、熱はないようだ。咳やくしゃみの様子もない。でも、よっぽど辛いなら休なさい。万が一ってこともある」


「……ううん、大丈夫。行ける。行くともさ」


「そう? 気を付けてね。ま、僕も父兄席から見守っているから、安心しなよ」


「……あ、そうか。どうして今回こんなに緊張するのか、分かった気がする……」

「え? どうしてだい?」


「……秘密っ。学校に向かおう、お父さん!」


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