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メルヒェン世界に迷い込んだ暗黒皇帝  作者: げっそ
第二幕 翼のある使者
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16 不思議な王様

 バラの茂みから飛び出す直前。


 湖上に花火が打ち上がる。

 と同時に。

 きらびやかな衣装を身にまとった小太りなおっちゃんが、城門の方角から現れた。

 彼の後ろには多くの小人達がうやうやしく付き従う。

 

 仰々しく、庭の中央の小道を歩いてくる。

 肩を揺らして歌いながら、こちらに向かって行進してくる。

 どこまでも陽気だ。

 

 彼が通る予定の場所は虹色の光に包まれ。

 彼が通った後の道は金色に輝く。

 

 小人達もおっちゃんの歌に合わせて、合いの手を入れている。


「暗黒皇帝殺しの偉大なる王! ひとにらみすれば悪魔どもも立ちどころに巣に帰る! ああ、崖の上から王様を称える声がこだまする!」


 王城の扉の前で、骸骨兵士に向かって大仰に王様が手を振る。 

 巨大な骸骨兵士は待ってましたとばかりに大きな斬馬剣を振り上げ。

 反っくり返って勢いをつけ。 

 斬馬剣の柄の先を石畳に力強くリズミカルに打ち付ける。


 ドンッ! ドン!

 

 そうすると、王城の扉は、きしむ音を立てながらも、ゆっくりと開いていく。


 中は真っ暗。


 だったのが。

 廊下の左右に、ぽつりぽつり順々にと青い光が灯っていく。


 王様の後には小人達が続く。

 小人たちの後には骸骨兵が続く。

 そして、骸骨兵の後には。


 俺とうさぎがしれっと続く。

 

 ところが、小人たちが王城に入り込んだ瞬間、扉が閉まり始める。

 あとに続く骸骨兵士をすり潰しながら、そんなことにはおかまいなく。


 俺達は全力で骸骨兵士の頭を跳び箱の要領で飛び越え、間一髪、扉の内側へ潜り込む。


 部屋の中は急に紫の煙で満たされる。

 どぎつい七色の光で、俺達が照らし出される。


「侵入者発見!」

 

 早くも俺達の周囲を小人達が囲っている。

 その周囲を骸骨兵士が取り囲んでいる。


 城の広間の奥にある、大きな豪華な椅子。

 そこに静かに掛けている王様。


「よくきたの」


 口ひげをゆっくりと撫でながら、興味津々で丸い目をこちらに向けている。

 その傍らにはしれっとキアラが佇んでいる。

 ひどい目には遭わされていなかったようで一安心。


「あ。早かったわね」


 早かったわね、じゃねぇよ。


「いきなりボスの登場なのか?」


 俺は急いでナイフに手をかける。

 周囲の小人達がキィキィ唸り始めて。


 ガンッ、ガンッ、ガンッ!


 骸骨兵士共は、足で石だたみを一斉に踏みしめ始める。


「やめよ」


 ラスボスは眠そうな、公家のような高貴な喋り方で周囲の喧騒を押し止める。

 静寂が訪れる。


「して。異邦人よ。汝らは余の王国に何をしにきたのだ? 苦しゅうない。よいよい、いうてみよ」


「望んで来たわけではないのです。ただ、谷の上に戻りたくて、道中、たまたま、この王国に迷い込んでしまっただけなんです」


「我が王国を素通りするとな? この世の栄華を極めし余の王国を? 解せぬ。正直に申してみせぃ?」


「え? 正直に申しましたが?」


「何を申す。そなたら賤民の間でも話題になっておろう。この果てなき栄華を誇るルベル王国。そしてその王国を統べる、夢と勇気と愛情に溢れた偉大なる王、ルベル一世。ホホホ。ちと緊張しておるのかの? よいよい」


「寡聞なもので、この王国のことは初めて知りました。ツェリアは知っているか?」


 ツェリアに聞いてみる。


「僕も知らない。そもそも大渓谷に国があるなんて思いもよらなかった」


「なんとッ!」


 王様は素っ頓狂な声を上げる。


「まさか? 余の名も知らぬというのか。そのような愚かな世迷い言は言わぬであろうな?」


「すいません。勉強不足で」


「謝るでない! 謝るでないぞ! そして、余は。余は、世界のために七英雄と戦い、暗黒皇帝を倒した、偉大なる王ルベルであるぞ! 称えられて当然ッ! そう! 知らなかったなど、そのような戯言許されようはずがないッ!」


「……」


 王は安堵の表情を浮かべる。

 七英雄と戦った? 雷神を倒した?

 

 とすると、ルベル王国というのは、神聖帝国の属国としてアルデア王国と交戦中である可能性が高い。ここはまぎれもなく敵地。


 しかし、ツェリアは、協同している神聖帝国の竜騎士であるにもかかわらず、この王様のことを知らない。不自然だ。


 それはさておき、この扱い。少なくとも俺とキアラの正体は、まだバレていないようだ。

 バレていたら、即座に牢獄行きだろうからな。


「謹みて、本当のことを言うてみるがよいぞ。どうじゃ? 谷の上の世界では、余、ルベルを称える声で、溢れておるであろう?」


「あ……。ええ。まぁ。そんなところです」


「よいよい。苦しゅうない。ざっくばらんに余を称えるが良い」


「は、はぁ」


「最近の若いものは、紛らわしくていかん。で、そなたらとここの小娘は余の王国に遊びに参ったと、そういうわけよな?」


「はぁ」


 うさぎ姿のツェリアが耳を立てて、心配そうにこちらを見る。

 案ずるな。

 キアラの正体さえバレなければ、後は王の話に適当に合わせて、のらりくらり返答していけばいいだけのこと。


「ええ。まぁそんなところね」


 キアラがこちらの心配もよそにしゃしゃり出る。


「貴女はなかなか名のある者と見受ける。名乗ることを許可するぞ」


「アルデア王国の次期女王、キアラよ」


 おぃ!

 速攻で正体をばらしているじゃないか。

 冷や汗が背を伝う。


「ほほう、アルデア王国か。知らぬ国だ」


「こんな渓谷に籠もっているから、そんな事も知らないのよ」


 いつもの、自然と喧嘩を売っていくスタイルだ。


 しかし、王様とあろうものが、敵国の名すら知らないというのか?

 なんだか、話が噛み合っていない気がする。


「新しい国であろうか? 誰がいつ作ったのだ? 申してみよ」


「直接の系譜をたどれば、2代皇帝カトーとその妻アルデーアに行き着くわ」


「皇帝を僭称したアグリオンのカトーのことだな?」


「何を言っているのかしら」


「アルデーアのこともよく知っておる。あの暗黒皇帝の姪だ」


「アウグスタ様の姪よ」


「アウグスタ? 様? だと?」


 王様は見る見る間に眉を吊り上げて、恐ろしい顔になる。


「あのような邪悪な者、暗黒皇帝を様付けすることなど、一切許さぬ」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ!


 周囲の骸骨兵士共が一斉に足踏みを始め、小人たちが罵り始める。


「すみません。その者にはよく言い聞かせておきますので!」


 俺はほうほうの体で、叫ぶ。

 やんちゃな子供が、隣近所に迷惑をかけた時の、親の気分だ。


「よいよい。悪に染まる前のアウグスタの半生は評価に値する。尊敬するものがいるのも理解できぬでもない」


 足踏みが収まった。


 ルベルは何かを懐かしむ目をしている。

 恐る恐る聞いてみる。


「神聖帝国のことはご存知ですか?」


「神聖帝国とはなんだ? そのようなものは知らぬ。ネア帝国の誤りではないか?」


 やはり話が噛み合わない。

 ネア帝国ってなんだ?

 キアラが割って入る。


「何を言っているのかしら。ネア帝国は千年前に消滅したわ」


「おぉ、愛しの姫よ。そのとおりよ。余が直々に手を下し、暗黒皇帝を討ち取ったのであるからな。帝国など残るはずもない、ハッハッハ」


 愉快そうに頷いている。


「では、千年前、あなた様がアウグスタを倒したということですか?」


 王様は目をつぶって、そしてゆっくりと頷く。


「そうじゃ」


 昔、七英雄を妬んで七英雄と戦った五大魔人がいたと、聖伝に書かれていた。

 そして、七英雄を引きずり降ろそうとした愚者がいたと、暗黒教団の教皇インゴは言っていた。

 こいつらの仕業で、世界は混沌の渦に巻き込まれたのではないか。

 なにがそうじゃ、だ。

 しかも、人々は自分を称えているなんて勘違いしている。おめでたいにも程がある。

 

「千年前って、そんなのいくらなんでも……」


「うん? そうか気になっておるのじゃな。余の偉大さを。余は不死身の体なのだ。使命を終えるまで死ねぬのだ。しかし、あれから、千年も経ったとな? どおりで余のことを疑うわけだ」


「使命とはなんなのです?」


「審判の日。悪魔どもは復活し必ずこの国に攻め込んでくるのだ。暗黒皇帝を完全復活させるために。そして炎の七日間は繰り返される。来たるべき悪魔どもとの最終決戦。それこそが余の使命である」


「こんなところに籠もってないで、積極的に暗黒皇帝の復活を阻止すればいいのでは?」


「げふんげふん。ところで、そなた」


 王様は慌てて話題を逸らそうとする。


「それはなんじゃ?」


 王様は俺の左手にある指輪に目を向ける。


「これですか」


 俺は左手をあげて、王様にも見えるように指輪を掲げる。




「ひやぁああ」


 王様は椅子からずり落ちる。

 手をバタバタさせて、俺に恐れを向けている。


「何故ここにいるのだ?」


「え?」


 見る見る間に小太りの王様はしぼんでいく。

 周囲を囲んでいた骸骨兵士がさっと、お城の陰に去っていき、小人達も悲鳴を上げながら散り散りになる。

 

「決してあなたを殺すつもりじゃなかったんだ。今は反省している。だからぁ、やめてくれよぉ」


 王様はどんどんと若返っていき、少年になってしまった。

 天然パーマの頭を抱え込み、背中を丸めて縮こまっている。


「ほらっ? 僕は赤の指輪をもっていないだろう? 敵意のない証拠だよ。巨人が奪っていったんだ。僕はもうなんにもできやしない。ね。アウグスタ様!」


 王子は媚びるようにこちらを見上げてくる。

 キアラもツェリアも、もちろん俺も何が起こっているのかわからない。

 呆気にとられている。


「アウグスタ?」


 グリフォンにも勘違いされた。

 これで2回目だ。

 しかし、アウグスタはたぶん女、俺は男。

 しかも、俺は女性に間違われるような優男などではない。


「来たるべき時に戦うんじゃなかったのか? 今が、その来たるべきだという可能性もあるのだが」


「ごめんってば。嘘だよ、許して。僕はまだ死にたくない」


「やめてあげて!」


 キアラはルベルをかばう。

 どうやら、不憫に感じたようだ。


 ひたすら恐れおののいている王子。

 芝居をしているようには思われない。


 指輪を掲げる左手をおろす。


「俺はアウグスタではない。心配しなくていい」


「嘘だ、僕を騙そうとしている」


「聞きたいことが山ほどある」


「やめなさいよ、怯えているわよ」


「君は、本当に? アウグスタ様じゃないの?」


「ああ。アウグスタは女だ。俺は男だ」


「でも、その黒の指輪は、アウグスタ様が肌身離さず使っていた」


「アウグスタが手放したものを俺が拾った。ただそれだけだ」


 不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

 少しづつ、顔に色が戻っていく。

 目が輝き始める。


 しばらくして、ぼそぼそと王子が喋り始める。


「僕はもう、こんな谷の底に押し込められているのは嫌なんだ。普通の生活がしたい」


「お、おう」


「でも、この幻想世界から出るには、赤の指輪を取り戻さなきゃいけない」


「……」


「赤の指輪は巨人に奪われたんだ、巨人を倒して指輪を取り戻したい」


「うん?」


「君がその指輪を持っていると言うなら、君はとてつもない力を持っているということだ」


「手伝えってか?」


「僕は指輪がないとなんにもできないんだ。だから君たち3人でなんとかして取り返してきて欲しい。相手は瀕死の巨人だからきっと大丈夫」


「完全に他力本願じゃないか」


「取り返してくれたら、無事に君たちを地上まで送ろう。それに指輪を取り戻さない限り、君たちもこの幻想世界から抜け出ることはできないよ」


「せめて、小人か、骸骨兵士ぐらいつけてくれよ」


「残念だけど、この幻想世界の住人はすべて巨人の手下なんだ、僕が操っているわけじゃないんだよ」


「わかったわ。わたし達がその巨人を倒して指輪を取り返してあげる。その代わりに、無事に元の世界に解放してちょうだいね」


 キアラが勝手に俺たちを代表して安請け合いする。

 巨人とか、そんなファンタジーな相手と戦って勝てるのか?

 一応、瀕死ということではあるけれども。


 そもそも、三人の中で戦力になるのは俺だけじゃないか。


「なにより、まず、僕の姿を元に戻してくれないか?」


 ツェリアが目をうるませて抗議する。


「君がそんな姿に変えられたのもすべて巨人のせいなんだ。僕には赤の指輪がないから、君を元の姿に戻すことは出来ない。指輪を取り戻してくれたら、元の姿に戻すことを誓うよ」


 もはや、何もかも巨人が悪い、ってことにしようとしている気がする。

 まぁ、巨人の様子を拝んでどうも倒せそうにないなら、そのときはその時でなんとか考えるか。


「指輪を取り戻したら、俺の質問になんでも応えるって約束してくれ」


「わかったよ」



 

 何の使命に駆られたのか、キアラが意気揚々としている。

 駄目人間に尽くす駄目なタイプなのかもしれないな。


 王子に連れられ、さっそく武器庫へ。

 俺とキアラは、王子からショートソードを譲り受ける。

 キアラはツェリアを見習い、鞘に入ったショートソードを背中に斜めに背負う。


「巨人はこの城の地下に眠っている。入り口はこっちだよ。地下は迷宮状態になっているから、気をつけて頑張ってきてね」


 椅子をどけると、そこに現れたのは地下に続く長い梯子。

 

 階段の先には、ぽっかりと底の見えない暗闇が広がっている。

 地下に入れば、すぐに巨人とご対面ってわけではなさそうだ。


 ところで。

 気をつけて頑張ってきてね、じゃねぇよ。

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キアラの良いところが分からないんだけどどんな役割で出したのだろうか
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