最終幕 神秘主義者
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「お前は傲慢だ。英雄になりたがってる。それだから馬鹿なまねしかやれないんだ……。英雄! ……私はそれがどんなものだかよく知らない。しかしだね、私が想像すると、英雄というのは、自分にできることをする人だ。ところが他の者はそういうふうにはやらない」
「ああ!」 とクリストフは溜息をついた、「そんなら生きてても何になるでしょう? 生きてても無駄です。『欲するは能うことなり!』……と言ってる人たちもあります」
ゴットフリートはまた静かに笑った。
「そうかい? ……だがそれは大きな嘘つきだよ。でなけりゃ、たいした望みをもってない人たちだ……」
二人は丘の頂きに着いていた。やさしく抱擁し合った。
小さな行商人は、疲れた足取りで去っていった。
クリストフはその遠ざかってゆく姿をながめながら、じっと考えに沈んだ。彼は叔父の言葉をみずからくり返した。
「我が為し得る程度を」
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Romain Rolland『Jean Christophe』、いわゆるロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』から引用。




