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第五幕 老いをもたらす者
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人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。
己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。今思えば、全く、己は、己の有っていた僅かばかりの才能を空費して了った訳だ。
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中島敦『山月記』から引用。




