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親指姫

作者: 藤野称

彼女には指をしゃぶる癖がある。

彼女いわく、一人きりか僕が前にいる時にしかやらないそうだ。僕に気を許していると思えば嬉しさもあるが、その行為を見ることはあまり心地よいものではない。

彼女は時々ボーッと遠くを見ながら、親指の爪の部分を小さく咥えている。その時僕がポンと肩を叩くと、決まって

「ごめんね」

と彼女は呟く。

僕の中で、ポンという擬音が「ごめんね」と変換されるくらい、それは反射的なものだった。その瞬間に呆れることもあるし、ふとした拍子にいとおしく感じることもある。


なぜ、指しゃぶりが良いのか聞いたことがある。なんでも、親指の爪のツルツルしたところがいいらしい。さらに、それは僕が安酒や体を求めるのと大して変わらない感覚、だそうだ。


僕がアパートの小机でこれを書いている今も、向かい合う彼女は親指を咥えている。その表情に対して「恍惚」という表現が正しいのかは分からない。ただ、彼女が幸せそうならそれで充分。僕は自分にそう言い聞かせることで、いづれ納得できる気がする。

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