さっそく逃げよう
王と賢者たちは本田を勇者とし、高校生3人を迎え入れた。ハズレスキル持ちの主婦と赤ん坊、成長見込みのなさそうな俺たちの扱いを議論し始めた。
「あの、俺はせっかく異世界へ来たので、できれば他の国を見て回りたいと考えています。手切れ金として少額でよろしいので、お金を頂ければこの国を去るつもりです。もちろん、勇者召喚の事は口外する気は毛頭もございません。いかがでしょう? 」
もともと勇者に付き合う気も、この国に居座る気もなかったから先手を打たせてもらった。少額の手切れ金、その魅力的な言葉に金や名誉に汚いであろうこいつらは、さっさと金を用意した。
話が早くてこっちは助かるけどね。
「あの、私も。まだ1歳にもなってない子供を抱えるので、手切れ金を頂き、彼について行こうと思います」
まさかの人妻が仲間になりたがっている。
「そうだな。よいよい、金などすぐ用意できる。これを持って世界を堪能するが良い」
赤ん坊分含めて小袋を3つ受け取った。
「子は宝、立派に育てるのだぞ」
こうして、思いがけない臨時収入と仲間が加わり、城を後にした。
「本当によかったんですか」
「私ですか。正直この子を育てながらここで生活できるか不安だったんです。けど、同じ境遇のあなたと居れば乗り越えれるかもって思っちゃったんです」
「そうですか」
俺は1人でも平気だが、子供を抱えるとなるとそうはいかないのかもしれない。女にしかわからない苦労や心境があるだろう。
「えっと……ちよ…ださん?」
「気軽にスズクでいいです。敬語もいりませんよ」
「ありがとう。私の事はマナツと呼んでください真に夏と書いて真夏です。生まれは2月なのに可笑しいでしょう。この子は太陽よ。それに私にも敬語は不要よ」
「わかりました…じゃなくて。わかった、真夏さん太陽くんよろしくな」
「あうあ」
返事をする様に小さな手を挙げながら太陽くんがこたえてくれた。巻き込まれて来たが、前の世界よりも悪くないんじゃないかと心がホッとした。
♢♢♢
「馬車は……乗合でいいんだよな?」
あれから街を見て回り、数日分の食料と水、あとは地図を調達した。その際店主に他国へ行く交通手段を聞くと、この世界では馬車での移動がポピュラーだという。
「まるでバスみたいね。知らない人と乗り合わせて移動するなんて、向こうの馬には荷が重そう」
そう、驚いたのがこの世界の動物が規格外だという事だ。まぁ、魔王がいるわけだから魔物もいるだろうとは思っていたが。
「ブルルル」
馬車を引く馬はどう見ても魔物にしか見えない。額のツノの長さが異なるがどれも立派だ。
「おやぁー、お兄さんたち乗合馬車を探しているのかい? 」
さっき食料調達の際に近くにいた、商人風の男が声をかけてきた。
「あ、はい。今日中に隣のメトナス国に向けて出発したいなと思いまして、馬車を探していた所です」
「では、私の馬車を利用するといい。護衛を雇っているから、安全だよ。赤ん坊だって安心していられる」
そう言われ誘いに乗った。なんでも、この国は国政があまりよろしくなく、魔王領と隣接しているにも関わらず、冒険者はぼったくりのゴロツキばかりだという。
トマス=マーシャルさんはこの国に商品の売込みと仕入れに来ていた商人で、ちょうど母国に帰る所だったという。なので、連れている護衛もギルドで有名な青鷹という人たちでBランクの冒険者だそうだ。
「売込みに来たはいいもののあまり売れなくてね。なんでも税が上がり、日々の食費を工面するので精一杯だそうだ。仕入れも特に魅力的なモノは目に入りませんでした。いやー失敗失敗」
「商人も大変なんですね」
「事前に情報が入ればまだいいんですねどね。まぁ、こうした出逢いもあったんです。悪い事ばかりではないですよ」
いい人だな〜。なんだろう、おおらかでそれでいて頼りになりそうな人だ。
「実は俺たちここから遠い所から来まして、母国に帰るすべもなく悩んでいたんです。よければ色々教えて頂けませんか? 」
「それはそれは、是非ともお力になりましょう。その前に、まずはメトナスに向けて出発しましょう。話はその後で。時は金なりですからな」
そう言われ、俺たちと青鷹のメンバーが馬車に乗り込み国を出た。馬を操るのはトマスさんだ。すごいな。
太陽くんは馬車の揺れが気持ちいいのか、知らない人がいるにも関わらず寝息を立てている。おむつ代わりの布切れと食料が入った袋を下ろし、真夏さんの横に座る。
青鷹のメンバーは厳つい人もいるが、みんな優しい人達で太陽くんを起こさない様に小声で会話してくれていた。
最初の王様のイメージが悪かった分、周りがみんないい人にしか見えない。