トラックに突っ込まれた展開はもう古い
いつかこの日が来るのを心の何処かで待っていた。そんなとある夏の日
異世界転生。あぁ、なんという響き。
小説が紙よりスマホで読まれる時代になって、生まれた少年心を鷲掴みにするワード。ジャンル。
それが今、目の前でまさに繰り広げられようとしていたのだから、小躍りしてもしかたない。
「あの……もうその辺で話を始めてもいいかのぅ」
じとーっとした視線に気づき、パパッと姿勢を正す。
遡ること30分前、俺を含むここにいる高校生3人と社会人の俺、と主婦と赤ん坊。計6人は踏切を渡っていた。……が、信号機に異常があったのか、バーが開いているにも関わらず、新幹線が突っ込んできた。
悲鳴をあげる暇もなく俺たちは、全員引かれた。
と思っていたが、その前に魔法陣が足元に現れ、光が身体を包み、気がつけば全員時代錯誤な成金趣味の金ピカなこの部屋にいた。
あれ? ということは転生じゃなくて、勇者召喚による転移かもしれない。
異世界転生から派生した勇者召喚モノ。こちらは地球で死んでから異世界にくるのではなく、異世界から召喚された神を通さないルート経由なのである。
で、今に至るわけだが、この30分のうち8割が俺の妄想が暴走タイムだったことは後悔しない。
「諸君たちは我が国が誇る賢者たちによる秘儀で招かれた勇者。まずは褒めつかわそう」
うわー、一国の王とはいえテンプレな上から目線。
「勇者ってここはどこなんですか」
ふむ、目上の相手に対してしっかり発言出来るとはなかなか見所がある青年だな。俺? 俺は流れに身を任せますとも。面倒事は避けたい。
「ここはタンギン国じゃ。魔王領に隣接する国でな、勇者の素質があるお前たちに、魔王討伐を願いたい。もちろん、必要な装備や衣食住は保証する。討伐にあたり、先立つ前の鍛錬は我が優秀な近衛隊が受け持つ。至れり尽くせり、有り難く思うが良い」
「タンギン…聞いたことない名前だし、魔王ってここは日本じゃないのか」
「映画の撮影……にしてはカメラもないね」
「………」頷いている。
魔王討伐ねぇ、テンションだだ下がりだわ。王様の話を聞いている限り、良い待遇に見せて奴隷の如くこき使うブラック企業と変わりない。衣食住の保証や近衛隊の側で鍛錬なんて、逃げないように監禁するのが目的だろう。
あぁーあ、やってられない。上手いこと逃げる方法はないかねぇー。主婦は泣いてる赤ん坊をあやすのに必死だし。高校生は、王様の話を聞いてからテンションが高い。社会を知らないって怖いね。ゲームの様な展開に、邪な部分が見えていないんだな。
「勇者召喚の儀において招かれし者はその身にスキルを宿すという。この世界ではスキルは授かれ、保有する。しかし、諸君らは希少スキルを有する可能性が高い。して、今からこの鑑定の鏡にて、ステータスを表示しよう」
それぞれ順にステータスが調べられていく。なんでも勇者召喚で一度に招かれた人数が過去最大だそうだ。予定通りにらいけば、1人または2人。なので鑑定の鏡も一個しか用意していなかったので、順番待ちになっている。
「すげー、奏多お前最強じゃん! 」
「これはこれは、なんと」
俺も隙間から鏡を除く。みんな見ているんだ、別にプライバシーの侵害ではない。俺のもこの後見られるんだしいいだろう。と言い聞かせる。
本田 奏多 (ホンダ カナタ) Lv.1 人間
体力250/250
魔力100/100
力 60
耐久 50
回避 20
幸運 50
スキル 魔法の知恵 剣術の知恵 鑑定 共通言語化
適正属性 火 水 風 雷 木 闇 光
……なんだこれ、ステータスは至って普通。けど、属性は全属性かわからないが、7つも扱えるとかチートかよ。しれっと鑑定まで持ってやがる。共通言語化は全員貰えるんだよね? ここ重要だぞ。
「ふむ、ステータスはレベルに期待するとして、なかなか希少なスキルではないか。属性も申し分ないわ」
王様もご満悦で良うござんした。その後も鑑定が続き、高校生2人目の男は罠の知恵というスキルを持ち、三人目の女は回復の知恵を持つ。もう3人で勇者一行でいいんじゃねぇ。
「あの、これは…」
「なんじゃハズレか」
主婦はハズレスキルらしい。赤ん坊はまだ1歳にもなってないので論外だそうだ。最後に俺の鑑定結果だが…
千代田 鈴鹿 (チヨダ スズク) Lv.1 人間
体力100/100
魔力50/50
力 5
耐久2
回避500
幸運100
スキル 諦めない精神 共通言語化
適正属性 火 水
誰だよ、あいつらのステータスを普通って言ったやつ。誰だよ、鈴鹿サーキットwwとか草生やしたやつ。親が好きなんだからって諦めたさ。回避に関してだけは誇れる。あとは知らん。
この結果ならわかる。俺はあれだ。巻き込まれた一般人A。