我が子のために。
手を出してしまったそれは
母を思い出させる。
いつもギュッと握りしめられていた
僕の手を握ることは決してなく。
ただ強く、それを握りしめていた。
ビッ、っと勢いよく破かれるビニールの音の後に
サラサラと綺麗な砂がこぼれ落ちるような音がする。
僕の前でためらいもなくそれを飲む母を愛してしまっていたのかもしれない。
なぜなら、それを口にした後の母はいつも上機嫌で、僕にも優しくしてくれるから。
だから、もっと優しくしてほしくて
母に隠れて母の好きなそれを、たくさん珈琲の中に注ぎ込んだ。
日が沈み、新しい朝が迎えるころ母は動かなくっていた。
生ゴミのつまったゴミ袋と、一度ランドセルの中で腐らせてしまった牛乳パックの臭いを混ぜ合わせたような匂いが母からした。
成長した僕は、我が子のために、優しく接してあげられるようにと、母と同じ事をする。
そうすると娘はいつも上機嫌になり、僕の好きな市販のミルクティーを運んできてくれる。
今日もこのように1日を過ごし、明日の朝を迎えるために僕はミルクティーの入ったカップを口に運んだ。