プロローグ
突き抜けるような青空が広がっていた。
白い鳥が頭上を旋回している。一鳴きすると、丘の下に広がる街へと翼を広げて飛んでいった。その様子を、青年はじっと見ていた。――白い鳥。ああ、そういえば佐々波さんは鳥を操っていたっけ。でも、その様子は今ではよく思い出せない。数十年も前の事だ。忘れてしまった。
青年は丘を下り始めた。美しい丘だ。薄く雪が積もっているがそれがまた幻想的だった。所々に民家が建っている。畑もあり、住人が耕していた。それを横目で見ながら、青年はゆっくりと丘を下りていく。正装で来たせいか、若干歩きにくい。
「お兄さん、“そんな服”着たお偉いさんがこんな所でどうしたんだい?」
背後からの声に、青年は振り返った。
農婦が果物の籠を手に不思議そうに彼を見ていた。彼は笑った。
「この先に、用事が。」
丘に風が吹くと、青年の柔らかい茶色の髪を揺らした。
ああ、そういえば桜月さんは綺麗な髪をしていたっけ。
また、昔の記憶が少し蘇る。懐かしいけど、悲しかった。
「この先? この先を行くと古ぼけた教会があるだけだよ。あんな所に何があるっていうんだい?」
農婦は頬についた泥を腕で拭いた。
変わらず青年は笑みをたたえながら頷いた。
「お墓があるんです。仲間の。……仲間たちの。」
突き抜けるような青空が広がっていた。
白い鳥が丘に舞い戻って、また青年の頭上を旋回し始める。少し曇りがかった空を眺めていると、昔の思い出が自然と心を満たした。なぜか泣きたくなった。
『みんなが幸せになるために戦ったのに……。どうしてだろうな。結局、みんなが苦しんでる。――俺達、何が間違っていたんだろうな』
最初から、間違っていたのだ。
この国が戦争を始めた、あの瞬間から。