お茶会への招待
以前買った基礎魔動学という本をベッドに座り、読んでみた。軽く読み流して、目に留まったところを熟読した。
魔素とは、簡潔に書くと魔力エネルギーの素である。もう少し踏み込むと魔素とは、正素子と負素子からなる物質であり、結合によって魔力を蓄えている物質のことを言う。魔素は自然界に幅広く存在するが、全ての生物が生成できるわけではない。例外を除けば植物に限られる。また、魔素を蓄える鉱物も存在する。動物は植物や鉱物を食すことで魔素を取り込み、体内の酵素などによって魔力エネルギーへ変換することができる。
魔力とは魔力エネルギーの略称であり、魔素を構成する正素子と負素子の結合が解離した際に生成されるエネルギーの一種である。一般に、魔素から生成される魔力は白魔力であり、その魔力を分解することで三種類になる。それぞれを赤魔力、青魔力、緑魔力と言い、一般にはこれを魔力の三原色という。この三つの魔力の配合の度合いによって様々な魔法を使用することができる・・・
要するに、魔素から白魔力が生成され、その白魔力から要らない色の魔力を抜くさじ加減で使用できる魔法が変わるわけか。ここまでを簡単に理解したとき、母の私を呼ぶ声が聞こえた。一階へ降りると、母に手紙を渡された。その手紙の封を開けその場で読む。その手紙の内容は、この領地を治める貴族からのお茶会の招待であった。なにやら明日の昼頃に迎えが来るらしい。速達によって今日ついた手紙と明日に来るお迎え、この組み合わせは私にお茶会への参加を強制していると言わざるを得ない。それに、なぜ招待されているのかの身に覚えが全くない。母にこのことを話すと非常に驚き、すぐに私が着ていく服の用意と礼儀作法の教授をしてくれた。
翌日の十二時ぴったりに空から馬車がやってきた。庭にいた私は呆然とその馬車を見つめた。馬車から燕服を身に着けた白髪のおじさん紳士が下りてきた。私を見るなり話しかけてきた。
「ここはフローリア様のお家でよろしいでしょうか。」
『はい。』
「リリア・フローリア様はいらっしゃいますか。」
『私ですね。』
端的な受け答えの後に私を馬車に乗せ、すぐに出発した。私は遠くなっていく自宅を眺めながら質問した。
『なぜ、この馬車は浮いているのですか。』
「それはですね、この馬車には魔石を用いた風魔法が施されていまして、それによって浮いたり沈んだりするのですよ。」
『潜水艦の原理みたいなものですか。』
「潜水艦?」
『あっ、いえこちらの話です。答えてくださり、ありがとうございました。』
このような、たわいもない会話を繰り返しているうちに馬車は地についた。執事さんがドアを開けてくれた。目の前にはどこかで見たことがあるような少女が立っており、両手でスカートを少し上げ私にあいさつした。
「ようこそ、オルフェス家へ。お久しぶりです、リリア様」
私は反射的に四十五度の挨拶を返した。
『こちらこそお久しぶりです。』
「あら、覚えていてくれたのですね。うれしい限りです。」
見たことがあるかどうかがわからないという記憶の私は、今世紀最大の気まずさを覚えた。とりあえず相手が名乗らないことには名がわからないのでオルフェス様と呼ぶことにしてみた。
かなり広い屋敷の中を案内され、歩きながら周りを見た。天井の高さや通路の広さは私が通っていた小学校を思い出させるほどであった。中庭に着くと二つの白い椅子にテーブルがあり、そこへ座った。先程とは異なる執事が茶を入れてくれた。
『オルフェス様、なぜ庶民の私を招待したのです。』
「あら、そう畏まらずトレイシアと呼んでくださって良いのですよ。貴方はわたくしとお母さまの命の恩人なのですから。」
あんときの親子かいな、と突っ込みそうになるも踏みとどまった。
「失礼なお話ですけど、あの時のあなたのお姿は白い死神のように恐ろしく感じてしまいました。」
『あの時は失礼しました。少し気が立っていたもので。』
「お気になさらないで。」
『ははっ』
私は気まずく愛想笑いした。この笑いとは裏腹に、白い死神という単語に背筋に何かが走るのを感じた。この名は前世の敵軍につけられたあだ名だった。
トレイシアは私の目をじっと見つめ頭を下げた。
「あの時助けてくださり、本当にありがとうございました。」
『あっ頭を上げてください。』
私は動揺しまくった。その理由は、貴族の威厳が損なわれる為、この国では貴族が一庶民に頭を下げるなどあってはならないからだ。
頭を上げたトレイシアはしゃべり始めた。
「よろしければ、お友達になって下さらあないかしら。」
『私で良ければ喜んで。』
形式的な言葉を返した。
「では、敬語を止めましょう。」
『わかった。』
トレイシアは、この私の返しに微笑んだ。この後色々話し、なんだかんだで私とトレイシアは気が合うらしことがわかった。この会話から今日はお茶会からお泊り会に変更になった。