初めての買い出し
珍しく、父が畑仕事をせずに大きい布のリュックを用意し荷造りをしていた。そのため、隣町へ月に一度の買い出しに行くのだと思い。買い出しへ私もついていきたいというと母は外出の許可を渋ったが、父が目を離さないという条件で許可がもらえた。この小さな村から一日に四本しか出ない乗合馬車を利用して隣町へ向かった。馬車の乗り心地はすごぶる悪く、乗って間もないのに尻が痛くなってきた。これは前世での輸送トラックよりも酷かった。また、隣町へは馬車で二日かかるらしく、私の尻にとっては地獄であった。
馬車が進んでも、景色は畑, 畑, 森, 畑であった。何も起きず、日が暮れた。馬車は道の脇に止まり、馬車の乗客と御者で暖を取った。翌日も馬車は進み、私が以前の冒険で訪れたユーヘン谷を通ったが、血痕は残ってはいるものの死体は残っていなかった。ユーヘン谷を通ると町へは三十キロ程だ。
簡単な検問を終え町へ入り、まず薬品や調味料など生活に欠かせないものを買い込んだ。次に馬車が出るまでにはかなり時間がある。そのため、魔法の専門書が欲しい私は父を連れ、古本屋に向かった。古本屋に着き、魔法系の本棚で品定めしていると父に声をかけられた。
「御手洗いに行ってくるから、ここでじっとしてなさい。」
『うん、わかった。』
父が私から離れた、一瞬の隙であった。古本屋の中であるにもかかわらず、何者かが私の小さい体をわきに抱え、店から連れ出してしまった。私も欲しい本を目の前にして油断してしまっていた。このくらいのホールドからは簡単に逃れることができる。しかし、急に眠気に襲われ、本屋を出てすぐに私は意識を失った。
泣き叫ぶ子供たちの声で目を覚ました。周りを見渡すと薄暗い小部屋の檻に入れられ、手錠もかけられていた。私の周りには五人の子供がおり、一人が私に話しかけてきた。
「大丈夫?ケガしてない?」
『大丈夫、寝てただけ。』
「私、ニーアっていうの。貴方は?」
『私はリリア』
我が身が可愛いこの状況で、ヒトの心配とはかなり肝が据わっている奴だと思いながら話した。
大男が入ってきた。
「うるせーぞ、クソガキどもが。」
こう叫びながら、檻を激しく蹴った。子供たちは必至で泣くのをこらえた。
大男が部屋から出ていくと、私は子供たちに声をかけた。
「今から私が檻を壊して外に出るけど、危ないからここにいてください。外に出ずにここに入れる人、ハーイ。」
こう言いながら私は手を挙げると、子供たちが次々に手を挙げてくれた。
まず、手錠を引きちぎった。次に自身の腕力で鉄格子を広げ、外に出た後に再度同じ形に戻した。檻の外からニーアに声をかけた。
「ニーア、私が戻ってくるまで他の子たちを頼むね。」
ニーアは無言でうなずいた。
私は木製の扉の前まで行くと、先ほどの大男と何者かが話している声が聞こえた。
「おい、今回のガキの中に白い肌に白い毛の上物のガキがいるじゃねーか。貴族に高く売れるぞ。」
『あぁ、そうだな。あれなら大金貨十枚は最低だろうな。』
この会話を聞いて、貴族のお世話をさせられている未来を想像し、鳥肌が立った。
こちらに向かってくる足音が聞こえた。私は扉から離れ、檻の向かいにある木箱の陰に身を潜めた。扉が閉まり、大男は私がいないことがわかり、叫んだ。私は大男の前に出ていった。
「てm。」
少し言葉を発した瞬間に静かに軽く踏み込み、右手の拳で大男の喉仏を潰した。両手で喉を抑えながら倒れこみ、その身体を音が立たないように支えた。もがいている男からナイフを拝借した。大男はしばらくすると窒息死した。大男の死体を引きずり扉の向かいの壁によりかからせた。
静かになり、一向に出てこない大男に不思議がり、もう一人の男が声をかける。
「ジェレミー、何してんだ。早く出てこい。」
返事はない。
「クソ、しょうがねえ奴だ。」
再び扉に向かってくる足音が聞こえ、私は扉の蝶番がある壁に身を寄せ姿勢を低くした。入ってきたもう一人の男は、ジェレミーの死体を見て驚く。死体に気を取られた男は、後ろにいる私には気づかなかった。扉を閉めると同時にナイフで足の腱を切り、崩れてきたところで顎から脳天にかけてナイフを突き刺し、捻った。
警戒しながら小部屋のドアを開ける。ドアの外の様子を注意深く伺い、人間がいないことを確認して隣の部屋へ移った。小部屋を出て直ぐ目の前には、少し大きい丸いテーブルがあり、その上には飲みかけの酒が入ったグラス, ボトルや金などが散乱していた。ドアの前から一歩進むと男たちの声が聞こえた。その声が聞こえてくる方へ行くと、二階へ続く階段があった。
息をひそめて階段を上っていく。あと二段というところで、朽ちかけた木製の階段が鈍い音を鳴らした。私はじっと相手の動きを待った。すると二人の男が様子を確認しに来た。瞬時にナイフで両方の喉を掻き切り、二階へ跳び出た。二人の男は階段から転げ落ちていった。目の前には妙に落ち着いた男が一人立っていた。男は片手でレイピアを握り、もう一方の手で口に酒を運んだ。
「おい、嬢ちゃん。この組織に手を出すとはいい度胸だ。しかし、喧嘩を売る相手が間違ってる。俺らは貴族とも関係が深い。まぁ、あれだ。お前を生きては売らねぇ。バラバラにして部位ごとで売ってやるよ。」
『ふむ、好きにしろ。』
私は十八番の踏み込みで奴に近づこうとするが、剣ですぐに応戦されたため距離を取らざるを得なかった。奴の速さは私と同等であり、恐らく魔力も高いことが予想される。この一回の攻防で私はこいつに勝てないことを悟った。しかし、何もしないで死ぬほど諦めが良いわけではない。ポッケに手を突っ込み、コインを握りしめた。そして、それを全力で相手に投げつけ、このコインの礫に紛れた。この腕力で投げたコインの威力は散弾銃並みであり、これに対処しなければ、ただでは済まない。ところが、奴はものともせず、私を思いきり蹴飛ばした。木製の壁が大きな音をたて私の身体が壁にめり込んだ。身体は床に落ち、力が入らず、起き上がることができない。終わった。そう思ったとき、聞きなれた声が聞こえた。
「おい、人の娘に何してんだ。」
言葉を発する直前まで気配と魔力を消し、奴の真後ろにいたのは父であった。声に驚き振り返ろうとするが時すでに遅し。奴隷売りの棟梁は一刀両断されてしまった。
父は騒ぎが起こる前に子供たちを逃がし、私を担いでこの場を離れた。




