初めての冒険
寝室のベッドの上に座り本の一ページ目を開く。
10人の悪魔, オーレル・ロー・フォルティス 著, 第一章 勇者への過言…。
私は、ある国の宮廷魔導士であった。目の前にいる少年が、我が国の崩壊を招くことをこの時の私は知る由もなかった。
私は、幼いながらに勇者である少年に隣国を攻め落とすように命令した。そのとき、少年は私に抗議した。
「なぜ隣国へ攻める必要があるのですか?いまのこの国は平和そのものではありませんか。必要以上に人を死なせる必要はありません。」
必死で訴えてくる少年に、私は冷たい言葉を投げた。
「皇帝陛下は、この国の拡大と繁栄を願っておられる。勇者はこの国の繁栄に寄与する義務がある。御託を並べる前に、隣国を落としてきなさい。」
この非情な命令に従い、勇者は隣国の国境に出向いた…。
隣国の宮殿にいた兵士から聞いた話によると、抵抗する隣国の姫の首を切断したとき勇者は嗚咽し膝から崩れ落ち、魔力波長の変わったらしい。そうして勇者が立ち上がり、こう発したのだそうだ。
「我は狂劇の悪魔, アルゴニルなりぃ。」
後の厄災の一つである “アルゴニル” という名の悪魔が誕生した…。
数十ページ読み、幼いながらにえげつない話だなと思った。ここで猛烈な眠気に襲われた私は、本をベッドの隣にある小さな机に置き、眠りについた。
翌日、本を読んだことでワクワクした私は冒険に出ようと前から望んでいた外出の許可をもらった。生まれて初めて家の敷地外へ出る。念願の敷地外に出ても敷地の塀の内から見る景色と変化はなかった。広大な農地を走り抜け、森の目の前にやってきた。傾き、ツタが這っている看板が立っていた。そこは、“この先 エルグの森” と表示してあった。
一歩踏み出し、森へ入る。森の中では薄気味の悪い景色が広がり、聞いたことのない鳥のさえずりが響いていた。二時間ほど歩いたところで、肩にかけた小さい革袋から四つ折りの地図を取り出し、現在地を大まかに確認した。目の前に小川が流れていることから、森のちょうど真ん中にやってきたことがわかった。川際まで行き、浅い川底をのぞき込む。すると突然、後ろから激しい足音が聞こえた。私はとっさに川向こうの木に飛び移り、後方へ振り向く。そこには、鼻息を荒くしたホーンボアがこちらを睨んでいた。肉だ!!私はこいつを今日の食料とすることに決めた。屋根裏から拝借した小型ナイフを手に取り、木が撓るほどの踏み込みで加速し、ホーンボアの首を一撃で切り落とした。そしてすぐに、血抜きのためにホーンボアの身体を川に浸した。血抜きが終わるとホーンボアの身を川から取り出し、四つの足を縄で縛った。今日の目的地は、小川からもう少し進んだところにある一本の巨木が立っている場所であるので、それを担ぎ再び歩を進めた。
日が暮れかけたころに、森の開けた場所が見えてきた。そこには堂々とした一本の木が生えていた。木の近くまで行き、今日はここで火を起こすことにした。赤魔力が込められた魔道具で火を起こし、ボーンボアの肉を半分焼いた。肉の焼けるにおいに誘われて、プスードウルフが五匹程度やってきた。一定の距離を置き、こちらの様子を伺いつつ低いうなり声をあげている。これに対して私は、凄んでみた。プスードウルフは一目散に逃げていき、その辺の木々に止まっていた鳥たちまでも飛び立ってしまった。半分の肉を食べている間に火に葉っぱを敷き、半分を燻製にした。大木のちょうど人一人が横になれる枝の上で、香ばしいにおいを放つ燻製肉と共に一夜を過ごした。