異変と回収
あの手合わせ以降、私の身体には異変が起こり始めた。
気持ちの良い朝を迎え、いつものように一階へ降りようと自身の部屋のドアノブをひねる。すると、その勢いでドアノブがもぎ取れてしまった。寝ぼけているのだろうと思い、もう一方の手でドアノブが存在するはずの部分に手をやる。手は空をかき右に流れた。空いた左手でドアの凹凸をつかみ、扉を開けた。階段を降り、いつもの席に座り、手に持ったドアノブを机の上に置いた。母が入れてくれたスープを一口飲もうと木製のスプーンを手に取る。スプーンは気持ちの良い音を立てへし折れた。そしてそれをまた隣へ置く。父や母はその現象には何も言わなかった。しかし、私が家から庭へ出たときにこのことについて話し始めた。
「あなた、前の稽古のときにリリアを蹴り飛ばしたじゃない。そのことで怒っていると思うの。だから、一度きちんと謝った方がいいと思うわ。」
「わかった。そうしよう。」
このような部屋の中でのひそひそとした会話もはっきりと聞こえるようになった。異変はこれだけで終わらず、空高く飛ぶ鳥の種類がわかったり、軽く蹴ったはずの木が音を立てて倒れたりと様々であった。それ故に、異常なのは握力や聴力だけでなく、身体能力のすべてであるということがわかった。
これは一度体験済みだ。前世で遺伝子改良実験を受けたとき、自身の力の制御が利かず色々なものを破壊してしまったことを覚えている。この経験から、どのように鍛錬すれば力の制御ができるようになるかを知っている。また、これらの事実は、前世での私の力がこの幼い身体でやっと引き出せるようになったということだ。とはいえ、五歳の小さな身体では限界があった。
それから半年がたち、私の力の制御も上手くなりだしたときに我が家へ吉報が舞い込んだ。母が妹か弟を身ごもったのだ。私は非常にうれしく、高揚した。
家族だけでなく、私の方でも進展はあった。自身の剣術の習熟度が指数関数的に伸びていき、現在の実力で父と手合わせすると五分という腕前にもなった。加えて、書斎にある本を全て読破した。かなり忘れていることも多いが…。
いつも通りに夕食を済ませた後に、習慣となった読書をすべく書斎に入るが本棚には既読本しかなかった。私は新しい本が無性に読みたい気分になった。そのため、母に本棚以外に本は置いてあるかどうかを尋ねた。すると、屋根裏に何冊かあるらしいことがわかった。
書斎に入り、横たわっていた梯子を起こし、天井裏へ続く戸にそれをかけた。その戸からひょっこりと顔を出した。目の前には掃除がされずに埃が積もり、柱の継ぎ目の部分には主のいない蜘蛛の巣が放置してあった。少し奥の方に目をやると、そこには表紙が埃まみれになり、小口は日に焼けた本が横になって積まれていた。私は身をかがめながら一直線にそこへ向かった。遠くからではわからなかったが、近寄ると明らかに一冊だけ年季の入り方が他とは異なる本があった。積まれた本の中からそれを取り出し、表紙に書いてある題名を見る。そこには“10人の悪魔”という文字が記されていた。