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白澤百合姫の転生日記  作者: トキムネ
家族との日々
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フロアボス

私は,3つの通路口の前に再び立った.ヤスデの巣へ続く入り口に目をやり,溜息を一度つく.そして,今回の攻略目標である獣臭がする通路口へと歩みを進めた.この前の通路とは違いどろどろとした死を連想させるような景色ではなく,本物の冒険を彷彿させる景色と臭いがある.通路内ではそこらかしこに生えている緑色の苔特有の匂いが僅かに香っていた.その臭いに交じって獣臭が強くなってくる.前方から何かがやってくるようだ.足音から察するにヒト型やオオカミ型ではない.もう少しうるさい.


正体を現したのは足が八本の魔物である.その数は3匹だ.こいつは図鑑で見たことがある.確か,オクトペデスという名前で,洞窟や遺跡に主に生息している.その八本足で上下関係なく縦横無尽に駆け回る魔物だ.危険度はE級のはずで,同等の等級であるノルマンウルフよりは強いらしい.


私も駆け足で奴らに向かう.一匹は天井から,もう二匹は左右に分かれて並走してこちらに向かってくる.チキンレースのようにお互いが止まらず,真正面まで来たとき,私は天井と地面にいる奴らの間を目掛けて跳んだ.すれ違いざまに大きく体を捻り,地面に二匹の胴を切り裂いた.残された一匹は私に勝てるはずもなく果敢にも散っていった.


しばらく歩くと分かれ道があった.よどんだ空気が流れてくる方へ私は進んだ.より下向かうために.歩くとすぐに一匹のオクトペデスの進化途中へと遭遇した.周りにいた他のオクトペデスが私の存在を感知し,向かってくる.今回は静かに待ち,軽く拳を握った.飛び込んでくる複数の敵にその拳を振り上げ,命を絶つ.静かになったところで私は進化を見守ることにした.またとないモンスターの進化の瞬間だからだ.


モンスターの進化過程を見たのは初めてだ.目の前のオクトペデスは,全ての脚を体に寄せ丸くなりじっとしているところだ.以前に読んだ図鑑によると,モンスターが進化する際には,体を丸くし,その際に身体から粘液状になった魔力が放出し,丈夫な繭のようなものに包まるとのことだ.この繭状態は非常に防御能力が高く,一説によると竜種に踏まれても中身は無事らしい.この繭状態を1日ほど経て進化するのだ.


観察していると,オクトペデスは,身体から粘液状の魔力を放出し,繭を作り始めた.私の目が良いからなのかわからないが,僅かに光っているように感じた.液状だったものが完全に固化し,光を失った.ここから1日経つと進化するのか.やはり好奇心に負けた私は1日をオクトペデスの繭の前で明かした.


何かの気配を感じ,私は目を開く.周りから音もせず視覚でもその存在を確認できない.私はもしかしたらと思い繭へと目をやる.すると,繭にひびが入り始めた.中から現れたのは,スルデオエレトというD級モンスターだ.まだ,進化したてなら容易に屠れるかもしれない.私は軽く力を入れた指先で目の前のモンスターを貫こうとした.しかし,スルデオエレトの額に指先が軽く触れたところでやめてしまった.この行動は自分でも不思議だった.無理やり理由をひねり出したとしたら,この世界の神秘に久しぶりに触れたからかもしれない.


最下層を目指し,私はただひたすらに歩く.後ろから何かの気配を感じてはいるものの殺意はなく,気にせず進んだ.私の視線の先には閉ざされた岩の扉が現れた.恐らく,ここが最下層なのかもしれない.この扉の先にはフロアボスが鎮座しているに違いない.そのような雰囲気を扉越しに感じる.


ダンジョンとは,我々が最も身近に触れることができる神話の遺物であると様々な本が記載している.それほど未解明なことが多い.その未解明なことが多いダンジョンには,それぞれ共通している点が多数ある.その一つがフロアボスの存在だ.ある一定階層あたりにフロアボスが配置されている.その階層数はダンジョンによってまちまちだが,このダンジョンでは,階層数が少ないこともあり,最下層にのみフロアボスが配置されているのだろうと私は考えた.


考えているうちに,私は岩の扉の前まで来てしまった.だが,岩の扉は固く閉ざされたままで一向に開こうとしない.おかしい.もしかするとこんな辺鄙なところにあるダンジョンだ,来訪者など皆無で使用されていないため老朽化の影響が顕著なのかもしれない.そう思い,全力で蹴ってみた.しかし,扉はびくともしなかった.もしかすると開けるには魔力が必要なのかもしれない.私は,ポーチから火起こし器を取り出し,扉の中心に付け,レバーを引いた.すると,ゆっくりと扉が開き始めた.安く効率の悪い火起こし器から漏れた僅かな魔力を検知したのだろう.


扉の先には,テニスコート程度の広さの部屋があり,その中心にはフロアボスが鎮座していた.今回のフロアボスはゴーレムである.そのゴーレムは成人男性ぐらいの大きさであり,スタイリッシュではなくゴーレムと呼ぶにふさわしいゴツゴツ加減だ.また気配から察するに危険度は恐らく,D級以上だろう.そうなると,私の力で通用するか難しい.だが,フロアボスは自分が守るフロアを出ることはほとんどないとされている.そのことを信用すると,危なくなれば他のフロアへ逃げればよいのだ.竜を除いて今まで相対したことのないランクの敵と戦う上で保険をかけられるのはありがたい.


『さぁ,やろうか.』

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