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白澤百合姫の転生日記  作者: トキムネ
家族との日々
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巣の深部へ

ゆっくりとヤスデの巣へと続く道に足を踏み入れた.恐らく,巣には数百ではくだらない数がいるだろう.そんな数ともなれば,正面からぶち当たると私は一瞬にして骨になってしまう.そのため,至ってシンプルな作戦を立てた.それは,奴らの巣では戦わず,この細い道へと誘導し,一匹一匹を確実に仕留めていくというものだ.


私は,自分がたてる音に特に注意せずに巣へと向かう.足音に気づいた一匹が偵察にやってきた.私は剣を抜き,わざと頭を潰さずに胴を真っ二つにした.その一匹は最後の生命を振り絞り,昆虫特有の音を出すことで,仲間を呼びつけた.するとものの数秒で巣から流れ込むように黒い波がこちらへ向かってくる.私は脱力しながら,剣を構え直した.さぁ,始まるぞ.


開幕戦の折に飛びかかってきた一匹を一刀両断し,お得意の踏み込みで壁に張り付いたヤスデの頭を踏みつぶす.そして,その反動を使い,宙を高速に回転しながら剣を振り,飛びかかってくる奴らを細切れにする.着地する時に,また1匹を仕留める.なるべく地面にいる時間を短くするため演舞のように宙を舞いながらヤスデ達を狩っていく.叩き割り,切り刻み,踏み潰し,断ち穿つ…すでに数十匹は狩ったというのに,奴らは恐怖することもなく私を食い殺しにくる.それもそのはずだ,通路を覆い尽くすほどの数がいる.それだけでは終わらず,続々と巣から通路へと入って来ているのだ.たかが数十匹を潰されたところで怯むわけがない.面での攻撃方法を持たない私は途方もないものを相手にしてしまったと少し後悔した.そんなことを考え,集中力を切らしていると踏み込みの際に足を滑らせ,バランスを崩してしまった.その時を逃さず,飛びかかってきた奴を体幹を使いながら紙一重で躱し,戻った反動で切り捨てた.


戦闘を続けていると,ヤスデたちがざわつき始めた.すると奥の方からひときは大きなヤスデが現れた.そして,それより小さなヤスデたちは身を引き,私とそいつの一騎打ちの格好となった.私は相手の様子を見ず,すぐに斬りかかた.しかし,甲殻に剣が当たった瞬間に巨大ヤスデが急激に体を動かしたため,力が分散させられた.流石はボス的な存在だ.私の剣をしっかりと危険だと認識し,簡単には切らせてはくれない.しかし,ヤスデはヤスデなのだ.モンスターの種類が変わったわけではなく,ただの個体差だ.もう一度剣を振る.甲殻に当たると再度体を急激に動かし,力を散らされる.そこで弾かれた勢いに腰のひねりを加えて,剣をそいつの顔に向けて高速に投げた.胴体を動かしていた巨大ヤスデは避けることができずに剣が突き刺さる.私は,その剣に向かって飛びつき,剣の柄を両手でつかむと腹筋と背筋をフルに使い,剣を振り抜いた.巨大ヤスデの頭は首の皮一枚つながっているような状態になり,体の制御もままならない様子であった.ぶらつく頭で私を見つけると制御の利かない巨大な体で仲間をすり潰しながら私に体当たりを仕掛け来た.しかし,このように自暴自棄になってしまってはお終いである.私は体当たりを軽く躱しながら,奴の頭を落とした.地面に落ちた巨大ヤスデの頭に,小さなヤスデたちは怯んだ様子だった.私はその隙を逃さず,バーサーカーのようにヤスデたちを細切れにしていった.


呼吸が荒くなり,段々と腕と足が重くなってくると集中力が途切れ途切れになり,ミスが増えてくる.奴らの餌にはなるまいと必死で身体を動かす.鈍い身体で,不格好に剣を振り,一匹また一匹と着実に生命を奪っていく.正直,途中からは覚えていない.意識がはっきりとしたのは,地面から漂うこの世のものとは思えない刺激臭を直に嗅いでしまったからだ.私はその臭いをかぐと反射的に飛び起きた.どうやら私は地面に倒れこんだらしいが,生きてはいる.手元に剣が無く,ふと前の方へと目をやると最後の1匹であろうヤスデに剣が突き刺さっていた.安堵した私は膝をついてしまった.


『生きているのだ,私は生きているのだ,死なずに済んだ.』


誰もいない闇の中で独り言を呟いた.


立ち上がり,生命の気配がほとんどないヤスデの巣へと向かう.ヤスデたちの巣には小さく,敵意の無いヤスデ数匹が壁や地面を這いまわっていた.少し警戒しながら巣の最深部へと向かった.しかし,期待外れにも巣の深部は行き止まりでこれ以上進むことはできなかった.私が入ってきた通路は一本道で,光のフロアには天敵のペンギンもどきがいるのにこいつらはどうやって餌を得ているのか疑問に思った.ふと,壁を這っている一匹の小さいヤスデを観察すると天井まで登っていき,複数ある細い穴の一つへと入っていった.どうやら,奴らはそれらの通路を行き来し,そこから餌を得ていたようだった.


暗い細い道を戻り,光のフロアへ帰ってきたとき,クソまみれの私にペンギンもどき達が全員寄ってきてくれた.恐らく,私のことを心配しているのだろう.


『大丈夫だ.生きている.』


「クカァ」


彼らは安心し,私のために魚を取りに行ってくれた.


私もとにかく体の汚れを落としたいので湖へと向かった.途中,汚れすぎた下着は再使用したいとは思わなかったので,焚火へとくべた.すると火柱は高くなり,驚くほどよく燃えた.奴らのクソは可燃性だったのだ.火を使うという選択肢は頭にはなかったが,火は使わなくてよかったと思った.


水を浴び,体と剣についた汚れをしっかりと落とし,岸へと上がり,乾かしておいた服を着た.そして,彼らがとってきてくれた魚を調理して食べた.結局,好奇心からヤスデの巣を攻略したのは良いが,行き止まりで骨折り損だった.そのため,次は獣臭が僅かにした通路へ向かってみようと思った.

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