準備
ふと目が覚める.暖色の柔らかい光が視界に入ってきた.どれくらい眠っていたかはわからない.まだゴロゴロとした目をペンギンもどき達の方へと向けた.すると,彼らは湖へと入っていった.恐らく,少し前に彼らが取ってきてくれていたはずの魚は,私が眠ってしまっていたことで痛む前に彼らで食べてしまったのであろうと想像がついた.それに,私を起こさなかったのは,ヤスデの巣から逃げおおせて疲れ果てた私への配慮なのだろうと思った.それは悪いことをしてしまった.伸びをし,少し声を出そうとするもかすれた声しか出ない.その時恐ろしく喉が渇いていたことに気が付いた.しかし,湖の水をそのまま啜りたくはない.ダンジョン内で赤痢にでもかかってしまったらお終いだからだ.そのため面倒ではあるが,煮沸できるような金属製のカップを取りに上のフロアへと一旦戻ることにした.感覚の鈍い体を起こし,私も冷たい水へと入っていった.
道中に,ペンギンもどき達に会い,ゼスチャーで荷物を取りに戻る趣旨を伝えると,2匹ほどが道案内として同行してくれた.上のフロアにつくと以前と変わらず陽が揚々と射しており,焚き火が消えていた.私は焚火の炭へ手を当てた.しかし,なんの温かみもなく冷え切っていた.おかしい,大きめの流木を2,3本ほど焚べたので,3〜4時間は火が持つはずだ.そこから1〜2時間経っても僅かな温かさは残っていると思っていた.もしかすると,私の体感時間と実際に経過した時間とにかなりの差があるのかもしれない.だが,それはそこまで大きな問題ではない.もし,体内時計が狂っていて,半月を越してもダンジョンから帰ってこないようであれば,アドラーが迎えに来てくれるだろうと考えているからだ.
置きっぱなしにしていた装備を確認し身に着けていく.乾かせず置いた服は,水気がましにはなってはいるものの着たいとは思えないほどには湿っていた.上着の中にズボンを包み,袖を胴に括り付けた.これで全ての装備の装着が完了し,再び光の間へと戻った.
私が戻ると彼らは,通常サイズの魚を3匹用意してくれていた.早速調理に取り掛かりたいが,その前にまずは一杯の水を飲みたい.乾いた流木を拾い集める.そして短剣で流木を削り,薄く燃えやすい木屑を作っていく.そこへ火越し器を当てるが,やはりなかなか火起こし器の温度が上がってこない.辛抱強く待つとやっとのことで湯気が出始め,火が付いた.火種に細い枝や大きめの流木をくべていき,火がしっかりと安定したところで,金属製の携帯カップ一つに布を当て,ある程度の汚れを濾しながら水を汲み上げる.そして,カップの底についた水をシャツで軽く拭きとり,火に当てる.乾いた口で爪を噛みながら,数分ほど待つと沸騰し始めたので,火から遠ざけ,冷ました.まだ熱いが,カップの水を軽く啜る.全身に染みわたると同時に湖に何度も入出を繰り返し,冷えてしまった体を少しでも温めてくれた.
少し,気力も回復したところで,服を乾かすために焚火の周りに木でつるした.次は魚を調理しなければならない.食べ終わったら,またひと眠りしよう.短剣で魚の腹を裂き腸を取り出す.そして,鋭利な枝に魚を刺し火に焼べる.油が滴り,パチパチと弾けるような音を立てて焼けていく魚を眺める.魚の表面にうっすらと茶色い焦げが入っていく.念の為に裏返し焼いておく.裏面にも同様の焦げ目がついたので,そろそろ頃合いかと思い,棒でしっかりと火が通っているかを確認してみる.大丈夫そうだったので,焼けた魚を食べる.普通に美味い.ただ少し,塩が欲しいところではある.この湖は真水で,飲み水には困らないが塩に関しては,不足する.革袋に塩を少し携帯しているが,水に濡れてしまった状態のためよく乾かせば,内側に再析出したものを使えるはずだ.
魚を食べ終え,水も飲み終わったので眠ることにした.ペンギンもどき達にも眠ることを伝えると彼らは,私の周りに集まり,集団で寝る準備を始めた.私は驚きを隠せなかったが,私はもうすでに彼らに仲間として認められているのかもしれない.なぜだろうか.思い当たる節は二足歩行という点にしかない.しかし,悪いことではないため焚火へ流木を追加し,眠った.彼らに囲まれた安心感もあり,熟睡してしまった.
目覚めると,ペンギンもどき達はすでに起きており,私が起きたことを確認すると漁に出てくれた.彼らは,もしかすると私を仲間の子供のように思っているのかもしれない.それも子供という点では間違いではないが...
寝る前に干した服を回収した.しかし,服には,しっかりと昨日食べた魚の匂いが染みついてしまっていた.少し悲しくなりながらも新たに火を起こす.水を沸かし,腸を取った魚を焼く.今日はヤスデの巣を攻略しよう.そう思いながら,魚を齧り,白湯を啜る.腹ごしらえを済ませた私は覚悟を決め,ヤスデの巣へと続く通路の前に立ち,短剣の握りへ手をかけた.




