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白澤百合姫の転生日記  作者: トキムネ
家族との日々
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偶然は重なる

ひと段落したところで落としたパンのことを思い出し,どうも腹が落ち着かない.そのせいか香ばしく良い匂いがする方へとつられて歩いてしまう.そうしているうちに匂いの根源へとたどり着いてしまった.開きっぱなしの扉をくぐり中へと入る.室内は冒険者やヒッピーやらで賑わっていた.様子を見るに,ここは格安の食事を提供している食堂であると見当がついた.席に案内されるわけでもなく,空いているテーブルへと着く.ウェイターは酒と料理を忙しそうに運びこちらへ来るそぶりもない.軽く手を挙げていたが気付かれず,大声で呼び止めるもの億劫であったため,数分してから席を立ち他の店へ移ろうかと椅子を引いたとき,隣に馴染みのある顔の男が座ってきた.


「久しぶりだな.」


唐突な出来事だったので,私は豆鉄砲を喰らった鳩のようなってしまった.変装しているはずなになぜ気づいたのだろうか.


『...まだ数日ぶりだよ.久しぶりというほどでもないよ.それより,なんで私だってわかったの?』


勇気を出して,声をかけてくれたであろう父に対して素直に慣れない私がいる.


「まぁそうだな.なんとなくの雰囲気だな.でも元気そうでよかったよ.ところでもう飯は食い終わったのか?」


『いや,まだだよ.』


父は,私に変装の理由を聞かない.父のこういうところが好きだ.


父が右手を挙げ,ウェイターの方を見つめる.本当にそれで来るのかと思っていたが,数分後にちゃんと注文をとりにきた.


「ウグロの肉と豆のスープあと水をください.娘にも同じものをお願いします.」


注文を終えると,会話を再開した.


「あの愛想のない置き手紙だけ残して出ていっただろ?母さんはカンカンだよ.だけど,それ以上に心配していたよ.」


『母は心配してくれているんですね.』


「おいおい,俺が心配してないみたいな言い方をしやがって.」


父は笑って続けた.


「自分の娘だぞ?心配しないわけないだろ.確かにお前は異常に大人びていて,俺たちが世話を焼かなくても自分の足で歩いて成長していく自主性が大きい子供だとは思う.しかしだ,俺の娘に変わりはない.我が子を心配するのは親の性ってものだよ.」


『本音?』


「本音だ.こういうときくらいしか腹を割って話す機会もないだろう.」


『確かに,そうだね.』


返事をするとちょうどウェイターが私と父の間に割って入ってきて,テーブルの上に料理を並べていった.お互い目を見合わせ,料理に手をつける.私はスープから口をつけたが,素朴な味がした.もう少し塩を足してもよいと思ったが,今の気持ち的にはこのくらいがちょうど良い気がした.次に肉料理の方へ移る.熱く熱された鉄板は音を立てて肉の油とソースを跳ね散らかす.そのソースの匂いと共に,ガーリックチップと胡椒の匂いが顔へと上がってくる.食欲をそそられ,さっそくナイフを入れた.カットした肉を口へと運ぶ.肉の味は薄いが,ソースのおかげでちょうど良くなっている.肉のこう言う食べ方も嫌いではない.このような安い肉は,肉の味をしっかりと味わうというよりもソースの味でガツガツと鉄分の味を感じながらワイルドに肉を食っている感を楽しむものだと私は思っているからだ.

肉を食べる時,特にステーキの時はなぜか黙々と食べてしまう.沈黙が続き,ガヤガヤと騒がしい客たちの声やナイフと鉄板が奏でる無機質な音だけが私と父の間を埋めた.言葉で言い表すことはできないが,不思議と父との沈黙は気まずくはなかった.


食べ終わると父は私に茶を勧めてきた.


「まだ急ぐことはないだろ?ここの茶は最高なんだ.まぁ,一杯くらい飲んでいけよ.」


そう言うと,私の返事を待たず先ほどと同様にウェイターを呼び注文してくれた.


茶が届く.ポットは付いてこず,想像していたよりも小さめのコップだった.容器の中の茶は,どうもミルクティーのような見た目をしているが砂糖は付いていないようだった.私が戸惑っていると,父がまぁ飲んでみなよと勧めてくるので少し飲んでみる.しっかりと茶の香りがする濃厚なミルクティーだが非常に甘い.しかし,この甘さは気持ちの悪い甘さではなく,しっかりと抽出された茶の渋味とマッチしておりジャンキーな感じがして美味しかった.


父は数口茶を啜ると遠い目をしながら独り言のように,唐突に物騒なことを呟いた.


「少し頼みなんだが,俺たちに何かあったらイージスを頼むよ.」


この頼みに対する返答は,軽々しくできないほど言葉の責任が重い.たが,私がやらねばならぬのだ私が.


『...わかった.』


コップを両手に持ち茶を飲み干すと,粒子状ではなく塊の砂糖がコップの下に沈澱していた.本来は,一杯で終わるのではなく同じコップに2杯,3杯と茶を注いでもらって飲むらしいのだが,私は一杯で十分だった.


父は小さな革袋を手渡してきた.


「俺ができることはこんなことくらいしかないが受け取れ.少ないがな...」


一瞬戸惑ったが,受け取ることにした.


『ありがとう.受け取っておくよ.』


父はさらに続けた.


「俺はお前の意思を尊重するよ.ただし,生きて帰ってこいよ.後,帰ってきたらたっぷりと土産話を聞かせてくれよ.これは約束だ.」


そう言いながら,拳をこちらへ向けてきた.私はその拳へ私の小さな拳をぶつけた.私がテーブルへ代金を置こうとすると,父が片手を私の前に出し制止した.


『ありがとう.』


その感謝の答えに父は微笑で返してきた.


私は席を立った.


「良い剣を携えているな.」


『いいでしょ.知り合いに貰ったんだ.』


最後くらいは,はにかみながら言葉を返した.そこから私は後ろを振り返ることなく森へと帰った.

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