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白澤百合姫の転生日記  作者: トキムネ
家族との日々
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手違い

翌朝,目覚めるとアドラーの気配はすでになかった.朝に弱いはずのアドラーが早朝から出かけるとはよほど大事な用事なのだろうと思う.私は,お気に入りの皿へパンをのせ,ポットへお湯を注いだ.そして,茶葉を蒸らしている間に鏡の前にたった.その鏡には,黒髪の少女が写っている.見慣れない風貌に違和感を感じた.ここへさらに黒い布を目に当てる.布は麻のような生地でできており,ある程度は視界が確保されている.その視線を鏡へ映る少女へ向けた.まるで別人でも見ているような変わり方だった.この姿であれば,あの町へ行っても問題あるまい.


このような姿になれたのは昨日の苦労があったからだ...昨日,風呂場でウィシュシュの実の濃縮液が入った瓶を開けた.すると,湿気た革のような匂いが鼻孔を強烈についてきた.その匂いのせいで,気が飛びそうになるのをこらえつつ,瓶から濃縮液を取り出そうと木の棒を突っ込む.瓶からコールタールのように粘性を帯びた液体を葉へ移し,まじまじと見つめる.本当にこれを頭に刷り込んでいくのか...頭に濃縮液をのせ,櫛でなじませていく.以外にもヒヤッとした感覚が頭皮に伝わってくるだけで,ヒリヒリすることもなかった.30 minほど浸透させ,お湯で流す.そうすると,これが驚くほどよく溶けて流れていく.もともと水溶性の染料であるためだろうか.本当にしっかりと髪が染まっているか心配になるほど易々と濃縮液がとれていった.洗い終わり,乾かした後は少し匂いは残っているものの原液が塗られているときよりはだいぶましであった.今日になると,あのひどい匂いはほとんど残っていなかった.


私も町へ発とうと準備を始めた.アドラーからはまだ装備をもらっていなかったので,今までの自分の装備を点検していった.最悪の事態に備えて.最後に一番大事な手紙を持ったことを再度確認し,町へ向かった.道中,D級モンスターに遭遇しかけたりしたが,無事に森を抜け町へ着くことができた.一番最初に郵政省の支店へと足を運んだ.


飾り気のない扉を押し,支店へと入る.思った以上に中は広く,窓口が多くあった.私は,その内の一つの窓口へつき,尋ねた.


『すみません.手紙を出したいんですが.』


背伸びをしてカウンターへ手紙を置く.


「この手紙だけでしょうか?」


『そうです.』


「手紙1枚,グリーン領オルフェス領北区3番郵政支店ですね.」


『はい.そうです.』


この世界では,まだ完全に住所と言うものが存在していない.なので個人に直接郵便が届くのではない.郵便は郵政局の支店で預かられており,住民はそこへ郵便が来ていないかを週に一回もしくは月に1回程度見に行っているという制度をとっている.


「この封筒に手紙以外の硬貨などの貴重品の類は,はいっていませんか?」


『大丈夫です.入っていません.』


「それでは,料金が銅貨2枚になります.」


私は再度背伸びをしながら,銀貨1枚を手渡す.お釣りの銅貨8枚を受け取り,革の財布へと仕舞った.


「確かに受け取りました.しっかりとお届けさせていただきますので,ご安心ください.」


『ありがとうございます.』


あっさりと手紙を出し終えてしまった.少し,気持ちが楽になった.


店の外へと出る.日の昇り具合からしてもまだ森へ帰るには早い時間だった.少し寄り道でもしようと当てもなくぶらぶらと大通りを歩いているとどうも騒がしい人だかりができているのを見つけた.そこへ行くとなにやら劇が行われているらしいことが確認できた.舞台上は目の前の大人たちで見えにくいながらも隙間,隙間から様子を伺う.すると魔法少女のような姿をした女性が観客に手を振っている様子が見られた.


「みんな,今日は集まってくれてありがとう!」


大歓声が上がる.しかし,見えにくいがこの盛り上がり方は嫌いじゃないので,少しの間暇つぶしでここに立って様子を見ようと思った.その歓声に沸く観客の合間を縫って竹籠の中にパンを詰めた物売りが近づいてきたので,銅貨一枚でコッペパンを一個買うことにした.一口齧り,群衆に紛れパンを持っていない方の腕を上げて一緒に盛り上がってみる.周りに感化され段々と楽しい気持ちになってきた.


「今日,この町は平和かな?」


舞台上の女が大声で観客に問いかける.それと同時に太い腕が私を担ぎ上げ,走り出した.その時,コッペパンを落としてしまい,私はなんともいえないクシャクシャな顔をした.おい,この町は人攫いが多すぎるぞ,治安はどうなっているんだと思ったが,それ以上に落としたパンのことを考えるとどうでもよくなった.悲しい気持ちになっていると,その人攫いは舞台に上がり,魔法少女の姿をした相手の目の前に立った.


「くそう,こうも道を塞がれてしまっては逃げることはできないらしいな.こうなれば,俺も腹を括るしかないようだ.」


なんともわざとらしいセリフを吐くと,私を地面に下ろし,首元に剣の刃を当てた.すると私たちの後ろに奇声を上げながら手下と思しき2人が現れ始めたではないか.


「その子を放せ.」


魔法少女が大きく叫んだ.


「そうやすやすと開放してたまるものか.この人質がいる限り,お前はこちらに手出しはできまい.」


人攫いは話の分かる人物ではないようだった.


「お前たち,奴を殺せ!」


一気に2人の子分が魔法少女を襲う.私がいるせいか抵抗は一切せず,容赦なく殴る蹴るといった暴力にさらされ,ついには膝をついてしまった.その様子を見ていた観衆から大きな声援が出始める.その声援が強くなるほど,男の腕の力が弱くなっていく.おそらくここで私はこの腕を振り払い,向こうの魔法少女の後ろは行くのが正解なのだろうと察する.


私は力強く腕を振り払い,彼女の元へと走った.途中,手下が私を捕まえようとするそぶりを見せるも私はスライディングでそいつの股下を通り,彼女の後ろへ隠れた.すると魔法少女は微笑した.


「人質がいなければ,こちらものだ!」


そう言うと彼女は炎を纏い,まるで舞でも舞っているかのように鮮やかで優雅に男たちへ攻撃を加え、瞬く間に倒してしまった.そうして大盛況のもと舞台幕が下ろされた.


幕の降りた舞台上で1人取り残された私はどうしてよいかわからず,舞台袖へ向かおうとした.そこへ先ほどの男が現れ、私の腕を後ろから掴む.私が振り払おうとするとより力で掴まれてしまった.


「すまないが,ついてきてくれないか.」


『...わかりました.』


仕方がなくついていくと,そこは楽屋だった.扉の先には先程の魔法少女が座っている.彼女は開口一番に謝罪してきた.


「ごめんね.本当は君じゃなくて他の子がする役だったんだけど,あまりの観客の多さでこいつが攫い間違えてしまってね.」


そう言いながら,私の後ろの敵役の男性を指さした.


「面目ない.」


後ろの男は申し訳なさそうに頭を下げて謝罪してきた.


『えっと.あなたは?』


「私はリリィ・レッドまたの名を業炎のリリィ.勇者をやる傍らで役者もやっているんだ.リリィさんでいいよ.」


リリィはにこやかに答える.


「いやぁ.本当に助かったよ.ありがとうね.君がこいつの腕の中にいるのを見たときは思わずギョッとしちゃったよ.だって打ち合わせのときと違う子だったんだもん.」


『それでも表情には出ていませんでしたね.』


「まぁ私も役者の端くれですからねぇ.ふふぅ.」


彼女は鼻を高くしている.これらの会話で私はリリィに対し好感を抱いた.


「モノは相談なんだけどねお嬢さん.n」


『リリアです.』


「ごめん.リリアちゃん.相談なんだけど,君への報酬と謝罪をこめて,何か欲しいものをプレゼントしたいと思うんだけど、どうかな?それで手打ちにしないかい?」


『そうですね...欲しいものかぁ...あっ.ナイフが欲しいです.』


「ふふぅ.そうだねぇ.少し待ちなよ...」


リリィは自分の装備品を探り始めた.


「これを君託そうぞ.」


リリィは私に短剣を手渡してくれた.この剣を鞘から抜き,剣身を見る.少し白金色に光沢をもち,ずっしりと重い.私はすぐにこの短剣を気に入った.なぜなら,私は重めのナイフが好きで前世でも重量感のあるナイフを使い込んでいたからだ.


「この前行ったダンジョンでのドロップアイテムなんだけどね.ちょうど換金前でよかったよ.私はもう専用の剣を持ってるし,その短剣は結構いいものだと思うんだけども君にあげるよ.大切に使ってね.」


私はにこやかに感謝の言葉を口にした.


楽屋の外の廊下を歩く.リリィ・レッド,三大大貴族の内の一つであるレッド家の出であろうというのにあんなに気さくな人間だとは.ぜひ記憶にとどめておこう.そう思いながら劇場を後にした.

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