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白澤百合姫の転生日記  作者: トキムネ
家族との日々
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いざサーディンへ向かわん

ゴブリンとの晩餐会の後、帰路に着いたが家に帰りたくなく、このままどこかへ行ってしまおうかと思った。そこで,前のようにエルグの森の中央に位置する木に登り陶然と夜空を見上げる.見上げた先には,以前と変わらぬ表情をした星々が輝いていた.


翌日、ダラダラと旅をしても意味がないと思い、計画を考え始めた。まずは,この焦燥感の原因を考える必要がある.端的な答えは,私が魔力を使えないことにある。魔力を持っているものは、日常的な鍛錬を積むだけで自動的に魔力による筋力強化や防御力などが向上する.そのため,理論的には,この世界の住人は年月を重ねると入場可能なダンジョンのランクや受注できるクエストの段階も上がっていく.しかし私の場合は,今のまま生きていても狩れる魔物なども限定され続けるだけだ。それに何といっても魔法が使えないことが大いに悔しい.魔法に関する学習は,本などでインプットができても魔力の無い私にはアウトプットができず,ほぼ限界に達している.このまま現状維持な未来は面白くない。この魔法と剣の世界で、つまらない人生を送りたくない。剣と魔法を使い胸踊る冒険がしたい。こう考えるのは、姿だけでなく精神も退行してしまったからなのかもしれない。


次に魔力を使えるようにするための方法を考える.魔力を生成することは,本来この世界の生物であれば生まれたときに必ず備わっている機構であるため,体の中で魔力を生成するための機序などすでに自明なものだと思っていたが,私が目を通した限りだと一般の教科書レベルには記載されていない.この現状を打破するためには大学にでも行って論文を読むか専門家に尋ねる必要がありそうだ.それなら商業都市サーディンへ行こう.サーディンには,この国で3番目にでかい皇国立図書館やその図書館に隣接する第3皇国立大学もある.そうと決まれば家で長期遠征の装備を整え,反対するであろう両親へ置手紙をし,すぐにでも出発しよう.


最初に最も重要な仕事として置き手紙を置いた.その後に装備を取りに行こうとした際に父の足音がこちらへ近づいてきたため急いで家を出てしまった。そのせいで長期間の旅路に出るための装備は何も持ってきていない。今持っている装備は,エルグの森など短期間の滞在に使用するものだけだ.まず,最も重要な飲料水と食料の確保があるため再度エルグの森へ向かった.


ほぼ私の拠点となっている背の高い木に登り,地図を開く.地図を見るとこのエルグの森から商業都市サーディンへの最短距離は,エルグの森を北東へ抜け,川を渡り,ペルエルの大森林を通り,プルククラ山脈を越え,平地に出ることである.その領地へ通常のルートで行くとするとプルククラ山脈を迂回することになるので,追加で3ヶ月程度かかってもおかしくはない。今回の目的は楽しむ旅をしようというものではなく、私の現実を直視するための旅だ。最短で進もう。私の決心は固く、山脈を越えることにした。ここでこの最短距離のルートを選択するといくつかの問題点がある.①名前大森林を迷うことなく直線に進む必要がある.②最短距離を進むとなるとプルククラ山脈を越えなければならない.③サーディンへの入管検査を行っている可能性がある.ここへは入れていないが領境付近には警備兵が巡回している可能性を考慮してはいる.①に関してはどこかで魔針コンパスを調達すれば問題ではなくなるだろうと考えている.②に関しては道中で防寒対策の装備や出現モンスターの危険度などの情報を集める必要がある.③があった場合の対策は全く考えられていないが,必要に応じて考えることにした.


木から降り,ホーンボアを狩った.血抜きを行い,解体をしている最中に不手際で骨にナイフが当たり、変に力がかかったのか柄の付け根付近でいともあっさりと折れてしまった。そういえばこのナイフは家から外に出ている際に色々なシーンで無理に使ってしまったから,かなり疲労が蓄積していたのかもしれないと悲しみに暮れた.気を取り直しブレードの部分だけを持ち、残りの解体作業を済ませた.その後に父からもらったお古のナイフは小川の水できれい洗った後に布で包みポシェットへ大事にしまった。


再度ゴブリン達に会い,今後の予定を話し,途中で狩ったホーンボアの肉と保存食や飲料水を交換してもらった.もらった食料などと共に一気にエルグの森を抜け,穏やかな川沿いに出てきた.目の前には,以前も目にしたことがある山々が並んでいる.この景色は何度見ても幻想的で見入ってしまう.その山々の中でも最も高い山へ目をやる.あそこは八百万の精霊が住むと言い伝えられている霊峰である.しかし,それとは対照的にこの山脈は降灰竜が住むと言われている恐ろしい山脈でもある.しかもその降灰竜は,降灰竜の中でも固有名が付けられているほど危険だという噂だ...まだ見ぬ不安へ思いを募らせながら,視線を山から目の前の川へと下げた.この川沿いの整備された道を西に行くとトレイシアと出会った場所に着き,東へ向かうと先日にウグロを狩った山が見えてくる.私は,このまま川を直進し,ずぶ濡れになることは避けたかったので少し迂回し,橋を渡ることにした.地図に載っているほど大きな橋は,ウグロが生息する山よりさらに東へ進むとあるらしい.だが,そこまで行くほど時間をかけたくなかった.もっと簡易的な橋でも良いと思い,あたりを見渡すと地元の住民たちが使っていそうな橋を見つけることができた.その橋は,両端の細長い丸太を芯とし,その上に平板を付けた簡易的で随分と年季が入った橋だ.その橋へ一歩踏み込む.平板を踏むとゴム板のような弾力があり,不安になるような音を立てる.いつ橋に穴が開くかを警戒しながら渡り切った視線の先にはペルエルの大森林が広がっていた.

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