「リリア風シャリアピンステーキ」
ドラゴンとのやり取りから気を取り直し,道中に物々交換で少々の肉を玉ねぎと交換したりしながら大事にウグロの肉を抱えゴブリンの洞穴まで歩を急がせた.
彼らのホームへ着くとすぐに調理の準備へ取り掛かった.1人のゴブリンへ玉ねぎを擦りおろしにしてほしい趣旨を伝え,私は,もう他方の玉ねぎをみじん切りにする.一切れ200g程度になるようにカットした肉へ擦りおろしたたまねぎをコーティングし,他の料理が提供されている間を使い寝かせておいた.
そろそろメイン料理の番が来そうなのでシャリアピンステーキの調理を始める.ステーキを焼くのに重要なバターの存在をすっかり忘れてしまっていた.辮髪のゴブリンにバターがないか聞くと残り少ない常温で保存されていたバターを手渡された.そのバターを半分に切り,ある程度熱されたであろう鉄板へ投入する.バターだけでは不十分なため少し植物性オイルを足す.鉄板を回し油脂を全体になじませる.バターが白い泡をふつふつとたて次第に茶色く焦げてくる.その機を逃さず,すぐさま肉を投入する.
鉄板へ入れた肉がジュっと良い音を立てる.鉄板に当たっている面を焦げ目がつくほど十分焼き,火を少し弱め裏返す.木製のフライ返しで肉をつつき,肉の柔らかさを確認する.中はほぼ火が通っておらず,ぷにぷにと柔らかい感触がフライ返しを通して伝わってくる.裏面も焼き色が付いたらフライ返しで肉を立て,角を焼いていく.全体に焼き色が付いたら肉の柔らかさを確認しながら何度か裏面と表面を焼いていく.ふとした瞬間に肉の硬さが変わるときがある.そこを逃さず,急いで大きめの木の葉っぱへ肉を移し,葉っぱで包み込む.このようにしてじんわりと余熱でステーキの内部まで熱を入れる.
ステーキを寝かせている時間を利用して次にシャリアピンステーキの命ともいえる玉ねぎのソースを作っていく.残り少ないバターを半分に切り鉄板へ入れた.投入されたバターは熱されたことにより泡立ち独特な香りを立てる.そこへみじん切りにした玉ねぎと擦りおろしにした玉ねぎの両方を入れ炒め始める.水分がいい具合に抜けると飴色になった玉ねぎがパチパチと音を立てはじめ丁度よい粘性を帯びる.すぐさま火から遠ざけ,軽く醤油を適量と胡椒を少々加える.そして,寝かせておいた肉を盛り付け用の葉っぱの上にのせる.ここが一番重要なのだが,肉を取り出した葉には多くの肉汁が残されており,こいつを玉ねぎのソースへ加え,鉄板の余熱と共にしっかりと混ぜ合わせる.一口サイズに肉をカットしていき,このソースを肉の上へのせる.最後にアレンジとして砕いたアーモンドを振りかけてリリア風シャリアピンステーキの完成だ.
ゴブリン数十人ともなると大きな鉄板でかなりの数を一気に焼く必要があったので,うまく焼けているか少しドキドキしている.全員に肉がいきわたり,私は一言発した.
「ご賞味あれ.」
ゴブリン達は木製フォークでステーキを口へ運んでいく.言葉一つ飛ばず,租借音と食器がぶつかり合う音のみが響く.全員が食べ終わると上座に座っていたゴブリンが私に近づいてきた.右手を出してきたのでこちらも右手を出す.しっかりと握手し,そのゴブリンが口を開いた.
『素晴らしい料理をありがとう.申し遅れたが,私はこの部族の部族長をやっているものだ.君が作った一品は非常に美味しかったよ.』
「ありがとうございます.光栄です.一点だけ心配事があったのですが,玉ねぎはお口に合いましたでしょうか?」
私は苦笑いで問いかけた.
『もちろん問題は無いよ.むしろ,我々は好んで食べる.話は変わるが,君が我々に料理を作ってくれたことは,非常にうれしかったよ.そこで,友好の証としてこれを受け取ってはくれないか?』
小さい木彫りのアクセサリーを手渡された.
『もし,困った時があれば我らの同胞にそれを見せると良い.良くしてくれるだろう.』
私は,このアクセサリーをありがたく受け取り,代わりにリリア風シャリアピンステーキのレシピを教えた.前世で上官に連れて行ってもらったレストランで注文し,あまりのうまさに感動し,レシピを教えてもらったことが役立った.そのレシピへ私好みのアレンジを加えてはいるが,ゴブリンの口に合ったようで何よりだと思った.
食事の後片付けを手伝い私は帰路についた.日も暮れ,遅くなってしまったが,今日は非常に充実した1日だったと思った.しかし,焦燥感は薄れることは無く,むしろ外部の世界への好奇心と混ざり合い冒険へ出る意欲が異常に湧いてきてしまっていた.
三國清三,#370『シャリアピンステーキ』赤身の牛肉を楽しむ!|シェフ三國の簡単レシピ,https://www.youtube.com/watch?v=m78_PjdnPkw(20240802)
シャリアピンステーキの調理に関しては上述の動画を参考にいたしました.また,本文に記載している内容は私が実際に調理し,アレンジを加えたレシピになります.