ほのぼの2
たまにオルフェス家へ遊びに行ったり、勉強と剣術の稽古をしたりして時間が過ぎていった。ある日の夜に私は再度、禁書を手に取り、読み始めた。
第二章 双子
皇国の進撃は隣国だけでは収まらず、周辺諸国にまで達していた。しかし、周辺諸国が徒党を組んだため戦線での損害が格段に膨れ上がっていった。再度勇者に召集がかかり、数日後に前線へ配置されることになった。勇者の目の下にはクマができ、勇者に選出されたころの希望と正義感に溢れ輝やいていた目は光を失っていた。この様子から、よほど前回の戦いが堪えていることが感じ取れた。私は、勇者の世話をしている使用人に翌日から勇者の状況を報告してもらっていた。報告によると、前線へ派遣される前日まで自室に閉じこもり、部屋の外には一切出なかったそうだ。これは自国の正義と勇者としての絶対的道徳感との狭間に置かれた清き心が逃げ場を失っていたためであろうと推察された。ついには戦場に出向かなくてもいいようにと自身の利き腕を切断してしまったらしい。耐え難い激痛と潰れかかった精神から勇者は気を失ったようだった。使用人が近づき、声をかけながら体をゆすった。すると勇者は起き上がり何事もなかったかのように腕をくっ付け、使用人に怒鳴った。
「おい、そこのお前、このグミィ様に酒を持ってこい。」
『はっ、はいすぐにお持ちいたします。』
「駄目よ、グミィお酒は体に毒よ。」
「うるせぇ、シルルは黙ってろ。」
使用人によると勇者の瞳の色が互いに異なっていたらしく、あたかも二人いるかのように声質が変わり一人で会話していると聞いた。加えて、その二人はグミィとシルルと名乗ったとの報告も受けた・・・
やはりこの本は実話にしてはあまりにも生々しく、様々な観点から禁書になるのは当然であると感じた。私は、禁書をその日以降開けることもなく変わりのない日常を淡々と過ごしていた。
ついにフローリア家に祝日がやってきた。そう、私の弟が生まれたのだ。私は母が抱いている弟の顔を見せてほしいとせがんだ。すると母が弟の顔をこちらへ向けてくれた。弟はしっかりと両親に似ており、修羅場になることもなかった。
二階で弟を寝かせ、両親はダイニングで弟の名前を一生懸命に決めていた。
『ねぇ、私に決めさせてよ。』
これに父と母は苦笑いしながらも冗談で許可してくれた。
『イージス。イージス・フローリアでどうかな。』
この発言に両親はお互いの目を見つめ合っていた。結局数時間後、弟の名前はイージス・フローリアになった。
弟が生まれてからというもの母と父は仕事以外の時間は弟に付きっ切りで、私に構ってすらくれなくなった。弟が両親によく似ているからしょうがないとは感じるのだが、少し寂しかった。そのため、私はよくエルグの森へ遊びに行った。
この日もエルグの森へ遊びに行き、大木の上でお気に入りの景色を眺めていた。少し小腹がすいてきたので狩りをすることに決めた。狩りと言っても道具などは使わず、素手で行う。
木から降り、森へ再び入った。匂い, 気配, 音や直感を頼りに獲物がいる方へ歩を進める。すると一瞬だけグレーの影が私の視界を横切った。そして、それを見逃さず瞬時に追いかけ捕まえた。グレーの影の正体はクイックラビットだった。すぐに血抜きし、皮を剝ぎ、あとは焼くだけの状態にした。大木へ戻り、いつもの道具で火を起こし捕りたての肉をすぐに焼いた。じっくりと焼きながらハーブ等を浸けた特性オイルを三十分に一回程度の頻度で塗った。焼きあがったものを葉っぱの皿の上に乗っけて、仕上げに塩コショウを軽く振った。綺麗に洗ったナイフで肉を切り、思いっきり頬張る。いい味だ。香ばしい肉の匂いにつられた二頭のプスードウルフが周りにたかってきたので、残り半分の肉をあげた。その二頭はなぜか私の近くに寄ってきた。私が大木に上って景色を眺めようとも大木の下から動こうとしない。終いの果てには大木の下に居座ってしまった。彼らは私が森から出ようとすると見送りに来てくれた。その日以降、私はエルグの森へ行く日には彼らと戯れたり、狩りをしたり色々なことをして遊んだ。