ほのぼの1
白魔力について気になった箇所があったため図書室で少し調べようと、いくつかの本を開く。
白魔力とは、魔素から直接取り出せるエネルギーのことである。また、身体強化魔法, 回復魔法や防御魔法などを発動する際に必要になってくる魔力のことである。
白魔力は太陽や火山などで活発に放出されており、植物はこれを魔素の結合として蓄積する。植物は日が落ちるとともに蓄えた魔素を白魔力に変換し、著しい気温の変化に耐え抜くのである。また、植物になる果実の糖度と魔素含量には正の相関関係があるということがわかっている。20)
白壁とは、生物が防衛本能から纏っている白魔力のことである。このように結合としてではなく流体状の白魔力として存在させる場合には、白魔力の寿命が著しく低下する。そのため、体内で魔素から変換された白魔力を外部へ供給し続けることになる。加えて、体内で生成することができる白魔力の多さに比例して白壁の強度(密度)や大きさ(体積)が向上する。一方で、白壁は外界から受ける魔力や魔法を減衰もしくは消失させることができる防御魔法の一種でもある。また、白壁を完全に消失させることは不可能であるため、人間は植物のように白魔力を直接蓄えることができないことはオーリーの実験からわかっている。23)
より本を詳しく読んでいくと、白魔力の状態がかなりあいまいに書かれていることに気づいた。ある時は白魔力そのものが流体状として存在し、またある時は結合として存在するといったように様々な状態を取りえるらしい。それらは白魔力特有の性質であり、これを白魔力の多重性というらしいが・・・。これ以上踏み込むとよくわからなくなるので、私は流体状として扱うときは白魔力の寿命が短く、結合などに閉じ込める場合は寿命が長くなるといった解釈に落ち着いた。
また少しの希望も見えた。現時点で魔力を持たない私は魔力を持てないのではなく、魔力を生成するための能力が欠けているだけではないかと考えた。即ち、この考えが正しい場合は体外から受ける白魔力を直接蓄えることができるはずである。
ここで出てくるオーリーさんはすでに亡くなっているが、魔動学の第一人者だったらしい。どの魔動学の本を読んでもこの名が書かれていない本はなかった。
右上に目をやり、本の内容から考察を練っていると、肩を指で二回ほどつつかれた。振り向くとトレイシアがいた。
「私に一言もかけずに、図書室にいるとはどういうことですか。」
トレイシアは笑顔であったが目が笑っていなかった。
『悪い、気になったことがあったから、つい。』
「まぁ、いいわ。あそこに座って少し待っておいて。」
『わかった。』
私は指さされた中央の大きな机で歴史書を開いて待っていた。数分くらい待つとトレイシアが、三枚ほどの紙を持ってやってきた。その紙を渡すや否や一枚五十分のペースで解けと言い始めた。私は否応無しに、渡されたペンを握り一枚目の紙を見た。すると、高校レベルの数学の問題が並んでいた。これを三十分程度で解き切り、次の紙を見た。二枚目の紙の上半分が国語の問題で下半分がよくわからない文字の羅列であった。上半分を二十分程度で解き、下半分は恐らく外国語の問題であることが予想できたため、そこには手を付けず三枚目の紙を見ることにした。三枚目は歴史の問題であり、今まで本を読んできたおかげで七から八割程度はわかった。
解き終えた試験?をトレイシアが解答を見て採点し始めた。
「数学は九割、歴史は七割で外国語を除いた語学では八割、すごいわね。これならあと外国語を勉強するだけでレーウェン剣魔第一高等学校に受かるわよ。」
『そうか。』
この興味のなさそうな返事にトレイシアが鼻息を荒くして私に迫ってきた。
「いい、レーウェン剣魔一高はこの領地で最もレベルの高い高等学校なの。それに将来、私が通う高等学校よ。貴方も将来受験してはどうかしら。」
『構わないが、受験するにしてもあと十年は先だぞ。』
「え?ということは私の一つ下っていうことかしら。てっきり十歳程度だとおもっていたわ。」
トレイシアは目を丸くした。勘違いするのも無理はない、一種の改造人間である私は育ちがすこぶる早いのだ。
トレイシアが目を輝かせながら私に言った。
「それなら一緒に入学できるわね。レーウェン剣魔一高はこの領地のトップ校だから生徒の能力が青天井になるの、だから十五歳以下ならほぼ誰でも受験することができるのよ。」
レーウェン剣魔一高への入学の約束をした後で、トレイシアに“十人の悪魔”という本を知っているか尋ねてみたが、知らない様子であった。しかし、司書に尋ねてくれたので、司書が私に話に来てくれた。
「十人の悪魔という本はですね。私自身内容は知らないのですが、国の禁断書籍に指定されている本になりますね。」
『そうですか、ありがとうございます。』
「興味本位の質問なのですが、どこでその本の名をご存じになったのですか。」
『あぁ、それはですね。少し前に古本屋を訪れた際に、怪しい男に絶版になった本はいらないかと声をかけられまして。その本の題名が十人の悪魔だったんです。』
私は、司書の表情からこの本を所持しているということが、どれほどまずいとことなのかがわかった。そのため私はとっさに嘘をついた。
だいたい十六時くらいになり小腹がすいたので、トレイシアの部屋でおやつと簡単に入れた茶で一服した。トレイシアと談話していると、三回ほど扉をたたく音が聞こえた。
「お姉さま、クロムです。客人が来られていると聞いたので挨拶に参りました。」
『どうぞ。』
トレイシアと同じで整った顔立ちの少年が私たちの前に来て、右手を胸に当て会釈した。
「弟のクロム・B・オルフェスと申します。宜しくお願い致します。」
『初めまして、リリア・フローリアと言います。こちらこそよろしくお願いいたします。』
この世界での貴族にはアルファベットでミドルネームが与えられえているらしい。また、ミドルネームは貴族を示す以外の意味を持たない。互いの自己紹介が終わると、クロムはトレイシアの手を引っ張り部屋の外に出てしまった。人見知りなのかなと思っていると、話し声が聞こえてきた。
「あのっ、トレイシアお姉さま。僕は、あの方に一目惚れしてしまったかもしれません。」
『そうなるのも無理ないわ。リリアは美人よね。私が男性であったなら必ず惚れているわ。早くしないと他の人に取られてしまうかもしれませんよ。』
「えっ・・・。僕はどのようにすれば良いのでしょうか。」
『リリアは、こざかしいことが嫌いです。正面から攻めなさい。』
「わかりましたっ。」
これらの会話の全てが聞こえてしまっていた。この会話を聞いている私が逆に恥ずかしくなってきた。それにこの後、告白されることがわかっている私はどのような心情でいたらよいのだろうか。こういう時には前世で培った勘は返事をしない。私は窓の外を眺め物思いに耽けているふりをすることにした。
20), 23)はフィクションの引用文献を表したものであり、深い意味はありません。