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白澤百合姫の転生日記  作者: トキムネ
家族との日々
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案内とおやつ

一時間半ほどの長いお茶会が終わり、トレイシアによる屋敷内の様々な部屋の案内が始まった。まずは近くにあったトイレであった。本当にトイレなのか疑わしいほどの清潔感が漂い、なおかつ水洗式であった。次には大広間、その次には…と様々な場所へ案内されたが、私の興味を引いた場所は衛兵の修練場と図書室であった。修練場には前回助けた騎士もいた。トレイシアがちょび髭が生えた厳つい騎士を連れてきて私のことを紹介し始めた。


「こちらが私たちを助けてくださったリリア・フローリア様です。」


『この方がそうですか。』


彼は膝をつき頭を下げ、私に最大の敬意を払った。


『我が主と息子を助けてくださり本当に感謝しております。急務によって私が中央へ出向いている間に、そのようなことが起こり本当に情けない限りです。』


この屋敷の連中は皆こうなのか、頼むから私に頭を下げないで欲しい。私は両手を胸の位置まで持ってきて、まぁまぁと宥める感じで頭を上げてもらった。


頭を上げた騎士は微笑みながら私に木剣を渡し、ぜひ手合わせをしてほしいと懇願し始めた。私は断り、助け舟を求めてトレイシアの目を見た。するとトレイシアは、どうぞどうぞという感じの笑顔で後ろに退いていった。このとき私は、後でキャンキャン言わせてやると強く思った。そして、しょうがなくこの手合わせを受け入れた。


修練場で鍛錬をしていた兵たちは皆隅により、修練場の中央を開けた。私とちょび髭騎士は中央に立った。私は長い木剣が気に入らず、その場でへし折り短くした。そして、その短くなった木剣を順手持ちにし、親指をガードにかけた。この慣れた手つきに周りの兵士は少し驚くも目の前の騎士は口角を少し上げただけであった。


息子の騎士がやってきてルールを説明し始めた。


「ルールは簡単です。模擬戦は急所に剣が当たること, 戦闘不能になることや敗北を意味する単語を発したときに終了とします。」


つまり、実践に近く何でもありのルールということか。また、実際に騎士と向き合ってみると、この髭の騎士は人攫いの棟梁以上に強いということが前世の勘ではっきりとわかった。


髭騎士と私は五メートルほどの距離を取り、お互いに構えた。しばらくの沈黙の後に息子騎士の開始の号令がかかった。その瞬間に一歩で騎士の目の前まで距離を詰めることができた。相手が自身の絶対領域にわざと入れたということは、私の得意分野に持ち込んだとしても勝てるという自信の表れであると理解できた。このように狭い領域では体が大きい方が不利になるはずなのにだ。


コンマ数秒という間で、私は手の甲が上になるように短剣で首を刺しに行った。当然これを防ぐように右腕の腕当で短剣の進路を塞いだ。ここで短剣を握った方の腕を掌が上を向くように回転させ、瞬時に左の脇下に目標を変えた。しかし、これも左肘で右側に流された。この流れを利用して側転の要領で顔面にハイキックを入れ、すぐに絶対領域から離脱した。


この一撃を受けてもなお、相手は余裕の表情であった。これを見た私は短剣を地面に捨て、お手上げのポーズを取った。


『降参ですね。』


この言葉を聞くと、息子騎士が大声で試合終了の号令を出した。


ちょび髭騎士と私は互いに歩み寄り握手を交わした。


「素晴らしい才能ですね。是非とも将来は王国騎士団に所属してほしいものです。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はレイリー・ロストンです。気軽にレイリーとおよびください。」


『ありがとうございます。私自身、初めから勝てないということはわかっていましたが、ここまで差があるとは思いませんでした。レイリー様もお強いですね。』


お互い称賛し合い、修練場の隅にはけた。私は少し疑問に思ったことがあったので、レイリーに再度話しかけた。


『なぜ、手合わせを要求したのですか。』


「はっはっは、それは単純なことで嫉妬ですね。貴殿のことを奥様やお嬢様がベタ褒めしておられたので、ついついやってしまいました。」


これには苦笑いしかできなかった。そして、もう一つの質問をした。


『なぜ、私の蹴りが利いていないのですか。』


「それは、白魔力によって身体強化及び白壁を張っているからですよ。」


レイリーは驚いた表情で質問に答えた。


『そうなんですか。ありがとうございます。』


感謝の言葉を残し、直ぐにトレイシアのもとへ詰め寄った。


『トレイシア、なぜ助けてくれなかったんだ。』


「あなたの戦う姿が見たかったの。」


この返しに対して、無言でトレイシアを見つめた。


「わかったわ。貴方が好きなおやつで手打ちにしない?」


私は頬を膨らませながら、この条件を承諾した。


ここの屋敷の人間はやはりおかしい。緊急でもない限り、五歳児に戦闘を要求して良いわけがないと心の中で憤慨した。そして、トレイシアがおやつを取りに行っている間に一人で図書室へ向かった。

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