待ちかねたぞ。
ストンとどこかに落ちた。目を開けるともやに包まれていて、不安でいっぱいになった。マコさんの手の感覚に、一人じゃないということに安心する。
「待ちかねたぞ。」
低い声とともにもやが途切れ、やたら広い座敷にいることがわかった。
「醜女にして自害させようと思ったが、なかなかしぶといの、琴姫。」
目の前に桔梗の方が座っていた。美しいけど、鋭い目にぞっとする。そうよね。この人は私に敵意どころか殺意をもっているんだもの。
「私にどうしろとおっしゃるのですか?」
やっとのことで言葉を発すると、マコさんがそっとささやいた。
「少し頑張って。萌葱様を連れてくるから。」
そう言ってマコさんが姿を消すと、桔梗の君はますます威力を増したようだ。どうしよう。一人でどうしたら良いの?
「どうしろだと?許すまじ。我が息子に、人間になろうなどと言わせたそなたが許せぬ。転生しようがどうしようが、永遠に許せぬ。そなたの魂、永遠に絶つ。」
その言葉と同時に桔梗の方の顔が鱗に満たされ、紫の大蛇に姿を変えた。
「ひっ…!」
思わず出た悲鳴も声にならないほどの恐怖。私がどうして蛇がこんなに怖いのか、この記憶のためだと今ならわかる。
「母君、おやめください!」
乱暴に襖が開き、傷だらけの萌葱様が飛び込んできた。
「萌葱、なぜここに来た?そなたは座敷牢に閉じ込めたはずじゃ。」
「この方に封印を解いていただきました。」
見ると同じくらい傷だらけのマコさんが立っていた。もうヨロヨロしている。
「小癪な者どもめ。ともに魂を葬ってくれようぞ。」
「琴姫様、お逃げください。」
「逃げちゃダメよ。この萌葱様とも決着をつけないといけないんだから。」
私をかばおうとする萌葱様をマコさんが制止する。そして私に一本の刀を差し出した。
「さあ、これで桔梗の方の喉を切りつけて。」
「こんな物をどこで?」
「座敷牢の番人から奪い取ってきたの。さあ、早く。あなたが自分で断ち切らないと、この呪いは解けないわよ。」
「刀なんて使ったことないわよ!」
現代ならば使ったことのある人はほとんどいないだろうけど、私、剣道すらやったことないのに。
「大丈夫よ。琴姫は、やんちゃ姫だったんだから。家臣が来たら、私が切る。あなたは桔梗の方だけを切って。巻かれたら負けるわよ。それだけ気をつけて。あなたならできる!」
マコさんが私と背中合わせに刀を構える。どうしよう。
同時に家臣と思われる蛇がなだれこんできた。どうしよう。怖い。足がすくむ。そんな中でマコさんと萌葱様が、見事な刀さばきで次から次へと切り捨てていく。
怖がっている場合じゃないわ。私が斬らないといけないんだ!息を吸い込んで刀を構えた。一か八か!
―…ピキン。
刀を構えたその時、頭の中で何かがはじけたと同時に刀が光を帯びた。桔梗の方がうねりながら近づいてくるのをかわしていくうちに刀が勝手に動いたかのように感じるスピードで大蛇をめがけて刀をふりかざす。
「グワァァア…!」
雷のような悲鳴が響き渡ると同時に大蛇が倒れ、返り血が噴水のように噴き出した。
「さあ、外に出るわよ。」
マコさんに手を引かれて外に向かって走る。振り返ると、大蛇は桔梗の方の姿で倒れていた。




