蛇の執念。
「あなたが見た夢は前世の記憶なんだけど、前世の名前はわかる?」
「琴姫と呼ばれていたようです。」
「相手の名前は、わかる?」
「“もえぎ”という名前だったみたいです。」
その瞬間、マコさんの顔色が変わった。ただならぬ空気が伝わってくる。
「どうしたんですか?」
「大変な相手よ。萌えるに葱と書いて萌葱。銀の蛇のトップになるはずだったの。緑の銀の蛇が萌葱様ね。大変よ。紫の銀の蛇は母君の桔梗の方っていうの。夫を早くに亡くしているから、当時は彼女が事実上のトップだったの。」
前世の私はそんな蛇の将軍家のような相手と恋愛して、結婚を反対された末に殺されちゃったってことよね?悲恋だけど、蛇が相手だと思うとぞっとするわ。
「実は子供のころから不思議なことはいくつかあったんです。」
私はいくつかの不思議な体験を話した。
「息子がほれ込んだ人間であるあなたを許すまいと夢で大蛇を見せたり、金縛りにあわせたり、怖い思いをさせているのは桔梗の方ね。そして、守ろうとしているのは萌葱様。そして恋人にケガをさせるのも萌葱様。ヤキモチを妬いているの。あなたを守れなかった後悔と、そしてあなたが他の誰かと結ばれることに対するヤキモチ。蛇だけに執念深いわね。時代を超えてずっとあなたを呪っているのよ。」
「江戸時代だとしたら、千年以上も前ですよね?」
頭がついていかない。あのイケメンが萌葱という妖怪で、紫色の蛇がその母君で、ここまではわかったけど、時代を超えてまで生まれ変わった私に憑いているものなんて。
「あの記憶の続きが今、見えたわ。琴姫が桔梗の方に締め付けられてから、かみ殺されたの。萌葱様の目の前でね。」
「怖い…。」
「そうね。現場はすごい状態が見えているわ。痒いの?ちょっと見せて。」
言われて気づいたけど、私は腕をかいていた。腕をマコさんに差し出したときに、どんな状態になっているのか、初めて目にした。
「何これ~!」
鱗のようなアザが朝よりもさらに広がってきていた。しかも色が黒っぽくなって、ますます鱗に近づいている。もしかして、顔も?バッグから小さな鏡を取り出して恐る恐る覗き込むと、額から瞼までだったアザが目の下まで広がって、しかもこちらも黒っぽくなっている。
「急速に広がってきたわね。時間がないわ。ここで始めましょうか。」
「始めるって、何をですか?」
「対決に行くの。手を握って。」
ぽかんとしているうちにマコさんが私の手を取る。そして私が手にわずかに力を入れた瞬間、何かが吹き飛ぶ感覚がした。




