記憶。
ああ、またこの夢だわ。私が赤い打ち掛け姿で庭園を歩いている、この夢。
玉砂利を踏みしめて庭園を歩いていると、視界にキラキラしたものが入る。いつものかんざしね。
そしてもうすぐ、謎のイケメン君が登場するのよ。ほら。足音がしているもの。
「琴姫様。本日も麗しい。」
「萌葱様。」
声がした方を振り向くと同時に私は、すらりとした目元の涼やかなその男性をそう呼んだ。時代劇に出てくるイケメンみたい。淡い緑色の和装がよくお似合いだわ。
初めてこの二人の名前を聞いた。いつもはご対面した瞬間に夢が終わってしまうから。私は琴姫で、このイケメン君は萌葱様という名前なのね。
気づくと私は和装のイケメン君、もとい萌葱様に手を取られて歩いていた。
「母上とお会いしていただきとうございます。」
「はぁ…。」
よくわからないけど、この人のお母様に会うのね。
今日は夢が終わらないなあ。
広い和室に通されると濃い紫色の和装の女性が座っていた。
萌葱様に促されて座るなり、その女性は声を発した。
「どちらの蛇の姫君ぞ?」
じゃ?
「こちらの姫君は人間にあられます。」
「ほう。人間の姫君とな。そなた、蛇になる覚悟はできておるのだろうな。」
人間とか「じゃ」とか、何なの?
「その様子だと、萌葱よ、話しておらぬようだな。」
「すみませぬ。」
「まあ、良い。我々は銀の蛇の一族なるぞ。そしてこの萌葱は御前(将軍、大名のこと)になる身。その御台所(正室:本妻のこと)にならんとするならば、そなたも人間のままでは迎えらぬ。」
「人間の身でありながら、我が息子をたぶらかしおって…。蛇にもなれぬというのであらばこの娘、生かしておくわけにはいかぬ。」
鋭い目付きの彼の母親らしいその女性の顔はみるみるうちに鱗に満たされていった。そして次の瞬間、光沢の豊かな紫色の大蛇に姿を変え、あっという間に私の身体に巻き付いた。
「母君、おやめください!私が、このことを琴姫様に話さなかったのには、訳があります。
人間になりとうございます。」
「ならぬ。そなたは亡き父君の跡を継ぎ、当主に、御前になる者。この娘が蛇になる以外の道はない!」
気づくと彼も、光沢に溢れた銀色の大蛇になっていた。
はあ?何コレ?ワケわかんないんですけど~!こんな夢、早く終わって~!




