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第03話 実に舐めた口をきく野菜製造機ですね?

信仰度という設定を追加しました。(2018/4/25 12:40)


少女に野菜を振る舞い続けること数時間。


筋肉痛の痛みに震えるが、野菜の供給を止められないのには理由がある。


先程うっかり野菜の供給が間に合わなかったことがあった。その際にあろうことか腕ごと食いちぎられそうになったのだ。


隣の部屋にいたのは絶世の美少女だと思ったら、やっぱり化け物だったらしい。


永遠にも思える肉体労働に終わりが訪れた頃には、既に日が暮れかけていた。人参がゲシュタルト崩壊寸前だ。


「そろそろ私めの野菜にはご満足いただけましたでしょうか?」


少女は純白の衣に包まれたお腹をさすっており、年齢に似合わない豊満な胸が揺れている。

しかし、特に穣に声はかからない。何とも言えない空気に耐えられず、穣は少女にそう話しかけた。


「ふぅ。500年ぶりにまともなものを食べられました。ん?野菜、というのですか?大儀でしたよ。ところであなたは誰ですか?」


眼前の穣にようやく興味が移ったようだ。


「え?あ、申し遅れました。私、向田穣と申しま…」


いつもの癖でスーツの胸ポケットにしまってある名刺を取り出そうとしたが、筋肉痛で腕が上げづらい。


それに、目の前にいる少女は美少女とはいえ子供にしか見えない。敬語で名刺を差し出すのもなんだか違う気がするし、見た目10代半ばの少女が500年以上の時を生きているとは到底信じられずについつい思ったことを口走ってしまう。


「ハハハ、お嬢ちゃん。500年とは…また面白い冗談だね。持ちネタかな?」


「私が最高神、スフィア=ソレイユと知っての物言いですか?最高神である私が嘘を言っているとおっしゃるのですか…実に舐めた口をきく野菜製造機ですね?」


がっつり怒られてしまった。

いやいや、誰が野菜製造機だよ、誰が!


「とはいえ穣、あなたに助けられたのは事実です。あのままの状態ではいずれ力を失い、ただ消滅を待つだけでした。大義に報いあなたと契約を結び加護を授けましょう。」


野菜製造機呼ばわりに異議を唱える間もなく、スフィアと名乗った自称女神が契約を持ちかけてきた。


契約ね…社畜には重い言葉だよね。こちとら契約一件取るにも死に物狂いなのに、自分がそんなにホイホイ契約を結んでもいいものだろうか。


そう逡巡していると、穣の迷いを悟ったのかスフィアが上から目線で宣う。


「最高神の加護などそう得られるものではありませんよ。身に余る光栄に咽び泣き地を転がりなさい。」


めちゃめちゃ尊大だなこの女神様。

うーん、契約を結ぶかどうかは内容にもよるよね。


「契約って、どんな内容なの?」


「そう難しいものではありません。あなたが生み出す食べ物を私に献上する代わりに、私の権能の一部を加護として譲渡するといった内容ですジュルリ」


欲望が口から垂れ流しですよ女神様…


しかし、悪い契約ではない気がする。

先程スフィアに人参と玉ねぎを振る舞い続けたが、供給が途絶える気がしなかった。


どうやら無限に野菜を生み出せるらしい。

無限に生み出せるのならば、デメリットは無いに等しいだろう。供給がスフィアの食事ペースを下回ったときだけが心配だが。


あとは加護の内容が気になるところである。


「ちなみに、加護はどんなものが与えられるの?」


「最高神の権能には様々なものがありますが、私は長い幽閉されていたので、消滅を防ぐことに力の殆どを使ってしまいました。それに最後の力でそこの石壁を破ってしまいましたし…」


流石の最高神と言えども、永きに渡ってなんのエネルギー供給もなければその力を失っていくものらしい。


というか、さっさと壁を破って逃げればよかったんじゃないか?


「石壁には最高神の私ですら破れない封印が施されていたのです…」


そう言ってスフィアは穣をまじまじと見つめる。


「見たところあなたの魂はこの世界の人間のものではありませんね。思えば、私が石壁を破れたのはあなたの転移にこの封印に費やされている魔力が割かれたおかげかもしれません。」


スフィアは唇に手を当て何やら思案している様子。

ぶつぶつと異世界人である穣にはよくわからない設定めいた事を呟いている。


「異世界転移には膨大な魔力が必要なはずですが、封印自体は微弱ながらまだ生きているようです。さすがは最高神すら破れぬ封印といったところでしょうか…そんな封印を施せる魔王となると…」


「あぁ、鉄格子が開かなかったのはそういう仕掛けがあったからなのか…というかやっぱり異世界なのか…」


先程びくともしなかった鉄格子。鍵もついていないのに何故動かないのか不思議に思っていたが、封印なんていう未知の仕掛けが働いていたらしい。


やはり、異世界において、野菜を生み出すスキルだけというのは心許ないので少しでも自分にできることは増やしておきたい。


穣は既に異世界で生き抜く覚悟ができていることに自分でも多少驚きながらも改めて譲渡できそうな加護がないか聞いてみた。


「あなたが生み出した食べ物によって貯まった信仰度で譲渡できそうな権能は…スキルで生み出したものを自由に動かすことができる【自在化】だけですね。」


「信仰度?」


「はい。献上した食べ物の質と量で私は下々の信仰を試しているのです。言うなれば神の試練ですね。私は神ですから、信仰度が低い者に加護を与えることはできません。信仰度を貯めて譲渡できる権能を開放する、あなたの世界風にいえばポイントカードみたいなものだと思いなさい。」


「おぉ…ポイントカードとは。神が口にするにはちょっと俗物過ぎないかな…一気に有り難みがゴニョゴニョ」


何故かスフィアは穣が元いた世界の事情にも精通しているらしい。


そして、【自在化】か。野菜を自由自在に動かせるようになる…のかな?

人参や玉ねぎを意のままに操るって…あんまり強そうじゃない。


だか、今の状況を理解するにも情報が全然足りていない。

現状把握は仕事の基本だし、契約すれば女神様にいろいろ教えてもらえるかもしれない。


穣は与えられる加護【自在化】でどのようなことができるかは一先ずおいておき、情報収集のためにスフィアと契約をすることに決めた。



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