第15話 ムコーダとお野菜をかけて…ベジーダなんていかがですか?
「まずは、こちらにお名前をご登録下さい。」
ニコニコ顔の受付嬢が小さな端末を渡してくる。タブレットPCのようだがこれも魔道具だろうか。
しかし、名前か。
棺が言うにはアチクダでは異世界人であることは伏せていおたほうがいいんだったよな。
向田穣で登録すると異世界人だとバレバレだし、どうしたものか。
(名前で悩んでいますね?神である私が天啓を授けましょう。)
スフィアが脳内に直接話しかけてきたので顔を見ると、自信に満ちたツヤツヤの顔をしている。
なんだか悪い予感がする。
(あ、いや、結構です…)
(まぁまぁ、そう言わずに。自信作ですから。ムコーダとお野菜をかけて…ベジーダなんていかがですか?)
「ダニィ!?」
「どうかされましたか?」
いかんいかん、思わず声が出てしまった。
受付のお姉さんが怪訝な顔をしているので、適当に愛想笑いをして誤魔化しておいた。
(どこの戦闘民族の王子様だよ。却下で!)
「なにが気に入らないというのです。ベジーダ。」
「まぁ、ベジーダさんと言うのですね」
受付嬢がスフィアの言葉に反応する。
それを聞いた棺が吹き出した。
「べ…ベジーダくん、早く冒険者登録を済ませてダンジョンに向かいましょう。ま、間に合わなくなっても知らないわよ。」
貴様ぁ!ぷるぷる震えながらその名を呼ぶなぁ!
ぶっ殺されてぇのか!
「ベジーダさん、次はこの魔道具をつけてください。スキルを鑑定しますので。」
穣が名前を中々入力しないため、痺れをきらせた受付嬢が勝手にベジーダで登録してしまった。
そして、ヘッドホンに四角くて緑色のレンズがついている魔道具を差し出してくる。
「これを…かけるんですか?」
「はい、これを右目にかけてくださいね。」
後ろを振り返ると、魔物の換金待ちと思われる冒険者が列を作り始めていた。
早いところ、言われるがままに魔道具を右目にかけるしかないようだ。
電子音がなり、レンズの部分に異世界文字が並んで行く。
「…戦闘力たったの5か。ゴミめ。」
ぼそっと棺が呟いた。
それを聞いたスフィアがアッヒャッヒャと大爆笑している。
周りの人たちは好奇の目を向けているが大丈夫だろうか…
「スキル《野菜製造機》…?初めて見るスキルですけど、直接的な戦闘に使用できそうなスキルではないですね。このスキルだとEランク冒険者からスタートとなりますがよろしいでしょうか。」
「はい…」
「諦めないでください!食料を供給できるスキル保有者は一定の需要があるのでパーティを組んで成果を上げ続ければ、ランクは絶対上がりますからね!頑張ってください!」
受付嬢の娘さん、めっちゃいい子だ…。
魔道具をつけている穣を指差しながらゲラゲラ笑っているうちの女性陣に爪の垢を煎じて飲ませたい。戦闘民族の王子様に失礼だろうが。
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名前とスキルを登録して無事に冒険者登録完了かと思いきや、穣とスフィアは受付の奥にある待合室に通された。
新規登録者はギルドマスターと面会する規則になっているらしい。
質の悪い一部の冒険者のせいで冒険者全体の信頼が落ちると、街での活動もしづらくなるのは想像に難くない。
アチクダはならず者も多いため、冒険者の品格を落とさないためにもある程度ふるいにかける必要があるのだろう。
スフィアもちゃっかり冒険者登録を済ませている。
スキルを偽造して《算数が得意》にしてあるので穣と同じEランク冒険者だ。
受付嬢は不思議なスキル名に怪訝な顔をしていたけども。
ちなみに棺はAランク冒険者らしい。
《厄災の箱》を始めとして《鑑定》や《異空間収納》など、強力なスキルを保有しているので当然といえば当然だろう。
その棺はというと、
「面会している間に商業区画でダンジョン攻略のための物資を買ってきておくわ。…食材とかね。」
と言って買い出しにでかけている。
頼みましたよ!棺!と力を込めてスフィアが送り出したことは言うまでもないだろう。
しばらく待っていると、先程の受付嬢が声をかけてくれた。
「お待たせしました。こちらでギルドマスターがお待ちです。」
待合室から少し離れたところに、黄金に輝くドアがあった。
先導してくれた受付嬢がノックをして中の人物に声をかけた。
「ヒツギさんが連れてきた新規の冒険者登録希望の方々をお連れしました。」
「ご苦労さん。中に入ってくれ。」
扉の向こうから、野太い男の声が帰ってきた。




