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第12話 あれ、毎回言うのかな?

アチクダまでの道中は、穣にとってまさに地獄だった。

スキルと加護の成長のためという名目で奈落付近の超強力な魔物と命のやり取りをさせられたのである。


最初は、棺がお手本を見せてくれることになった。


相手はグレンオーガという体長3メートル程の地獄の鬼で、燃え盛る巨大な右腕が特徴だ。

頭髪が炎のように逆立っており、真っ赤な眼が爛々と輝いている。コワイ!


「動きが単調で雑魚だから。よく見て参考にしてね?」


棺はそう言うが、とても雑魚には見えない…。

穣たちを見つけるや否や雄たけびを上げながら距離を詰めて右の豪腕を振るってきた。

が、棺は冷静に豪腕の軌道上に立方体を出現させてそれを防いだ。


ゴオン!という激しい衝突音のあと、砕けていたのはグレンオーガの拳だった。


そして、いつの間にかグレンオーガの頭をすっぽり立方体が覆っており、勢いよく回転しだした。

グレンオーガは体ごとブンブン振り回されていたが、やがてブチッと首が千切れる音がしてあっけなく巨躯が崩れ落ちた。そして宙に浮く立方体。

立方体がみるみる収縮し、砕けるように消えたと思ったら真っ赤な何かが地面に転がった。


「ね?簡単でしょ?さぁレッツトライ♪」


「レッツトライ♪じゃないよ!」


冗談じゃない。圧倒的過ぎてまったく参考にならなかった。

あまりの出来事に呆気にとられていると、地響きとともにもう一体グレンオーガが近づいてくる。


「ほら、もう一体来たわよ!危なくなったら助けてあげるから頑張りなさい!」


「神の契約者のクセに、あの程度の魔物にビビっているとは…私の顔に泥を塗るつもりですか?穣、ゴーですよ。」


え、ちょっと酷くないですか?


気がつけば、グレンオーガの燃え盛る腕がすぐそこまで迫っている。

慌てて横っ飛びし、辛くも回避成功。


じりじりと後ずさりながら逃走の算段を立てるが、退路を複数の立方体が塞いだ。


え、だからちょっと酷くないですか?


退路もなく、迫りくる腕は避け続けることなどできない。

いつか捕まってしまう。


いや、もう覚悟を決めてやるしかないのかもしれない。

覚悟さえ決めたならば、やることはシンプルだ。


攻撃は最大の防御。

今の穣ができる攻撃で最もシンプルかつ強力なものを実行する。


それはつまり、グレンオーガの足元にブロッコリーを出現させ拡大することだ。

ブロッコリーはみるみる成長し、グレンオーガを遥か空の彼方に連れて行く。


ある程度ブロッコリーが育ったところで、素早く縮小。


空中に置いていかれたグレンオーガはばたばたともがいているようだが、もう遅い。

辿る結末はただひとつ。自由落下である。


3mの巨躯が物凄い速度で地面に激突し、轟音と土煙を立てた。

それと同時にブロッコリーがグチャッ、と圧縮された。


遠くに聞こえてくる「んほぉぉお!」というスフィアの声。

「え、ちょ、いきなりどうしたの?」という棺の声。

・・・あれ、毎回言うのかな?


土煙が晴れていき、倒れたままのグレンオーガの姿がうっすら見えてきた。

そしてそのまま二度と起き上がることはなかった。


---------------------------------------

それからも襲い来る魔物を屠っていった。


迫り来るラビットバイソンの群れは拡大したキャベツを空から落とし、ペシャンコにした。


空から飛来するワイバーンは、体内に大量のたまねぎを出現させ、地に落とした。そのあとただたまねぎを拡大させればよかったことに気がつき、体の中から爆散させた。


マンゴーのような甘い匂いで獲物を誘い捕食する恐るべき魔物、エビルマンゴーはスフィアが食べた。


ほか犠牲になった魔物複数匹。


結果、《自在化Lv5》、《収縮・拡大Lv3》まで成長した。


さらに《多重化》という加護も開放できた。

今まではひとつずつしか野菜を出せなかったが、これで複数の野菜を一瞬で多重展開できるようだ。


肝心の《野菜製造機》は特に変化しなかったようだ。残念。


しかし、これまで命のやり取りなど無縁だったのだ。

2徹3徹どんと来い的な強靭な社畜ではあるが、精神的にも肉体的にも限界を迎えそうでけっこうやばい。


何とかこらえてしばらく歩くと巨大な外壁が目に入った。

すでに朝日が登っている。


「見えてきたわ。あれがアチクダよ。」


ようやく、初めて異世界の都市にたどり着けそうだ。


-要塞都市アチクダ-

奈落からの魔物の侵攻が人間界の中で最も激しく、巨大な外壁と屈強な軍人が人間界を守る最前線都市。


武功を立てて国に高い地位をもらうことを目論む「傭兵」や、近隣にいくつかあるダンジョンで一財産を築こうとする「冒険者」などで賑わっている。


棺が言うには、アチクダでは、無用のトラブルを避けるためにも異世界人だということは隠しておいたほうがいいらしい。


この都市では腕さえ立てば多少の素行の悪さは目をつぶられるため、ならず者も多く存在するからだ。

最前線都市の性質上、実力至上主義なのは仕方がないことなのだろう。


また、異世界人は強力なスキルを保有していることが多いため、武功を横取りされることを恐れた傭兵が何かと突っかかってくる。


棺はそれを知らずに何度かトラブルに巻き込まれたが、そのことごとくを蹴散らしており、今では皆が恐れていて近づいてくるのは相当なもの好きだけになったと嘆いている。


穣はなるべく人を殺めたくない。万が一トラブルになったときのために対人間用の手段を考えておく必要があるかもしれない。


ぼんやりとそう考えながら、アチクダの門へと向かっていった。


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向田穣:元社畜

◆保有スキル

 《野菜製造機》

  野菜を無限に製造できる。

◆スフィア=ソレイユの加護

 《自在化Lv5》

  スキルで生み出したものを自在に操れる。

  任意の場所に野菜を出現させることができる。

 《収縮・拡大Lv3》

  スキルで生みだしたもののサイズを変える。

  もとの大きさよりも小さくすることはできない。

 《多重化》

  スキルで生み出すものを同時に多重展開できる。

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