008 開の告白と龍馬さんの月日同盟案
「どうした、開君。突然大きな声を出して」
「す、すみません」
「開や、お主まだ、こだわっとるのか、さっきチャクラコードをつなげて、
魔力回路を修復してやったじゃろう。
それに、こっちの世界に来とるから、20歳で魔力が止まるとかいう
ヨミヨミの世界での規則からも外れておるから、
これから魔力も上がっていくはずじゃぞ、安心せい」
「はい、そのことに関しては、天照様に本当に感謝しているんです。
僕が、不安なのは、月読様の方法をそのまま取り入れると、
第二、第三の僕のような人間が、生まれてくる可能性があると思って・・
それが気がかりなんですよ」
「第二の開君とは?」龍馬さんの疑問に、
開は、自分が10歳までは、毎年、魔力がグングン増えて、
地元では神童と呼ばれていた事。
そして10歳のとき、妹を助けるために、魔力回路がズタズタになるまで
魔力を使ってしまったため、それ以後は、ほとんど魔力創造が
出来なくなってしまったまま、20歳を迎えてしまった事。
月本人は、20歳以上で魔力が増加する人はいないため、
開も、これから先の人生ずっと、政府から魔力補助を受けて、
細々と生きていかなければならなくなった事。
そのため、自分の存在意義が感じられず、不平不満だらけの
心境になってしまった事などを話した。
「なるほどのう、全員を魔力持ちにすると、
事故で魔力が出なくなった人間はそうやって
自分の存在意義が見いだせなくなるのか、そりゃ辛いのう」
「うーんしかし、魔力持ちが少ないと、魔力弾丸や、魔力絹が創れんぞ
妾としては、この魔力銃で、白人どもの侵略を防いでほしいんじゃがのう」
「ほんなら、薩長同盟のように、日月同盟を結ぶっちゅのはどうですかのう」
「日月同盟ですか」
「おうよ、月読様の制度を、天照様風に少し変更して導入するんじゃ、
両親が日元神道を信仰しておる家で生まれた赤子には、
生まれた身分に関係なく、平等に魔力回路を開かせる。
ここまでは月本国と同じじゃが、日元国では、物心がついてくる
5歳ぐらいから、その本人自身に、日元神道への信仰心が無ければ、
魔力が創造できないようにするんじゃ。
具体的に言うと開君のように、信仰深い人なら、朝起きると、きっと
神棚に向かって、二拝二拍手一拝をして、天照大神への祈りを捧げるじゃろう、
そして、その日一日、農民として、あるいは職人として、あるいは商人として、
他人様の役に立つように、頑張って働くじゃろう、夜は夜で、寝る前には、
今日一日、自分はどんな生き方をしたか、もし神様に見られていたとしても、
恥ずかしくない生き方だったかを思いだして、
間違った所があったなら、そこを反省して、明日はもっと改善して生きようと
決意してから寝ているじゃろう」
「いえいえ、僕はそんなに真面目で信仰深い人間じゃないですよ」
「たとえばの話ぜよ、それに対して、別の者は、朝起きても、お祈りもせずに、
他人を騙したり、脅したりして、他人様の役に立つどころか、
他人様に迷惑ばかり掛けて、一日を過ごしたとするじゃろ。
この二人の生き方を天上界から、天照大神さまに判定してもらって、
それに見合った分の魔力を、その人が寝ている間に降ろして
もらうようにするっちゅうのは、どうじゃろうか」
「なるほど、それは、すごくおもしろい考え方だと思います。
でもそれだと、毎日、天上界で、天照様が人々の心境を
判定しなきゃならないから、大変ではないでしょうか」
「ふん、妾を誰じゃと思うておる、天照大神じゃぞ、
この日元列島を1万年に渡って毎日、照らし続けて来た者じゃぞ。
地上の人間の心境に応じて、魔力を降ろすのなんて、わけないわ、
というよりも、神の光とは、元々、神に親和性のある者には、
より多く降り注ぐようになっておるのじゃよ。
霊的に見れば、神の心に近き心境で生きておる者の頭上の
クラウンチャクラには、滔々と、天上界からの光が流れ込んでおるし、
逆に、神の心と遠き心境の者のクラウンチャクラには、
ヘドロのような物が詰まっておって、天上界からの光なんて、
一滴も流れ込んでおらんわ」
「そうなんですか、じゃあ、龍馬さんの案でいけるんですね、
でも、これって日月同盟っていうより、公武合体、日月合体案のような・・」
「おう、そうかもしれんが、細かいことは気にするな」
「そうですね。でもよかったです、これで、
信仰心ある人たちがコツコツ努力する程、
幸せになれる社会の実現に近づけますね。
そうすると後は、あまり見せたくないんですが、
これも上手く活用できないですかね」と
開は自分の黒い魔力パスポートを取り出した。
「これは、魔力パスポートといって、月本人が出生届を出すと、
全員に、もらえる身分証明書のようなものなんです。
明治になってできた制度なんです。
初は、ただの紙の身分証明書だったそうなんですが、
先ほどの人工水晶のコーティング技術が開発されてからは、
段々に進歩して、今では魔力が100万MPまで貯められて、
お財布代わりになったり、離れた人と会話が出来る、
電話という機能や、龍馬さんも長崎で撮ってもらった、
写真の撮影機能などが付いているんです」と
スマホのようになっている魔力パスポートを説明した。
「な、なんじゃこれは、写真が動くのか・・」
150年前の日元国の上空には、GPS用の情報衛星も飛んでいないので
(月本国では、60機もの人工水晶を動力源とする人工衛星が飛んでいて
いつも10機ほどの人工衛星が月本国上空に滞在するようになっている
そのため、月本国のGPS機能は、誤差1cm未満で、通信も衛星を介して
直接やり取りする場合も多く、離島や僻地でも快適に繫がるのだ)
ナビ機能やメール機能が使えないので、
写真や動画を見せながら、龍馬さんに、魔力パスポートが
どんなモノなのかを説明した。
さらに、その人が持つ魔力創造量と、魔法の得意分野によって
魔力パスポートの色と輝きの度合いが違ってくる事。
具体的には、1日1000MP以上創造できる魔力がその人の基本色で
赤色が肉体強化系魔力、黄色が光系魔力、青色が知力系魔力
緑色が調和系魔力、紫色が礼節系魔力、銀色が科学系魔力、
白色が医療系魔力の7色系統に分かれている事。
(1000以下しか魔力創造が出来ない人には茶色と黒色があることも)
1日の魔力創造量が1000~9999MPが月本人の平均で、レベル3と呼ばれ、
1万~9万9999MPがレベル4、10万~99万9999MPがレベル5、
100万~999万9999MPがレベル6と
レベルが上がるほどパスポートの輝きが増していき
1日に1000万以上のMPを創造できるレベル7の人はマスターと呼ばれ
尊敬を受けている事などを話した。
「なるほどのう、その状況で、どんなに努力しても魔力がほとんど創造できず
黒色パスポートで、政府から魔力を補助してもらって生きることしか
できないなら、儂でもへこむかのう。
しかし、これからは、信仰心があって、日々、神の心に近づく生き方を
している人間ほど、魔力創造量が上がっていくようにするんじゃから
大丈夫じゃろう」
その後、3人で話ながら、新たな魔力創造量の大枠を決めていった。
大枠を決めたというと、偉そうだが、実際には天照様が教えてくれた
地上ユートピア創造に必要な要素の公式
地上ユートピア=信仰心×情熱×年数 を具体化しただけだった。
これは、5歳の子供が普通に信仰心を持って、
朝夕のお祈りをしてから、普通に生きている事を前提に
2400×1(情熱)×1(年数)=2400MPとして、
これを1日の魔力創造量の基本数値レベル3とし
情熱の量と活動年数によって魔力創造量が増えていくのだ、
1万~9万9999MPがレベル4、
10万~99万9999MPがレベル5、
100万~999万9999MPがレベル6、
そして1000万超えがレベル7の枠組みは変えなかったが
龍馬さんの発案で、新たな試みも導入することにした。
「ありがとうポイントですか?」
「おう、この魔力パスポートは、通信機能があって
手紙も送れるんじゃろう」
「ええ、まあ」
「なら、簡単ぜよ、朝夜お祈りをした者には、天上界から
ありがとうポイントを、夜のお祈りをした直後に
魔力創造の1割分(平均240P)程降ろしてもらうんじゃ。
このありがとうポイントは、ほうっておくと1時間程で
消えてしまうようにするから、自分で貯め込む事はできんのじゃが、
お世話になっている人には、送信で、贈れるようにするんじゃ、
そして贈られてきた、ありがとうポイントは
一生消えないようにするんじゃよ」
「その、誰かから送られて来たありがとうポイントは、
魔力やお金に変換したりできるんですか」
「いや、なんにも変換できんよ」
「え、じゃああんまり意味が無いんじゃ・・」
「いや意味が無いことはないのう、例えば選挙で、
どの政治家に投票しようか悩む時に、あるいは、会社の人事担当者が
誰かを採用しようとする時の、考える目安の一つになると思うぞ」
「確かにのう、あの、縮れ毛の泣き虫小僧も、よう考えるようになったのう。
だったら妾から提案じゃが、そのありがとうポイント240P分で1日、
240×365=87600Pで1年、87600×50=438万Pで、
最大50年程、若返れるというご褒美はどうじゃ?」
「若返れるのですか?」
「妾を誰じゃと思うておる、日元神道の主宰神じゃぞ」
「失礼しました」
「分かれば良い、それで例えばじゃが、65歳の定年まで、真面目に働き、
多くの人から感謝されて生き、ありがとうポイントが440万ポイント程
貯まっているとしよう。
そんな老人が、妾の伊勢神宮にお参りに来て、祈願すれば、
50年程若返って、15歳の青年に戻れるようにするんじゃ。
家族との問題もあるから、あくまでも、本人が望めばじゃがのう」
「15歳って高校生ですよね、そっか、また別の高校に行って、
別の大学に行って、別の人生を歩めるのか、奥さんも若返っていれば、
またその人と結婚してもいいし、別の出会いもあるかも、あ、でも
それなら、65歳で一旦離婚してないといけないのか、まあその辺りは
当人同士の話し合いでいいのか・・。
ああ、でもなんだかおもしろそうですね。
他人から感謝される生き方をすれば、もう一度人生を楽しめるのか」
「でもそれじゃあ若返りたくて、今度は逆に、不正に、
ありがとうポイントを集めようとする人が出てくるんじゃ・・」
「それなら心配いらんな、元々、純粋の祈りでなければ、
天上界からの光なんか降りんからのう。
だから、そんな輩のところには、ありがとうポイントが降りてこんし、
万が一、脅して、他人から、送らせよとしても、キャンセルできるように
することなど簡単じゃよ」
「なるほど」
その後も、3人で、日元国が発展繁栄していくためのアイデアを
出し合っていった。
そして大枠としては、
・この後に起こるであろう、戊辰戦争等の内乱を極力抑え、
人材の損失を少なくしていくこと。
・教育機関を充実させて、日元国全国から、優秀な人材を多数輩出する事。
・広い信仰心で、白人の中でも協力できる人達とは協力し、
やがて出てくる{マルクス教}の唯物論信者達と対抗し、
キリスト教もイスラム教も仏教もユダヤ教も、神道も、
親神様はみんな一緒という考えで、仲良くし、
信仰心ある国々が発展繁栄する世界を目指す事。
・魔力パスポートを創り、ありがとうポイントを贈れるようにして、
他人から感謝される生き方をした人には、本人の希望により、
最大50歳若返ることができる事。(魔力パスポートは、最初は
日元国のみで発行するが、キリスト教でもイスラム教でも、
親神は一緒だという信仰を持つ者には、地球神(天御祖神)さまに
許可をもらってから発行する予定)
「おお、いいのう、薩長同盟ならぬ、親神様一緒国同盟じゃの、
儂も命あるかぎり手伝うぜよ。
でも、とりあえずは、会津を中心とした幕府軍との戦を
できるだけ、回避することを考えんといかんのう、
開君の知っちょる、月本国での今後動きを教えてくれんかのう」
「あ、はい」
開は、鳥羽伏見での戦い、江戸城を無血開城したものの、
不満分子による、上野の山での戦い、宇都宮での戦い、
会津での戦いや、函館での戦いを説明した。
「なるほどのう、260年続いた体制が変わるんじゃ、
変わりたくないっちゅう気持ちも分からんではないが、
戦は避けたいのう。
ああ、そうじゃった、今日は、儂の誕生日を祝ってくれるって、
愼の字が、洋菓子のケーキちゅうもんを持って来てくれる
ちゅうことじゃき、天照大神さまと、開君も顔を出してくれんかのう、
そこで、今の話を愼の字にもしてやってもらえると、
今後、動きやすいんじゃがどうだろう」
「え、慎の字って中岡慎太郎さんですか、もちろんですよ」
開は坂本龍馬だけでなく、歴史小説の登場人物に会えると聞き心が躍った。
「そうか、じゃあ、ちょっと遅くなったけど、
近江屋に移動しようか、今日で儂の33歳になるぜよ」
「え、龍馬さんの33歳の誕生日って・・、じゃあ今日は
11月15日なんですか!」
「おお、そうじゃけど、お主、儂の誕生日までしっちょるのか」
「ま、まずいです龍馬さん。僕の知っている歴史だと、
龍馬さんは、33歳の誕生日の日に、近江屋で、
中岡慎太郎さんと一緒に暗殺されてしまうんですよ!
まさか、今日がその日なんて、いや日元国では歴史が
違っているのかも・・」
「なんじゃと」龍馬は、開のつぶやきを聞くと、
脱兎のごとく料理屋を飛び出した。